研究プロジェクト成果報告

研究代表者 出口 弘(商経学部 教授)
共同研究者 赤木 茅(基盤教育機構 専任講師)

1.研究成果の概要
本年度は、会計情報システムを用いた環境負荷などの非財務情報と財務情報のデータベース上でのデータ処理について、その問題点を検討する作業を行った。非財務情報には、地球温暖化ガスや廃棄物の排出などの環境情報や人的資本情報、生産管理情報など、企業のマネジメントに必須な多くの情報が含まれる。出口による代数的多元実物簿記では、これら多くの非財務情報を、実物計測単位に基づいた、生産会計の投入産出仕訳により複式の状態表現として、代数的に数式表現することができる。これにより、例えば財務会計と生産管理という異なる枠組みで設計され、運用される企業情報システムを、複式で実物計測単位(金銭評価も含む)の状態表現によって統合的に設計することができる。
現状、非財務情報の開示義務化の動きとしては、国際会計基準(IFRS)財団傘下の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年6月26日にサステイナビリティ開示基準の最終案を確定、「スコープ1、スコープ2、スコープ3の温室効果ガス排出」「移行リスク」「物理的リスク」といった7つの開示を義務付ける勧告を出している。これを受けて日本のサステイナビリティ基準委員会(SSBJ)が国内での開示基準の草案を公表。2025年3月までに最終案を確定し、27年3月期から時価総額が3兆円以上の企業に適用を義務付け、28年3月期には、これを1兆円以上の企業に広げる予定である。他方で、人的資本に関する情報開示も今後進んでいくことが想定される。このような状況で、企業は、従来の生産管理と財務会計、戦略会計、人事管理などの、現状ではそれぞれ独立して設計され運用されている企業情報システムをさらに新しく求められる企業の戦略的マネジメントとステークホルダーへの情報開示のためのシステムとして刷新する必要がある。
現状、ERPのようなパッケージによって、企業のマネジメント情報は一見統合されているように見えるが、実際にはERPは、会計をクリーンコアとしてブラックボックス化して、周辺部分をアドホックにマイクロサービスとしてAPI連携するクラウドサービスなどの方向に進化しつつある。そこでは企業情報システムの設計そのものは、旧来と変わらず、さらにマイクロサービスといいつつ、その情報処理は、データベースに基づく手続的なものであり、複式情報の代数的な数式に基づく関数型の情報処理は行われていない。
本研究では、本年度は、代数的実物簿記での生産会計の投入産出仕訳に、負の価値を持つストックとして、廃棄物や地球温暖化ガスを導入し、スコープ1の地球温暖化ガスや廃棄物処理の情報を、生産工程毎に明確化すること、および投入産出仕訳のエネルギー投入からスコープ2の地球温暖化ガスをやはり生産工程毎に明確化する枠組みと事例を開拓した。さらにスコープ3のために、コモディティフローグラフによりサプライチェーンを把握する枠組みも明らかにした。

2.著書・論文・学会発表等
【論文(査読あり)】
佐野智紀、⼭村雅幸、出⼝弘, 中⼩企業⾷品製造におけるIoT 活⽤に⾒る⽣産性向上の研究 ~OODA ループを⽤いた実証研究をもとに~,共著, 経営情報学会誌、Vol. 32 No. 3, December 2023, pp. 89-106 DOI https://doi.org/10.11497/jjasmin.32.3_89
【著書・論文(査読なし)】
出口弘『会計システム理論』、白桃社、2024年2月
【学会発表等】
Analyzing Relationships between Companies’ SDGs Activities and Financial Information using SHAP(査読付)、Kouta Ohi, Takako Hashimoto, Yukari Shirota, Kaya Akagi, Takao Terano and Ryohei Egusa, 共著、14th International Congress on Advanced Applied Informatics, Koriyama Chamber of Commerce and Industry, Koriyama, Japan, 2023年7月
What does e-invoice data bring to SNA and Real-Time Economy? , Kaya Akagi, 単著、PREPRINT (Version 1) available at Research Square [https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-3254344/v1]、2023
未だ在らざる現実に対処する知としての構築主義的社会システム論、出口弘、単著、社会経済システム学会第42回大会発表草稿、早稲田大学、2023年10月
未だ在らざるものを構築する知と科学基礎論の射程、出口弘、単著、科学基礎論学会2023年度総会発表草稿、東海大学、 2023年6月