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コラム

コロナ禍で外出自粛の期間中に、衣服の整理・片付けをしたという人も多いと思います。
環境省のデータによると、日本人1人あたり1年間の衣服消費・利用状況は以下のとおり。

  • 新たに購入する枚数は約18枚
  • 手放す服は約12枚
  • 着用されない服は約25枚

毎年多くの服を購入。不要な服を手放してもまだ多くの「着ない服」がクローゼットを埋めている、という状況がみえてきます。

今回は、衣食住のうち「衣」のサステナビリティがテーマです。ファッション産業の最新事情と課題を確認した後、一人ひとりが実践したいサステナブルなファッション・ライフについて考えていきます。

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アパレル・ファッション産業の環境負荷はどれくらい?

環境に負荷をかけている産業というと、エネルギー、自動車、化学製品などの高付加価値産業を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし実は、アパレル・ファッション産業は環境負荷が非常に高い産業です。国連貿易開発会議(UNCTAD)の報告では世界2位の汚染産業としています。

2019年3月、国連がこんな見出しで始まる記事を掲載しました。

「ジーンズ一本を作るのに必要な水は約7,500リットル。これは1人が7年間で飲む量に相当します。」

ジーンズを作るとき、染色や漂白の工程で大量の水を使用します。ジーンズに限らず、綿のTシャツ1枚でも約3000リットルを必要とします。
国連のニュースサイトのこの記事とその関連情報に、アパレル・ファッション業界がもたらす環境負荷についてのいくつかのデータが示されています。

「世界の温室効果ガス排出量のうち、繊維産業によるものは10%」

ほかに「衣料品と履物の製造で8%」という表現もありますが、いずれにしてもかなりの割合です。同時に、航空業界と海運業界の合計を上回るエネルギーを使用しています。使う資源も排出するCO2も多い産業だとわかります。

「世界の排水のうち、繊維産業によるものは20%」

ファッション産業では染色の工程で多量の水を使用します。染色に使用される化学物質に汚染された排水がときには浄化されずに自然界に排出され、環境問題となっています。

「衣料品の生産量は2000年から2014年までの間に2倍」

5年の間に生産量が2倍になっているということは、ファッション産業の拡大ともいえますが、5年の間に人口は2倍になっているわけではなく、「1人の顧客により多くの服を売る」というビジネスモデルだったといえます。

「15年前と比べて1人当たり平均6割多くの衣類を購入している一方で、平均的な着用期間は半分になっている」

シーズンごとに多くの服が手ごろな価格で店頭に並ぶことで、消費者が購入する点数も増え、かつ不要になる服も増えました。しかし5年で生産量が1人あたり2倍になっているのに15年で1人が購入する量は1.6倍なので、売れないまま廃棄される衣類も増えていると考えられます。

「繊維素材のほとんどは再利用可能であるにもかかわらず、その85%は最終的に埋め立てまたは焼却処分されている」

製造工程で発生する余剰素材や売れ残った衣類など、ファッション産業全体で多くの繊維素材が蓄積し、その85%を再利用することなく「捨てて」しまっています。

「ファッション業界は毎年、約50万トンのマイクロファイバー(石油300万バレルに相当)を海洋に投棄」

ポリエステルやナイロンなど化学繊維の衣服を洗濯機で洗うと、微細なプラスチックのマイクロファイバーが下水処理のフィルターをくぐりぬけて海まで流されます。これも深刻な問題です。

「日本では不要となった衣料品が毎年約100万トン廃棄され、その9割が埋め立てまたは焼却処分」

経済産業省から日本の数字が報告されています。多くの衣料品が不要になり、そのほとんどがリユース・リサイクルされることなくゴミとして捨てられています。

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なぜファッション業界は環境負荷が高いのか

ファッション産業が水やエネルギーなど多くの資源を使い、CO2の排出割合も高いのはなぜでしょうか。背景には古くから続いてきたファッション産業特有のしくみと、2000年代以降で急拡大した「ファストファッション」ブームがあります。
グローバルに活動するファッション企業は、世界中から安価で原材料を調達し、労働力などのコストが低い工場で生産し、世界中に製品を届けてきました。そんな企業行動を細かくみてみましょう。

