MIRAI Timesのメインテーマのひとつ「SDGs」についてはすでに知っているという人も増えてきました。しかし、
「SDGsとは何の略?」
ときかれて即答できる人はそれほど多くないかもしれません。
SDGsは、「Sustainable Development Goals」のことで、日本語では「持続可能な開発目標」といいます。子どもから大人まで誰にでもわかりやすいスローガンとしては、もう少し簡単な言葉でもよかったかもしれません。
しかし、SDGsの17の目標にとって「サステナブル(Sustainable)=持続可能」こそ大切なキーワードなのです。「持続可能な開発」とはかんたんにいうと、将来の世代の環境を損なうことのない開発のことです。「ごみ」「過剰なCO2」などを次世代に残さず、海や陸のゆたかさを引き継ぐ必要があります。
今回は、「サステナブル」「サステナビリティ」とは何か、環境関連だけでなく社会全体にとって重要なテーマとなっているのはなぜか、について解説します。
SDGsの17の目標からみえてくる、サステナビリティの重要性
ここで、SDGsの17のゴールを再確認します。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
1~5には貧困や飢餓をなくし、人権を守るといった「人」にかかわる課題が挙げられています。
6~12は経済基盤や成長にかかわるテーマです。
13~15は直接環境保全に言及しています。
16~17では平和・公正・パートナーシップが欠かせないことを示しています。
SDGsは幅広く網羅的に世界の課題を取り上げています。SDGsが17もの目標を一挙に示したのはなぜでしょうか。それは、この17のテーマが互いに関わり合っているからです。
ひとつ例を挙げます。
途上国に雇用を創出するプロジェクトで、「プラスチック製のおもちゃ」製造工場を作るとしたらどうでしょうか。安価な原材料を輸入して組み立てる軽作業なら多くの人を雇用できそうです。しかし、プラスチックのごみを増やしてしまい「14 海の豊かさを守ろう」「15 陸の豊かさも守ろう」の目標に反してしまいます。このような開発は「サステナブル=持続可能」とはいえません。
他の目標もかなえるよう、たとえば原材料として地域の木材を使用し、さらに森林資源の再生事業も同時に実施すれば、そのおもちゃ工場はサステナブルに近づきます。
もうひとつ、SDGsのなかで特に緊急の課題とされる「13 気候変動に具体的な対策を」についても考えてみましょう。以下は国別のCO2排出量の図です。
出典)EDMC/エネルギー・経済統計要覧2022年版/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より
人口が多い中国・インド・ロシアの二酸化炭素排出量が多いこと、経済大国アメリカのほか日本、ドイツ、韓国なども排出量が多いことがわかります。
一方、温暖化の影響はCO2排出国とは別の地域に表れます。温暖化により氷河が融け、海水面が上昇することによりツバルやモルディブなどの国には水没の危機が生じています。また、世界では気候変動によって増加した水害や山火事により住まいや農地を失う人もいます。
2020年には英国とスウェーデンの団体が共同調査で「過去25年間の人類によるCO2排出量に占める世界の1%の最富裕層の排出量は、人類の半分を占める31億人の最貧層全体の倍以上に相当」というデータを報告し、「最貧層は温暖化によって引き起こされる洪水や気が、サイクロン等の脅威にさらされ、もっとも重い負担を背負わされている」と"気候不平等"の現状を指摘しています。
気候変動は新たな食料不足、貧困などを引き起こします。つまり上記の「1 貧困をなくそう」「2 飢餓をゼロに」「3 すべての人に健康と福祉を」などの目標とかかわっています。
日本に住むわたしたちが少しでもごみやCO2排出量を減らすことは、世界全体のため、そして遠い国の誰かのためでもあるのです。
以上のように、SDGsの17目標のどれか一つに取り組むとき、他の目標もかかわってきます。グローバル化した世界は縦横につながりあっていて「他の目標は後回し」というわけにはいきません。関連性のあるSDGsのテーマを取りこぼさずバランスよく進めていくには「持続可能かどうか」に目を向ける必要があります。
「持続可能な開発」という概念が定着するまで
「持続可能な開発」「Sustainable Development」という言葉が幅広く使われるようになったのはいつからでしょうか。
1987年、ノルウェーのブルントラント首相(当時)が委員長として公表した「環境と開発に関する世界委員会」の報告書『Our Common Future(邦題:我ら共有の未来)』では、以下のように述べています。
「いまや人類は、こうした開発と環境の悪循環から脱却し、環境・資源基盤を保全しつつ 開発を進める「持続可能な開発」の道程に移行することが必要である。」
当時は酸性雨、砂漠化、オゾン層の破壊などの環境問題が深刻化していました。報告書では、地球環境に配慮しながら開発を続けていくために国際社会が協力することが不可欠とされました。
