センター長コラム

2024年のノーベル物理学賞は、人工知能(AI)技術、特にニューラルネットワークの研究に関して、ジェフリー・ヒントンとジョン・ホップフィールドに授与された。この出来事は、物理学賞としては異例であり、AI研究者の間で大きな話題となった。ヒントンは現代の生成型AIの基礎となる階層型ニューラルネットの学習アルゴリズムを提案し、ホップフィールドはネットワーク型ニューラルネットの収束に関する統計力学的モデルを開発した。これらの研究が物理学賞として選ばれたことから、私は、賞の選定基準が大きく変化していると考える。近年、ノーベル賞は理論よりも応用技術、特に人類の生活に大きな影響を与える技術に焦点を当てる傾向が強まっている。

しかし、この報道に関して日本人の研究者、特に甘利俊一や福島邦彦の名前がほとんど言及されていない。彼らはヒントンやホップフィールドよりも早い段階でニューラルネットの基礎を築いていたにもかかわらず、その貢献が十分に評価されていないと思われる。実際、私は学部生のころに、甘利先生の講義を受けニューラルネットワークの原理は易しく大した理論ではないと誤解してしまった。研究成果はただ出すだけでなく、それを普及させる努力がいかに重要かという話である。

さらに、ノーベル化学賞もAI技術を使ったタンパク質構造予測に貢献した研究者たちに授与され、AI技術が物理学や化学の分野でも大きな役割を果たしていることが明らかとなった。これからAI技術がどのように発展していくののだろうか?

いずれにせよ、科学技術研究の領域で大きなムーブメントが起きていることは確かである。CUC研究センターも、役にたつ研究成果をいち早く発表し、普及させていかなければと思う。