研究プロジェクト成果報告

研究代表者 出口 弘(商経学部 教授)
共同研究者 寺野 隆雄(副学長/基盤教育機構 教授)
      赤木 茅(基盤教育機構 専任講師)

1.研究成果の概要
会計監査については、近年リアルタイムエコノミーやリアルタイム監査の概念と共に、リアルタイムでの会計処理と監査に注目が集まりつつある。本研究では、出口がLLMを用いた監査の可能性と特徴を、中村が近年の監査概念の動向を、赤木がリアルタイムエコノミーなどの最新状況を担当し研究を進めた。結果として、LLMはその変化が激しく、会計監査に対する評価を現時点で結論づけるのは難しい。
会計業務の定型部分と非定型部分を分けると、定型業務に関しては、仕訳や書式に基づく定型文書や報告書の作成、画像入力のテキスト化、定型タイピング業務のノーコード化などには、LLMは、企業独自の学習を必要とするとしても十分貢献することが期待できる。
他方で、非定型業務である、監査業務については、会計監査上の課題をあらい上げることは問題なくできる。またそれに基づき企業ごとにデータのあり方が違うにせよ、データに問題がある可能性の指摘は可能である。ただしこれはデータの標準化や定型化が一定程度必要で、ERPや既存の会計処理システムでLLMを導入する際には、そのデータベースに入っているデータの形式と監査に十分なデータであるかの再検討が必要となるだろう。
また、LLMはその特質から、前提を明確にした論理的推論を自然言語で行うことができるが、目的概念そのものを生成することはできない。それゆえ、例えば財務会計上の監査と、地球温暖化ガスの排出などの環境監査の重要性の比較について問うても、それぞれの観点の問題点と課題をあらい上げるにとどまる。
以上から言えることは、会計監査のような、会社法などの規則に適合しているかの調査でLLMを利用するには現時点でのプロンプトエンジニアリングのあり方として、1)取引や情報開示などの企業活動に関する社内の書類から、監査の視点からの問題点の指摘と整理を行う。2)その上で、問題の可能性のある活動について、それが違法か適法かを判断するために必要な追加資料についての指摘と問題出しを行うという二段階のプロセスが提起できる。ChatGPToのような最新のLLMでは、論理的な問題点の指摘能力は高く、監査を行う際に当該の書類からの監査上の論点(例えば架空取引や架空循環取引による売上の過大計上といった論点)に対して、企業の活動データから、その論点での課題出しを行うことができる。その上で、それが適法か違法かを判断するのに必要な追加資料や調査などについての指摘と問題出しをLLMが行うことが監査報告のためのドキュメンテーションも含めて、有効な利用法と思われる。
その上で、中期的には、企業の活動データの標準化を進め、より直接的に監査上の論点に対する問題点の指摘のできる「計算」枠組みを明示化することが重要であると考えられる。

2.著書・論文・学会発表等
【著書・論文(査読なし)】
出口弘 『会計システム理論』、白桃社、2024年2月
新しいデータ・新しい統計とその課題 : インボイスとReal-Time Economy、赤木茅・単著、International Conference on Economic Structures (ICES 2023),Housei University、2023