主原料である天然繊維と化学繊維、どちらも環境負荷が高い

衣類の主な原材料は天然繊維と化学繊維です。天然繊維の代表である綿の栽培には大量の水が必要で、同時に農薬や殺虫剤を使用しています。また、ウールの原料である羊毛採取では動物虐待が指摘されることもあります。一方の化学繊維は石油を原料とする素材で、海洋のマイクロプラスチックの一因となっています。

世界に広がる長いサプライチェーンがCO2を排出する

グローバルに展開するファッション企業のサプライチェーンは世界に広がっています。たとえば、ブラジルで調達した綿花をバングラデシュの工場で繊維に加工、さらにベトナムで縫製して最終製品として欧米や日本へ、というように。輸送段階でも多くのCO2が発生します。

リユース・リサイクルのしくみが整備されていない

不要となった衣類は「燃えるごみ」として捨てることができるため、消費者は手間もかけずに処分できます。また、化学繊維と天然繊維の混紡素材をリサイクルすることが技術的に難しかったことも一因です。近年日本国内でもリユースマーケットが成長しつつありますが、リサイクル・リユースされる衣類の割合はわずかです。

このような特徴があるファッション産業に、2000年代以降で「ファストファッション」が急拡大しました。

2000年代以降、日本にもファストファッションブームが到来

2008年のリーマンショック以降、海外のファストファッション「H&M」(スウェーデン)「FOREVER21」(アメリカ)「ZARA」(スペイン)などが日本に進出しました。
これらのブランドのビジネスモデルは、「流行に敏感」「安い」「サイズ・色展開が豊富」というもの。各社は毎シーズン新たなアイテムを提案して「ファストファッションで毎年何点も服を買う」というライフスタイルが定着しました。国内ブランド「UNIQLO」「しまむら」などもこのブームに参加していきました。

ファストファッションにより、消費者にとってはおしゃれを安価に楽しむことが可能になりました。しかし、毎年新しい服を購入するということは、不要な服を1シーズン限りで処分するということでもあります。また、色とサイズを豊富に揃えることで、ショップには売れ残りが多くなります。

「衣料品の生産量は2000年から2014年までの間に2倍」になったと前述しましたが、その要因はファストファッションであったと推察できます。

国連がSDGsを採択したのは2015年。その当時全盛期だったファストファッションの「大量消費モデル」は、しばらくののち、国連やSDGsを意識する人たちから環境への影響を指摘されることになりました。

そして世界では、ファストファッションからスローファッションへのシフトが起きています。

ファストファッションから「スローファッション」へ。

2010年代、おしゃれを手軽に楽しめるファストファッションのブームを経て、消費者は少しずつ変化してきました。

2020年、ある日本の企業がコロナ禍のファッション志向についてのアンケート調査結果を公表しました。服に対する価値観を複数回答で質問したところ、以下のような傾向が確認されました。

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出典 エステー 衣類への価値観に関する意識調査(対象:成人男女) (https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000272.000010075.html)

「長く着られるようなお気に入りの服を少しだけ持ちたい」と考える人が増加
「価格が安くても、服をたくさん持ちたい」と考える人が減少

また、「スローファッションを取り入れたいですか」という質問には、約6割が「すでに取り入れている」「今後取り入れていきたい」と回答。スローファッション志向が定着していることがうかがえます。

スローファッションとは、ファストファッションの逆の価値観です。
「価格が安い流行の服をたくさん」というファストファッションに対して、スローファッションは「長く着られる服」「お気に入りの服を厳選」というスタイルです。
両者のちがいを以下にまとめています。

【ファストファッションとスローファッションの比較】

  ファストファッション スローファッション
特徴
  1. ファッショナブル
  2. 毎年の流行を取り入れている
  3. おしゃれ
  4. アイテム数が多い
  1. シンプル
  2. 自分に似合う
  3. 着心地がいい
  4. 一点ものもある
価格 安い 高い
品質 耐久性に乏しいものもある 丈夫、縫製が丁寧
色展開 カラフルな色も豊富 ベーシックな色が多い
サイズ展開 豊富 サイズ展開は少ないが、体型を選ばないデザインも多い
※ジャストサイズのオーダーメイドもスローファッションの一つ

ただし、従来のファストファッションブランドも消費者の傾向に合わせたリブランディングを進めています。各社とも

  • リサイクル素材を取り入れてそれをアイテムごとに明記
  • 店にリサイクルボックスを設置
  • 企業としてサステナビリティ目標を宣言

などの取り組みを進めています。

スローファッションはサステナブルで、ファストファッションはサステナブルではない、とはいちがいにはいえず、消費者の「見る目」が問われます。今後、服を選ぶときには、服そのものを気に入るというだけでなく、その服を作っている企業に「共感でき賛同できるか」ということも基準となりそうです。