その後の主な動きは以下です。
1992年 | 「国際環境開発会議」(地球サミット)ブラジル・リオデジャネイロで開催 「アジェンダ21」を採択 |
2002年 | 「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグ・サミット) 日本からは小泉総理大臣らが参加 「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」などを採択 |
2012年 | 「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)リオデジャネイロ開催 「我々の求める未来」を採択 |
これらの動きがMDGs、SDGsへと引き継がれていきます。
持続可能な社会の条件、ハーマン・デイリーの3原則とは
サステナブルな社会、持続可能な社会とはどんなものでしょうか。
1970年代にアメリカの学者ハーマン・デイリーが提唱した「持続可能な発展の3つの原則」が今も参考になります。
持続可能な社会の条件 ハーマン・デイリーの3原則
- 再生可能な資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない。
- 再生不可能な資源の消費ペースは、それに代わりうる持続可能な再生可能資源が開発されるペースを上回ってはならない。
- 汚染の排出量は、環境の吸収能力を上回ってはならない。
1. 再生可能な資源の消費ペースは、その再生ペースを上回ってはならない。
再生可能な資源とは自然界の動植物などのこと。魚を獲りすぎれば資源としての魚が種を維持することができなくなります。森林資源を利用するときは、同時に植林していく必要があります。また、農薬を使って農地が使用できなくなれば、土地の再生を損なってしまったことになります。肉や乳製品はどうでしょうか。家畜の生産では多くの飼料や水、エネルギーが必要で、資源を使いすぎることが問題視されています。人が生きていくために自然界の動植物を資源として活用することは避けられません。しかし、「再生ペースを超えて使いすぎない」ことが重要です。
2. 再生不可能な資源の消費ペースは、それに代わりうる持続可能な再生可能資源が開発されるペースを上回ってはならない。
再生不可能な資源の代表は「化石燃料」、つまり石油や石炭です。かつては石油や石炭の枯渇が心配されていましたが、今は化石燃料が排出するCO2の削減が重要課題となっています。鉱物資源も「再生不可能」な資源に分類され、鉄やアルミニウムなどのベースメタル、レアアース、レアメタルなどが含まれます。一方、再生可能資源とは、「太陽光」「水力」「風力」のように自然界に豊富に存在するものと「木材」「水」「バイオマス」のような、使った分だけ再生をしていくものとがあります。
3. 汚染の排出量は、環境の吸収能力を上回ってはならない。
3つめは「排出」の問題です。大きく、水や空気の汚染とごみとに分けられます。 燃料を燃やしたときに排出されるCO2は、植物の光合成によって吸収・分解されますが、現代のCO2排出量はその吸収能力をはるかに超えています。工場や生活による排水は、浄化して自然界に戻します。近年問題視されている海洋ごみの多くは、自然界で分解できないもの。3つのR(Reduce、Reuse、Recycle)、によりできるだけ減らす必要があります。
以上、ハーマン・デイリーの3原則は、持続可能な社会にするために欠かせない条件を明示しています。しかし残念なことに、現実はこの原則からほど遠いものとなっています。
次で確認していきます。
4. 「持続可能」とはいえない日本と世界の現状
まずエネルギー事情についてみていきます。
現在、日本でも世界でも、再生可能エネルギー比率が十分に高いとはいえません。資源エネルギー庁の資料によれば、電力量に占める水力を除いた日本の再エネ比率は10.3%、最も再エネ発電が進んでいるドイツでも32.5%となっています。(2019年度)
主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較
(出典)IEA「Data Services」、各国公表情報より資源エネルギー庁作成/経済産業省 資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/)より
化石燃料は発電だけでなく車のガソリンやプラスチックなどの原材料としても使われます。日本の全エネルギー供給比率の推移をみると、化石燃料依存度は1973年度の94%から2016年度は89%と、減少してはいるものの、再生可能エネルギーへの転換はきわめて歩みが遅いことがわかります。
日本の一次エネルギー供給構成の推移
(出典)資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2019年度確報値/経済産業省 資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/)より
