11月11日、市川市と千葉商科大学との包括協定による災害危機管理講座「大地震が来る前に、今 あなたができること~自分と大切な人のいのちを守るために~」がオンラインで開催されました。
講師を務めたのは、一般社団法人スマートサプライビジョン特別講師のかもんまゆさん。乳幼児の母親を対象にした「防災ママカフェ®」の他、企業や自治体とも連携しながら、さまざまな「防災講座」を全国で展開しています。
かもんさんが「防災」の重要性に目を向けたきっかけは、2011年の東日本大震災の後、被災した母子へ支援物資を届ける活動をしたこと。被災地の母親たちと話をする中で、「(災害は)テレビなどで見聞きしていたのとは全然違った」そうです。
「たくさんのママたちに、『全国の人たちに、どうすれば大事な人を守れるのかを伝えてほしい。亡くしてから考えるのでは遅いのだから』と言われました。あの震災であれだけ多くの人が亡くなったのに、社会が何も変わらないのでは意味がない。被災した人たちから教えてもらったことをお伝えすることで、一つでも守れる命を守っていただきたいと考えています」
かもん まゆ
一般社団法人スマートサプライビジョン特別講師/防災ママカフェ®主宰/防災士東日本大震災の被災地のママと子どもたちへの物資支援を機に、ママのための防災ブックを企画制作。現在、「ママが知れば、備えれば、守れるいのちがある」を合言葉に、「防災ママカフェ®」を全国で展開。全国300カ所以上、2万人(2021年9月現在)を超える人が参加した。
まずは「どんな敵がやってくるのか」を知ること
「近いうちに大きな地震がここ市川市に来ると思う人、手を挙げてください」
講座の冒頭、かもんさんは画面越しにこう呼びかけました。挙手で応えたのは、参加者の(50名のうち)半数程度。さらに「わが家の備えはそこそこ頑張っている」の問いではあまり手が挙がらず、最後の質問、「大地震が起きたら、子どもや家族のいのちを絶対に守りたい」では、大半の人が手を挙げました。
しかし、続いての「では、市川市に起きると想定される地震の最大震度と津波高、死者数を知っていますか?」との質問には、手を挙げたのはごく数名。地震や津波の可能性を認識してはいても、具体的な想定には至っていない人が多いことがわかります。
これに対してかもんさんは、「どんなことが起こるのかは知らない、そんなに備えていない、でも絶対に子どもや家族を守りたい、というのは無理がある」と指摘。ロールプレイングゲームを例に取り、「どんな『敵』が襲ってくるのかを知らないと、戦いにすらなりません。戦いに勝つために、まずは(1)どんな敵がやってくるのかを知る、(2)自分たち家族にはどのくらいの戦う能力があるのか、ないのかを知る、(3)敵のパワーと、家族の弱点のギャップを埋める武器(防災リュックや備蓄など)を準備する。この順番を忘れないでください」と述べました。
そこで、まずはその「敵を知る」ということで、地震の起きる仕組みについての解説から。私たちが住む地球は、パズルのように組み合わさった大きな岩──10数枚に分かれたプレートに覆われています。そのプレートが押し合ったり、割れたり、跳ね上がったりしたときに地震が起きるのです。
「子育て中の人は、子どもに地球にとっては人間のくしゃみのような、当たり前の自然現象なんだよ、そのくしゃみに吹き飛ばされないように、しっかり準備をしようね、ときちんと説明してあげてほしい」とかもんさん。「うちの子はまだ小さいから」「怖がるから」教えていないという人もいるけれど、経験上、「仕組みを教わっている子どものほうが、過度に地震を怖がらずに済む」と感じるのだそうです。
地震が起きたそのときにやるべきこと
では、その地震が実際に起きたとき、まずやるべきことは何でしょうか。何よりも大事なのは「『その瞬間』を家族で生きのびること」。いくら備蓄をしっかりしていても、防災リュックを整えていても、生きのびられなければ、地震の瞬間を何とかやり過ごせなければ意味がないからです。
ただし、震度7以上の揺れの最中に、しゃがんだり移動して逃げたりと「自分の意志で行動する」ことはほぼ不可能。だから、強い揺れでも家具が倒れないよう、あらかじめ金具やストッパーなどで止めておくことが重要になります。