サステナブルファッション、スローファッション、エシカルファッションの違いは

ファストファッションに対するスローファッションについて紹介してきましたが、サステナブルファッションとはどう違うでしょうか。
また、環境にやさしい服を表すエシカルファッションという言葉もあります。

ファッションにおけるサステナブル、エシカル、スローの違いは何でしょうか。

サステナブルファッションとは

サステナブルとは「持続可能な」の意味で、ファッションの場合なら衣類を提供する企業の活動が将来の世代の環境を損なうことなく続けられるかどうかが問われます。 素材の調達・使用するエネルギー・製造工程・輸送手段・リサイクルシステムなどサプライチェーン全般、および店舗やオフィスの設備までが、サステナビリティの対象です。再生可能エネルギーの使用などで脱炭素・カーボンニュートラルを目指す具体的な目標、具体的な取り組みも欠かせません。3つの言葉のなかで最も基準が明確で、厳密な表現です。

エシカルファッションとは

エシカルとは「倫理的(Ethical)」の意味。したがって環境や人への配慮がされているかどうかが基準となります。たとえば以下のような視点です。
人にやさしい:従業員の労働環境が守られている
環境にやさしい:環境負荷を抑えている、廃棄物を最小限にする、動物を傷つけない
社会にやさしい:地場産業や地域の雇用を守っている

スローファッションとは

「安くておしゃれで種類豊富」なファストファッションの対極の概念として位置づけられます。スローファッションは長く着られる服として作られているためファストファッションと比較して価格は高めです。服選びのポイントは以下です。

  • 自分らしさを表現できる
  • 着心地がいい
  • 長く着られる

サステナブル、エシカル、スローの定義はそれぞれ違いますが、「どんなファッションが選ばれるのか」という結果は似ています。
「古着」を例にとると、新たに資源を使用せずリユースされたからCO2排出量が少なくてサステナブル、環境や人に負荷をかけていないからエシカル、他にはない一点もので長く着られるからスロー、というように、どの視点にもあてはまります。

あまり基準にとらわれず、上記の中で自分が大切だと思える価値観にしたがって服選びをしてみてもいいかもしれません。

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企業・行政・国際組織のサステナブルファッションの取り組み

近年の国際組織・国・企業のサステナブルファッションへのアクションの例として以下があります。

ファッション業界気候行動憲章(Fashion Industry Charter for Climate Action)

ファッション業界の企業43社が名を連ね、2018年に発表されました。2030年までに温室効果ガスの排出量を30%削減すること、2050年までに廃棄物を完全循環させ、CO2排出量を正味でゼロにする「ゼロ・エミッション」を達成することなどが示されています。現在までに日本からはアシックス、ファーストリテイリング、YKKなどが参加しています。

ファッション協定(THE FASHION PACT)

2019年、ファッション企業32社が署名した協定で、フランス・ビアリッツで開催されたG7サミットに提出されました。「気候変動」「生物多様性」「海洋保護」の観点からファッション産業の実践目標を掲げています。日本からは2020年にアシックスが参加しています。

フランス 法律で衣料の廃棄を禁止

2019年、フランスは衣料、家電、衛生製品、化粧品など非食品の売れ残りの廃棄処分を禁止する法律を制定しました。リサイクルや寄付を義務付け、循環経済を促進します。
(食品を廃棄せず寄付を義務付ける法律は2016年公布済み)

環境省「SUSTAINABALE FASHION」ページを新設

環境省では2021年、サステナブルファッションを啓蒙するページを開設しました。
サイト内では日本のアパレルマーケットが縮小しているのに供給量が増加、1着あたりの単価が30年前に比べて半分に低下など「ファストファッション化」を示すデータが紹介されています。

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出典 環境省「SUSTAINABLE FASHION」(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/)

ファーストリテイリング 脱炭素化を促進

UNIQLOやGUを展開するファーストリテイリングは、サステナビリティ活動のなかで6つの重点領域(マテリアリティ)を特定し、各領域で目標やコミットメントを掲げ、その達成に向けた活動を行っています。環境分野においては気候変動への対応、エネルギー効率の向上、水資源の管理、廃棄物管理と資源効率の向上、化学物質管理の5つの領域に注力しています。