次に、世界のCO2排出量を確認します。
以下は過去250年間の世界のCO2排出量の推移です。
出典)IPCC第5次評価報告書/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より
1850年以降で排出量が増え始め、第二次世界大戦後の1950年頃から急上昇していること、直近ではアジアや中東・アフリカの割合が増えていることがわかります。
2021年8月、国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の新たな報告書は、地球温暖化の危機的状況について以下を導きだし、グテーレス事務総長は非常事態を訴えました。
「向こう数十年の間に二酸化炭素およびその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は 1.5℃および 2℃を超える。」
人類が経済的・社会的に許容できる気温上昇幅は1.5度が限度とされています。今すぐ、あらゆるレベルで行動することが求められています。
5. 「持続可能な開発」でめざす「持続可能な社会」とは
サステナブルという言葉は最近いろいろなところで使われるようになってきました。冒頭で、「持続可能な開発」とは、「将来の世代の環境を損なわない開発のこと」と述べました。この「将来も続けられる仕組みづくり」という考え方が社会全体に広がっています。
持続可能な社会とは、あらゆるレベル、分野においてサステナビリティを実現する社会のことです。
持続可能な社会とは | |
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個人のくらし | 一人ひとりが日々の生活のなかでサステナビリティ実現を目指す
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経済・企業 | 企業やNPOの事業活動でサステナブルなアクションを実践していく
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まち・地域 | 町や地域でサステナビリティ実現を目指す
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国際社会 | 世界全体のサステナビリティ実現が目標
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※使われなくなったものや売れ残ったものを、よりよい質や環境に優しい製品につくり替えて販売すること。
一人ひとりの日々の行動が重要であると同時に、企業や自治体などの組織がサステナブルな仕組みをつくり実践していくことも欠かせません。また、経済では世界全体の資金がサステナブルな事業に使われる「ESG投資」も重視されています。
最後に示したように、紛争や不平等のない、誰もが安心してくらしていける世界であることも重要です。一人ひとりが将来にわたって安心して生活していける、そして社会全体が平和で豊かに維持される、いわば「人のサステナビリティ」がなければ、SDGsを前に進めていくことができません。
MIRAI Timesでは、表に示した「サステナブル・ファッション」「サステナブル・フード」などについても今後別の記事で取り上げて解説していきます。
6. SDGsにおける「サステナビリティ」とは、将来世代が平和で豊かなくらしを続けていけること
ご紹介してきたように、SDGsが掲げる「サステナブル」の対象はとても幅広いものです。
1970年代に発表されたハーマン・デイリーの「持続可能な社会の3条件」は資源・消費・汚染に注目した原則で、そこから50年後の現代社会はこれすらも実現できていません。
しかし、デイリーが提唱するような地球環境のサステナビリティ実現のためには、人の平等や平和も欠かせないという認識が共有され、SDGsの17の目標が生まれました。
SDGsにおける「サステナビリティ」とは、未来へ向けて地球の豊かな自然環境を引き継ぐことです。
まとめ
SDGsは「Sustainable Development Goals」「持続可能な開発目標」のことです。関連しあう17の目標へのチャレンジを同時に進めていくためのキーワードが「サステナビリティ」です。
持続可能な社会の条件として1970年代にハーマン・デイリーが発表した「持続可能な発展の3原則」が今も指標として有効です。日本も世界も現在、この原則を満たしておらず、持続可能とはいえません。
サステナブル=持続可能という言葉は幅広く使われ、企業や地域のサステナビリティも重要だと認識されるようになってきました。わたしたちがSDGsで目指すサステナビリティとは、将来世代が平和で豊かなくらしを続けていけることです。
この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)
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