2011年4月1日
災害と税制
千葉商科大学経済研究所 所長 栗林 隆
平成23年3月11日午後に起きたマグニチュード9.0の地震は三陸海岸に大津波をもたらした。東北地方は壊滅的な大打撃を受け、戦後最大の災害となった。
大震災が起きた11日は所得税の確定申告期限の3月15日の直前であり、国税庁は直ちに、「東北地方太平洋沖地震により多大な被害を受けた地域における申告・納付等の期限の延長の措置について」を発動し、多大な被害を受けているとの報道がある青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県の納税者に対して、国税通則法第11条に基づき、国税に関する申告・納付等の期限の延長を行った。上記以外の地域であっても、交通手段・通信手段の遮断や停電(計画停電を含む)などのライフラインの遮断により納税者又は関与税理士が申告等を行うことが困難な場合にも適用される。また、災害復旧に必要な資金の借入れのために納税証明書の交付を受ける場合には、交付手数料を無料とする措置を講じた。
ここまでは、当然の措置であって、本論はこの先である。現行税制では、災害による被害は「雑損控除」又は「災害減免法による所得税の軽減免除」が適用されるが、実際の減免額には一定の制限が設けられている。たとえば、「雑損控除」の繰越は3年間のみしか認められておらず、津波で家を流された平均的サラリーマンの所得階層では、損害額すべてを到底引ききれないだろう。
個人に対する所得課税は、租税配分原則を能力説に依拠して納税者の租税負担能力に応じた課税をすべきである。平時であれば、1年間の所得合計から、基礎控除等(大袈裟に言えば、生命を1年間維持するために必要な費用)を控除した残りの自由に使える所得に累進課税される。つまり、平時であっても生活するための最低限の費用には租税負担能力は無いのである。従って、今回のような災害時には、租税負担能力に関するさらなる吟味が求められよう。
政府は、東日本巨大地震の被災者や復興を支援するための税制の検討に入り、「雑損控除」を前年度である平成22年分にも適用する方向である。この措置により、サラリーマンも平成22年に源泉徴収によって収めた税金が還付されることになる。また、寄付金控除の拡大も検討している。
今回の未曾有の大災害では、被害を受けた人は租税負担能力を著しく喪失している。理論上は、ゲインにはすべて課税し、ロスはすべて控除することが望ましい。従って、災害前と同じ状態に復興するための費用はすべて控除すべきであり、政府の復興支援税制への取り組みは不十分である。速やかに特別措置を立法して、被災者の損害額を長期間に渡って完全に控除できる措置を講じるべきである。