RICOH 水を使わない印刷技術を提供

衣服の染色工程では多くの水とエネルギーを消費します。RICOHは水を使わずに綿製品への印刷ができる技術の開発に取り組み、小型のガーメント(衣料)プリンター「RICOH Ri 100」を提供しています。

わたしたちは何をする? サステナブルなファッション・ライフとは

サステナブルに作られた服を吟味して選び、長く着られるよう適切に手入れ。不要になった衣類はゴミとならないよう、処分方法に工夫。わたしたちは、サステナブルなファッションとの付き合い方を模索・実践していくことが求められています。

サステナブルなファッション・ライフのポイントは以下の通りです。

1. 服を選ぶ前に、できるだけ生産者情報を知る

サステナビリティに関心の高い企業はWebサイトにSDGsアクションなどを明記しているので、取り組みについて知ることができます。ただし、どこまで本格的にサステナビリティに取り組んでいるかまではWebの文面だけではわかりません。
本当に責任ある消費行動をするためには、第三者によって書かれたニュースや客観的な調査レポートなどからも情報を得る必要があります。とはいえ、寒くなったのでコートが欲しいとき、購入前に企業情報をネットで徹底的に調べるというのは現実的ではありません。日ごろからSDGsや企業のサステナビリティに関する情報にアンテナを張り、気になるニュースを読むことで、自分の中に選択の基準がおのずとできていくでしょう。

2. 第三者認証のマークを参考にする

忙しくて企業情報など調べられないという人は、衣服についている認証マークを参考にしましょう。下図の「エコマーク」や「オーガニックテキスタイル世界基準認証」「国際フェアトレード認証ラベル」などがあります。

エコマークGOTS認証国際フェアトレード認証ラベル

ただし、マークによる認証制度の基準は厳しいので、サステナブル、エシカルにあてはまるファッションでも認証マークがついていないこともあります。

3. 「本当に購入するべき服」だけを買う

極端にいえば、「購入しないほうがサステナブル」です。よく考えて必要な服だけを厳選して買いましょう。店頭では、「熱心なお店の人に申し訳ないから」「希望のサイズがなかったのでワンサイズ上で」などの妥協をせずに、本当に長く着られる服か、好きな服かを考えて選びましょう。結果的には自分の満足感が得られ、サステナビリティにもつながります。

4. 着回しやすい服を選ぶ

「オンとオフどちらもOKのジャケット」「インナー・アウターどちらでも着られるトップス」など、多様なシーンで着回せるデザインがおすすめです。基本はベーシックな色とデザインですが、鮮やかな色や少し変わったデザインでありながらいくつかのパターンでコーディネートができるアイテムもあります。

5. 手入れがしやすく丈夫な服を選ぶ

上質なコットンや麻のシャツは洗うほど柔らかくなり風合いが増すといわれます。こうした服は、少し価格が高くても日々の手入れの手間が少なくて済み、長く快適におしゃれを楽しめます。

6. 適切に処分する

吟味して購入したけれど似合わなくなったり着られなくなったりした服は、誰かに譲ったりフリマアプリを活用してできるだけリユース、リメイク。それが無理であれば、適切にリサイクルしましょう。

7. レンタル、サブスクなどを活用する

セレモニーで着る服はレンタル、日々の外出時のおしゃれはサブスク。洋服のほかバッグのサブスクリプションも人気です。自分が着てみたい服を自由に選べて返品交換も可能な各種の「シェアリングエコノミー」を活用しましょう。

8. 古着を買う

フリマアプリや専門店で入手できる古着を自分らしいおしゃれに取り入れる若い世代が増えています。古着の魅力は「一点物」ということ。手持ちの服と古着を合わせることでおしゃれの幅が広がります。

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まとめ

国連はファッション産業の環境負荷が高いことを指摘。「大量消費モデル」のファストファッションが世界的ブームになったことも要因となっています。
ファッションブランド各社はサステナブル経営へのシフトを図り、業界の国際的な協定の枠組みも進んでいます。
コロナ禍を経て日本でもファストファッションからスローファッションへと関心が移っています。
わたしたちにできることは、サステナブルに作られた服を長く着られるよう吟味して選び、手放すときにはリユース・リメイク。日々の暮らしで実践していくことが大切です。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標14海の豊かさを守ろうSDGs目標15陸の豊かさも守ろうSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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