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コラム

サステナブルデザインというとどんなものを思い浮かべるでしょうか。
「パッケージのない量り売りの食材」「地元の木材を使った建物」……これらはもちろんサステナブルデザインの1つです。しかし英語のdesignは形あるモノだけでなく、形のないものも対象で、「計画する」「立案する」といった意味があります。

英語の意味にしたがえば、サステナブルデザインの対象は、個人・企業・地域・社会・国などあらゆるものすべてが対象となります。

今回は、経済や社会で今、必要とされている「世界をサステナブルにデザインし直す」試みについてご紹介します。

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「サステナブルデザイン」とは何か、なぜ必要なのか

企業や地域、個人のくらしは、残念ながら今も持続可能ではありません。このためSDGsは、世界を持続可能にするための具体的な目標とアクションを明示しました。

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SDGsは世界中の地域・人・組織が取り組むべき目標です。誰もが取り組めるよう、17のゴールと169のターゲットが具体的に示されています。

しかし、現在までの目標達成状況は順調ではありません。特に気候温暖化に歯止めがかかっていないことが大きな課題です。

SDGsの169のターゲットのいくつかには数値目標が設定されています。期限として設定された2030年に確実に目標を達成するため、今年はどこまで進まなくてはならないかが数字で示されています。

ゴールが設定されたとき、必要となるのが「バックキャスティング」の思考法です。
バックキャスティングとは、将来のある時点で到達する目標を決め、そのために今どうすべきかを未来からさかのぼって考えることです。これに対して、過去の延長線上にある今の時点であるもの、できることをふまえ、そこから将来を予測することは「フォアキャスティング」と呼ばれます。
高い目標、難しい課題をクリアするには「バックキャスティング」の思考が必要です。

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出典:地球の未来を宇宙から考えるメディア Beyond Our Planet(https://www.rd.ntt/se/media/article/0022.html)

SDGsは2030年までに17の目標を達成することを目指しています。それが将来の姿であるなら、2025年までにはどうなっているべきか、来年までならどうか? バックキャスティングではゴールと現在を結ぶ時間軸を細かく刻み、必要なアクションを落とし込んでいきます。このとき、「従来の方法」「既存の枠組」にとらわれず、今までとは違った発想でリソース(人的資源や資金、技術)を組み換え、デザインし直すことが欠かせません。これが「サステナブルなデザイン」です。

ビジネスは「カーボンオフセット」から「カーボンニュートラル」へ

まず企業活動からみていきます。以下は、日本のCO2排出量がどの部門からのものかの内訳です。

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出典:温室効果ガスインベントリオフィス/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より

間接排出量とは、各部門が使う電力やガソリンなどのエネルギーのCO2排出量を最終需要部門ごとに配分した値で、どの部門がCO2を多く排出しているかの実態が見えやすくなります。

図から、全体の8割以上を経済活動部門が占めていることがわかります。したがって各企業に課せられたCO2削減への責任は重大です。とはいえモノやサービスを提供する企業活動でCO2排出をゼロにするということは非現実的です。そこで目標とされているのが「カーボンオフセット」や「カーボンニュートラル」の考え方です。

カーボンオフセットとは、企業などがCO2排出削減努力をしたあとにどうしても排出されるCO2について、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、埋め合わせをするという考え方です。しかし「排出量の埋め合わせ」が本当に埋め合わせになっているか明確でないなどの問題が指摘されました。

カーボンニュートラルはカーボンオフセットの問題点を改善した目標です。CO2排出量と同量のCO2を吸収・除去することにより、差し引きでCO2排出量をゼロにします。植林や緑化によりCO2を吸収できますが、トータルでゼロにするためには相当のCO2削減努力が必要です。CO2除去の方法としては、
「CCUS」(CO2を集めて埋めて役立てる)
「BECCS」(バイオマス燃料の使用時に排出されたCO2を回収して地中に貯留する)
「DACCS」(大気中にすでに存在するCO2を直接回収して貯留する)
などが検討されていて、今後さらに研究開発が進められます。

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サステナブルな「サーキュラーエコノミー」の実現が目標

もうひとつ覚えておきたいのが「サーキュラーエコノミー」という概念です。循環型経済と訳されます。サーキュラーエコノミーにはいろいろな定義がありますが、国際的にサーキュラーエコノミーを推進する「エレン・マッカーサー財団」によれば以下となっています。

