センター長コラム

私が研究の世界に足を踏み入れてからそろそろ半世紀になる。これまでの間、システム・情報の分野、そして、社会・ビジネスの分野で研究開発に携わる中で、研究のやり方が大きく変化する瞬間に幾度か立ち会ってきた。

最初に驚いたのは、パソコンOSのアップデートをオンラインで実行できるようになったことであった。これは1980年代半ばインターネットが普及し始めた頃である。対象となるハードウェアはLISPマシンという当時の最先端のAI専用機であったが、今日、普通に行われているソフトウェアの自動更新がこのころ始まったことになる。  2番目に感激したのは、1990年代初めヨーロッパの国際会議において、高価なワークステーションをずらっと並べてメールサービスが提供されたことであった。日本人参加者のひとりが、ワークステーションの1台に日本語処理機能をダウンロードして、日本語でメールのやり取りを可能として。我々が地球移民であると実感した最初であった。

3番目の環境の変化は21世紀にはいる直前に、webブラウザが普及し、Googleの検索エンジンが誰でも使えるようになったことである。そして、今日では、外国語と日本語の壁も徐々になくなりつつあることは、みなさんご存じのとおりである。  しかし、私がこれまで経験した中でもっとも大きいのは、この1年の変化である。そう、我々に関連する研究領域では、Chat-GPTをはじめとする生成AIがあっという間に普及した影響が極めて大きい。研究の方法論そのものがまったく変わってしまった印象がある。

インターネットが普及してビジネスが変わったように、また、測定技術が進歩して物理学・天文学が変わったように、統計学とビッグデータによって経済・マーケティングの定量的な研究方法が変わったように、新しい技術は常に研究へのアプローチを変革してきた。さらに、生成AIは、この一年で、定性的な研究領域も含めて我々の研究の世界を変えてしまったのである。

もちろん、生成AIの学習には膨大なコストとデータが必要であり、生成AIの出力にはハルシネーションと呼ばれる「ウソ」が含まれることも多い。しかし、特定の分野である程度の研究活動を行ってきた学生・研究者であれば、生成AIのように敷居の低い先端技術を使いこなしていかなければ生き残れない。最先端の研究分野では、人間の読む速度よりもはるかに速く大量の成果が発表されているのであるから。

もちろん、初学者には生成AIの作り出す情報にどんなウソが含まれるのかを実感してもらう必要がある。さいわい、本学では、2023年の4月には、生成AI利用の指針を発表し、その積極的な利用を推進したのは賢明であったと考えている。今後の総合研究センターの研究においても、新たな取り組みがなされることを期待したい。本稿をまとめるにあたっては、もちろん、私はマイクロソフトCopilot機能を利用している。私の能力を高めてくれる道具なのであるから!