2024年1月25日
複雑系を用いた交通流の解析
交通渋滞の解消は都市計画に関連した需要な課題の一つである.交通渋滞の現象自体を解析するためのモデルとして,TASEP-LKF (Totally Asymmetric Simple Exclusion Process with Langmuir Kinetics depending on the occupancy of Forward sites) が提案されている.升目が一列のみの方眼紙を考える.これを道路とみなし,車が有るときに黒く塗り潰し,無いときに白のままにする.時間を進めると,黒い升目が一方向にランダムに飛び移る(元の升目を白にして隣を黒にする).ただし,飛び移る先が既に黒い升目ならば,この移動は起こらないものとする.時間発展を見た結果,もし黒い升目の移動が停滞しているならば,渋滞が起きているといえる.このような数理模型をTASEPと呼ぶ.TASEPで更に車線変更を考慮したものをTASEP-LKと呼ぶ.すなわち,ランダムに黒だった升目が白になり,逆もまたランダムに起こるとする.前方の車両に応じて,車線変更が起こる確率を変化させたものを特にTASEP-LKFと呼ぶ.
本年度の上半期はTASEP-LKFを用いた交通流の解析をするため,以下のような研究活動を行った.
Ⅰ.千葉商科大学でのディスカッション
研究代表者の新井は共同研究者の上島(國家理論科學研究中心,サステナビリティ研究所)と千葉商科大学にてTASEP-LKFモデルに関する数学的な議論や数値計算に関する打ち合わせを行った. また,上記の活動において,関連研究者である佐藤純氏(東京工芸大学)及び李志煌氏(國立臺灣大學)にお越し頂き,TASEPの推移確率及び漸近解析について議論した.
Ⅱ.研究集会「2023年度確率論ヤングサマーセミナー」への参加
研究代表者の新井は共同研究者の上島(國家理論科學研究中心,サステナビリティ研究所)と共に研究集会「2023年度確率論ヤングサマーセミナー」へ参加し,TASEPモデルや関連する確率過程の知見を持つ研究者への情報収集を行った. また,新井と上島はTASEPの粒子密度に関して記述する微分方程式の漸近安定性について議論を行った.
Ⅲ.2023 NCTS Postdoc Symposiumでの講演
本プロジェクトで現在までに得られた成果に基づき,共同研究者の上島(國家理論科學研究中心,サステナビリティ研究所)が,所属組織が主催するシンポジウムで国際講演を行った.具体的には,平均場近似を適用した粒子数密度に関する微分方程式を提示し,その平衡点の存在性や漸近安定性について話した.また,定常粒子数密度の右端点での単調性も証明した.数学的に確立した部分とそれを補助する形で数値計算の結果を示した.
参考サイト國家理論科學研究中心