サーキュラーエコノミーの3原則

  1. 廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)をする
  2. 製品と原料を使い続ける
  3. 自然システムを再生する

サーキュラー・エコノミーは、企業のサステナブルデザインを具体化するうえで役立つ概念のひとつです。

持続可能な活動に世界のお金を投資する「サステナブルファイナンス」

「ESG投資」がすでに知られています。ESG投資はE(Environment=環境)、S(Social=社会)、G(Governance=ガバナンス)の視点から企業を評価して投資することで、非ESGと比較して中長期的にはリターンが多いことが認識されています。

サステナブルファイナンスとは、ESG投資を含む幅広い金融サービスをさす言葉です。ESG投資の成果をふまえ、小口融資や債券、クラウドファンディングなどにサステナブルファイナンスが広がっています。

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出典:東京都政策企画局(https://2021.tsfw.tokyo/what_is_sustainable_01)

サステナブルファイナンスのキーワードは以下の3点です。

サステナブルファイナンスのキーワード

  1. トランジション…着実に低炭素化・脱炭素化へと移行する
  2. グリーン…再エネ等、脱炭素化を図る
  3. イノベーション…革新をはかる

特に「トランジション」が最優先課題とされ、気候変動分野への「クライメート・トランジション・ファイナンス」が取り上げられることが増えています。

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経済界のサステナブルデザインの事例

企業や金融機関がサステナビリティ実現のために今までにない試みに着手しています。以下にいくつかの例を挙げます。

世界の金融機関220社、グローバル企業1600社に1.5度目標の設定を求める

2021年10月のCOP26に先立ち、世界の220の金融機関が、グローバル企業1,616社に対し、世界の気温上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑える温室効果ガスの排出量削減目標を設定するよう求めました。署名した金融機関の資産総額は米・中・EUのGDPを上回り、1,616社の時価総額は約4,600兆円と、世界に対してインパクトのある規模です。

グーグルやネットフリックスなどが気候変動対策への投資拡大に向け企業連合を設立

2021年6月、気候変動対策への企業投資を拡大することを目的とした企業連合「Business Alliance for Scaling Climate Solutions(BASCS)」(https://scalingclimatesolutions.org/)が設立されました。設立企業としてアマゾン、ディスニー、グーグル、マイクロソフト、ネットフリックス、セールスフォース、ユニリーバ 、ワークデイが名を連ね、環境防衛基金(Environmental Defense Fund)や国連環境計画(United Nations Environment Programme)、WWFの3機関が連携します。

チャールズ国王、世界の保険業界と連携

英チャールズ皇太子と世界有数の保険・再保険市場である英ロイズ・オブ・ロンドン(ロイズ保険組合)は6月、「持続可能な市場のためのイニシアティブ(SMI: Sustainable Markets Initiative)保険タスクフォース」を創設しました。ロイズのほか、AIG、アリアンツ、アクサ、ビーズリー、リーガル・アンド・ジェネラル、東京マリンキルンなど17社が参加しています。

世界で合意した各国のサステナビリティ実現

国のサステナブルデザインはどうなっているでしょうか。

2020年10月、菅首相は臨時国会において「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。これは世界にとって大きなニュースとなりました。

これまでに欧州やアフリカの国々の多くが2050年カーボンニュートラルを宣言しています。

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出典:経済産業省資源エネルギー庁「COP25におけるClimate Ambition Alliance及び国連への長期戦略提出状況等を受けて経済産業省作成(2021年1月20日時点)(https://climateaction.unfccc.int/views/cooperative-initiative-details.html?id=94)

しかし、30年近く先の目標よりもまず、SDGsの設定ゴールである2030年までにできるだけCO2を削減することが重要です。これについて各国の目標は以下の通りです。

主要国のCO2排出削減・2030年の達成目標
日本 2013年比46%~50% 削減
米国 2005年比50%~52% 削減
EU 1991年比55% 削減
英国 1990年比68% 削減
中国 2030年までに排出量を削減に転じさせる

先進事例として、エネルギーの脱炭素化により前倒しでサステナビリティを実現しつつある英国をご紹介します。

イギリス 2024年に石炭火力発電を全廃

2012年、イギリスの石炭火力発電依存度は40%でした。しかしエネルギー政策の転換を進め、2020年、電力構成は風力24.2%、バイオエネルギー12.6%、ほかに太陽光、水力合わせた合計43.1%、石炭依存度は1.8%まで減少しました。2025年までに石炭火力発電を全廃する目標を24年に前倒しで達成する見込みです。

