2025年5月29日
実物簿記に基づいた非財務・環境情報の会計情報処理のための基盤システム構築 2024年度成果報告
研究代表者 出口 弘(商経学部 教授)
共同研究者 赤木 茅(基盤教育機構 専任講師)
1.研究成果の概要
本年度は、会計情報処理の基盤システムのプログラムとしての構築を一方で進めると同時に、他方で生産会計の概念のさらなる拡張を試みた。生産会計の概念の拡張の前提として、出口は現代の経済システムにおける制度的仕組み、特にプラットフォーム型産業構造や労働の低スキル・疎結合コンポーネント化といった新たな仕組みへの「埋め込み」が引き起こす問題点を指摘し、そこからの「脱埋め込み」による新たな経済成長の道筋についての研究を進めた。
そこでは、経済主体が制度的仕組みに制約されて経済活動を行う「埋め込み」という状況、とりわけ労働が低スキルで切り離しやすい部品(コンポーネント)のように扱われる現代の傾向に着目しています。このような仕組みは、労働者のスキル向上の機会を奪い、人的資本の質の低下や社会全体の二極化といった意図せざる危機をもたらす可能性を指摘した。その上でこの問題に対処するため、従来の経済学で費用として扱われがちな「消費」を、家計における「人的資本への投資」として捉え直すことを提案した。これは企業活動が行われる「生産の境界」とは別に、家計内で「生活サービス」(食事、育児、教育など)が生産され、それが個人のスキルレベル(SKL)や生活の質(QOL)といった人的資本の維持・向上に投下される「家計の境界」という概念を導入することになる。その結果として、 企業における生産活動や家計における生活サービスの生産・投入を記述する「生産会計」をさらに拡張し、「生活サービス会計」という新しい会計手法の導入を提唱した。これにより、これまで見過ごされてきた家計内での価値形成や人的資本の動態を可視化する新しい研究領域が拓かれる。
赤木はこれらの課題の背後にある複雑な社会問題への対応に向けたメカニズム的エビデンスの役割についての研究を進めた。またそれに必要な、プログラムのライブラリーの整理を進めた。
2.著書・論文・学会発表等
【著書・論文(査読なし)】
1.出口弘、EBPMの射程—日本型のエビデンスベース政策形成の現状と未来—、計画行政、47(4)、PP.3-8, 2024-11-15,
2.赤木 茅、複雑な社会問題への対応に向けたメカニズム的エビデンスの役割—EBPM+におけるモデル及びデータの要件—、計画行政 47(4) pp.27-32, 2024-11-15
【学会発表等】
1.出口弘, 簿記の概念拡張による新しい会計情報処理, 総合研究センター研究フォーラム, 2025年2月5日,
https://www.cuc.ac.jp/institute/symposium/2024/detail11.html
2.出口弘, 付加価値ネットワークの間接制御理論としての経済学, フェロー就任講演:進化経済学会関西大学2025-03-23
3.出口弘, 経済システムにおける仕組みと埋め込み, 第29回 進化経済学会 年次大会, 関西大学, 2025-3-22日