そして、地震が収まった後に何より大切なのは、正しい情報を手に入れること。テレビは停電で見られない可能性が高いため、必ず用意しておきたいのがラジオ。また「災害時は必ずケガをする」「普段、簡単にできることもできなくなる」という前提で、止血パッドなど応急手当の用意も家族の人数分揃えておくべきだといいます。
事前に「用意しておく」ものとしては、すぐ思いつくのが防災食ですが、盲点になりがちなのが、口に合わなくても「非常時だから」で我慢できる大人と違って、小さい子どもは「おいしくない」と感じるもの、食べ慣れないものは食べないということ。かもんさんは、子どもが普段から食べ慣れているものを備蓄したり、平時に家族で試食して選んでおくことを勧めます。
「また、仮に食べたり飲んだりしなくても、人は4時間でトイレに行きたくなるといわれています。仮設トイレは和式が多くて小さい子どもや高齢者には使いづらい上、数が少なくて大行列になり、すぐに汚物があふれてしまうことも多い。家族が使える非常用簡易トイレは必ず準備しておいてほしいです」
その他、家族と離れた場所で被災した場合は、無理にすぐに会おうとせずにそれぞれの場所で安全を確保する、待ち合わせ場所は細かく指定しておく、地震が起きた後は子どもから決して離れない、避難経路を事前に想定しておく…平時からやっておくべきこと、頭に留めておくべきことは、たくさんあります。
『その瞬間』を生きのびるために準備しておくこと
- 家具はあらかじめ金具やストッパーなどで止めておく
- 携帯ラジオの用意
- 止血パッドなどの応急手当用品の用意(家族の人数分)
- 普段から食べ慣れているものを備蓄(または防災食を平時に試食して選んでおく)
- 非常用簡易トイレの用意
- 待ち合わせ場所を細かく指定しておく など
「自分は大丈夫」のバイアスを乗り越えて
さらにかもんさんは、東日本大震災の津波で、先生・児童84名が死亡・行方不明となった石巻市の大川小学校のケースを挙げ、災害時の心理状態についても触れました。
「津波が来ることはわかっていたのに、先生たちは児童を50分以上も校庭に留め、結果として多くの犠牲を出してしまった。おそらくはその場にいた先生たちは全員、「子どものいのちを守りたい」、その一心だったと思います。でも、極限状態に置かれたときに、直ちに身を守る正しい行動が取れる人は10%しかいないともいわれます。残りの人は、恐怖で固まってしまったり、パニックに陥ったり…おそらくは先生たちもそうだったのではないでしょうか。そうした状態で、全員のいのちを守れる判断と行動を取ることは非常に難しいのです」
さらに、災害時には誰の心にも「バイアス」が働きます。「まだ大丈夫だろう」「自分は助かるだろう」と、根拠なしに「大丈夫だ」と思い込んでしまう脳のメカニズム。それが情報と認知をゆがめ、避難をためらわせてしまうのです。
「2018年に西日本で起こった豪雨災害のときも、警報が出ているのに『まあ大丈夫だろう』と逃げずに家にいて亡くなった人がたくさんいました。『状況』で判断して、川が実際に溢れそうになってから逃げるのではなく、警報などの『情報』をもとに、『早めに』『注意報などの情報で』『安全なうちに』逃げるようにしてほしいです」
そのためにかもんさんが勧めるのが、近所の友人や家族と、「何時までにこうなったら逃げよう」「注意報が出たら逃げよう」など、「逃げ時」を決めておくこと。そうなれば、多少「大丈夫だろう」「面倒だな」という思いが働いても、予定どおり逃げられることが多いからです。
「自分や自分の家族だけは大丈夫だろう」──災害に対しては、誰もがどこかでそう思っている部分がありそうです。けれど、「自然災害は差別をしません。誰にでも同じように、容赦することなくやってくる」とかもんさんはいいます。「そして、自然の現象である災害を止められない以上、私たちに出来るのは必ず来るその時のために準備する、『備災』だけ。今出来ることを後回しにしない、自分と大切な人のいのちを人任せにせず、守れる人になりましょう」
大切な人みんながずっと笑顔でいられるように、今すぐにでも、できる限りの「備災」を──。かもんさんの呼びかけは、講座に参加した人みんなの胸にまっすぐに届いたのではないでしょうか。
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