SDGsやCSRに対する姿勢が問われる今、日本企業・団体はそれらにどう取り組んでいるのでしょうか。MIRAI Timesでは、SDGsやCSRに取り組む企業・団体の事例を連載でご紹介します。具体的な取り組み内容について、千葉商科大学の学生記者が取材しました。
第4弾は、福井県小浜市にある老舗の箸メーカー「株式会社兵左衛門」。取材に応じていただいたのは、同社 営業部の細井聡さん(写真左)と企画部の西村あゆみさん(写真右)です。
不要なバットを資源保護につなげる「かっとばし!! プロジェクト」
学生記者:御社では、2002年から折れたバットを箸などにリサイクルする「かっとばし!! プロジェクト」に取り組まれています。まず、プロジェクトの概要についてお伺いしたいです。
細井さん:「かっとばし!! プロジェクト」は、使われなくなったバットを回収し、箸などに再生・販売し、その売上の一部を「NPO法人アオダモ資源育成の会」を通じて、バット材であるアオダモの木の植樹や育成に寄付する取り組みです。
年間約2万本のバットを回収し、1本のバットから約5膳の箸を製造します。そして、10膳の箸を販売することで、アオダモ1本の苗木を購入することができます。このように「かっとばし!! プロジェクト」は、不要なバットを再利用することで、資源保護や自然環境保全につなげている活動です。
学生記者:どういう経緯で、このプロジェクトを始めることになったのでしょうか。
細井さん:プロ野球界を中心に年間10万本もの木製バットが消費され、使われなくなったバットが大量に焼却処分されていることをご存知でしょうか。一方で、良質な木製バットを製造するために用いられるアオダモの木は、特に北海道の日高地方で採れますが、充分に育つまでに70年~80年もの年月が必要だと言われています。
そのため、植林と消費のバランスが崩れ、アオダモの木が徐々に減少しています。こうした現状を解決するため、箸メーカーである私たちにできることは何かを考え、スタートしたのが本プロジェクトでした。
学生記者:バットから箸を製造することは容易なのでしょうか。
西村さん:実はバット以外にも、お神輿を担ぐ棒や枕木から箸を再生できないかと考え、取り組んだことがありました。しかし、切り出してみると曲がってしまったりと、箸の材料には適していないことが分かりました。
どんな素材でも箸に合うわけではありません。しかしバットは、硬くて軽いものの、しなりがあって曲がりにくい。実は箸の素材にとても適しています。ですから、バットと箸は相性がよく、箸に使いやすい素材だと言えます。
学生記者:バットから箸以外の商品も製造されていますね。
西村さん:箸以外では、靴べらや箸置き、スプーンやフォーク、ボールペン、印鑑などを製造し、「かっとばし!! シリーズ」として販売しています。ほかにも、バットから箸を製造する際に出た残りクズや粉を集めて固め、お椀をつくる研究も進めています。
海外メディアも注目 企業価値向上にも貢献
学生記者:このプロジェクトを実施することで、会社の売上や知名度・評判に変化はありましたか。
西村さん:もちろんありました。バットから再生した箸は、バットのようなデザインと球団のロゴマークが特徴です。このことから、世代を問わずたくさんの野球ファンから厚い支持を受けています。
年間約10万膳が売れ、その売上額は累計で15億円にも達しています。また、「かっとばし!! シリーズ」を目当てに来られたお客様に、箸の魅力に気づいていただくこともあります。
たとえば、箸の種類の豊富さや、人と人をつなぐ「はし渡し」との意味からギフトに最適だということなどです。「かっとばし!! シリーズ」が、事業の広告塔としての役割を果たし、既存商品の売上を向上させる要因ともなっていますね。
学生記者:海外メディアでも取り上げられたと聞きました。
西村さん:ニューヨークタイムズのウェブ版とアメリカのニュースチャンネルCNNで、本プロジェクトを取り上げていただきました。また、2019年の6月に開催されたG20大阪サミットでは、参加者への贈呈品として当社の箸を採用いただきました。
「東京2020」をテーマとした箸も製造・販売中で、開催までにアイテムを増やしていく予定です。日本の「もったいない」精神が、環境問題を解決する糸口として広く知られ、海外へと広がっていけばと思っています。
学生記者:ありがとうございました。
企業プロフィール
株式会社兵左衛門は、福井県小浜市に本社を構える箸の老舗メーカーだ。大正10年に創業して以来、若狭塗箸の製造を中心に事業を拡大してきた。表面塗装にこだわりを持ち続け、「お箸は食べ物」という信念のもと、天然漆を使った安心・安全な箸づくりを続けている。なお、製造した箸は、全国の有名百貨店やオンラインショップ、直営店にて販売されている。
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