冒頭で述べたように日本は従来目標を引き上げました。目標達成は簡単ではありませんが、世界が定めた目標へのコミットメントは国の成長や経済成長のチャンスにもなります。
菅首相の宣言を受け、2021年10月の閣議決定で示された地球温暖化対策計画の数値目標は以下の通りです。

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出典:環境省「脱炭素ポータル」(https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20211028-topic-15.html)

2020年12月、環境省は2019年度のCO2排出量は6年連続で減少し、排出量を算定している1990年度以降、最も少なかった18年度を下回ったと公表しました。

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出典:環境省(https://www.env.go.jp/press/108734.html)

景気変動その他の要因もあると推測されますが、2013年以降でCO2排出量が減少を続けているのは望ましい傾向です。さらに脱炭素化への対策を加速化していくことが期待されます。

都道府県・自治体の「ゼロカーボンシティ」へのチャレンジ

各都道府県はどれくらいCO2排出があるのでしょうか。環境省の公式Webサイトに掲載されていた現況の推計値は以下の通りです。

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出典:環境省「部門別CO2排出量の現況推計」より千葉商科大学が作図(https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/suikei.html)

図より、CO2排出量にはばらつきがあること、千葉県や愛知県、兵庫県などでは産業部門の割合が大きいことなどがわかります。地域の実情に合ったCO2削減策を進めていく必要があると思われます。

環境省では地方公共団体のゼロカーボンシティ表明をとりまとめて公表しています。それによると、「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を2021年10月までに表明した自治体は以下の通りとなっています。

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出典:環境省(https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html)

すでに多くの都道府県と自治体が「2050年カーボンゼロ」を宣言していることがわかり、日本全体のカーボンニュートラルも達成できるのではと感じさせる状況です。

2021年、内閣府に設置された「国・地方脱炭素実現会議」で自治体のゼロカーボンシティ目標達成のためにまとめられた戦略によると、2025年までは政策を総動員する期間とされ、少なくとも100カ所の脱炭素先行地域をつくる方針です。

2025年に世界初のカーボンゼロ都市が誕生する予定です。最後にその事例をご紹介します。

コペンハーゲンは2025年カーボンゼロへ

デンマークの首都コペンハーゲンが2025年カーボンゼロのプランを作ったのは2012年。市内では徒歩、自転車、公共交通機関、電気自動車が推奨されています。エネルギーは風力、バイオの割合を増やし、発電所で発生するCO2を回収し地中に埋める技術開発も進めています。2012年でもすでにサステナビリティ先進地域であった同市の市民が「くらしが大きく変わった」と戸惑うほどの変革が進んでいます。

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今すぐ実践! 持続可能な食生活のために私たちができること

さいごに、わたしたちの生活の「サステナブルデザイン」について考えてみます。
日本のひとりあたりのCO2排出量は7.6t。以下は、環境省が示した個人消費ベースでみたその内訳です。

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出典:環境省(https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/html/hj21010102.html)

家計消費が6割以上を占めています。この図からわかることは以下です。
・個人には生活で発生する約5tのCO2排出量を削減する責任がある
・CO2排出量を減らすためには衣・食・住・移動など生活のすべてを見直す必要
がある

国や自治体がカーボンゼロの目標を掲げたように、私たち一人ひとりも「CO2排出量5tをゼロに」という高い目標を掲げて、新たなサステナブルデザインを描き、実践することが求められています。

もったいないだけじゃない、「フードロス」は世界の大問題。世界の取り組みや「食品ロス削減推進法」などを紹介
できることから実践! SDGs17のゴールと169のターゲット

まとめ

本記事においてサステナブルデザインとは、経済や社会をサステナブルにするために、いままでのしくみをデザインし直すことと定義します。

サステナビリティの基準として2050年あるいはそれより以前のカーボンゼロ実現があります。企業の場合カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーなどの考え方で進めていきます。サステナブルファイナンスもカーボンゼロを後押ししています。

世界の企業、国や地域がカーボンゼロチャレンジを進行中です。わたしたち一人ひとりの生活でもCO2排出量削減への具体的なアクションを続けていくことが不可欠です。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策をSDGs目標14海の豊かさを守ろうSDGs目標15陸の豊かさも守ろうSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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