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コラム

2019年秋、千葉商科大学は学食「The University DINING」と学生が協同し、レトルトカレー「トリさんのカレー カツオだしの香るキーマカレー」を開発しました。

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このニュースを見て、
「学食なら毎日作り立てのカレーが出せるのに、なぜレトルトカレー?」
と思う人もいるかもしれません。しかし、これこそ「フードロス」をなくすためのチャレンジのひとつなのです。

学食でも食材が余ってしまうことや足りないことがあります。しかし翌日に持ち越せる「レトルトカレー」をメニューに取り入れることで、使い切れずに捨ててしまう食材、つまり「フードロス」をゼロに近づけることができます。

フードロスとは、食べられるのに捨てられてしまう食材のことをいいます。(「食品ロス」も同じ意味です。)

今回は、フードロスの何が問題なのか、世界と日本のフードロス事情、フードロスを減らす対策などをご紹介します。

2020年、世界の食糧問題に取り組む「WFP(国連世界食糧計画)」がノーベル平和賞

2020年のノーベル平和賞に「WFP(国連世界食糧計画)」が選ばれました。
国連の機関として1961年に設立されたWFPは、世界を舞台に食糧を調達し、紛争や貧困で飢餓状態となった人や地域を支援し、ときには戦闘が続く危険な地域にも食料を届け続けてきました。対象者は毎年およそ1億人です。

受賞により、WFPに注目が集まるのは、とても喜ばしいことです。
なぜなら、2020年7月の国連年次調査の報告書によると、過去5年間で数千万人が新たに慢性的な栄養不足に陥り、より多くの人々が飢餓状態になっていることが明らかになるなど、世界各国では複数の形態の栄養不良との闘いが続いているからです。

また、2020年は新型コロナウイルスがもたらした景気後退で飢餓におちいる人が最低でも8,300万人、場合によっては1億3,200万人さらに増加する可能性がある、と予測しました。
ノーベル賞受賞により世界の人の関心が高まり、支援がもっと集まることに期待したいところです。

消費者庁の資料によると、日本では、年間2,550万トンの食品廃棄物等が出されており、このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は612万トン。これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けたWFPの食料援助量(2019年実績で年間約420万トン)の1.5倍に相当します。

出典 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/assets/efforts_201130_0001.pdf

日本らしい「もったいない」という感覚から、食べ物はできるだけ食べ切り、食材は使い切るようにしている人は多いと思います。にもかかわらず、WFPが世界で支援する食料の1.5倍もの食品を捨てているというのは驚きです。

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WFPのWebサイトには「世界の食糧生産量のうち、3分の1が廃棄されている 食べられずに捨てられた食料は世界の2億人分にあたる」という事実も紹介されています。世界が一致協力してフードロスをなくすことが求められています。これは、SDGsの2番目の目標「飢餓をゼロに」を達成するために、きわめて重要なアクションのひとつだといえます。

SDGs目標2飢餓をゼロに

気候変動対策のためにも、フードロス削減が重要

もうひとつ、フードロス対策がなぜ大切かという点で知っておきたいことがあります。
WFPのWebサイトには「世界中で食料廃棄によって発生する二酸化炭素の量は、アメリカと中国に次ぎ3番目の排気量となる」とあります。

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CO2は、食品の原材料が栽培・収穫されてから、加工・包装・運搬などの工程を経て店頭にならぶまでの過程で発生します。そして、この食品が捨てられるときには、焼却・輸送などの「廃棄コスト」がかかります。これは、食品がムダにならなかったら排出されなかったCO2です。

食料はわたしたちに欠かせない、限りある"資源"。でも、捨てられてしまうときには余分なCO2を排出する"CO2発生源"へと変わってしまいます。フードロスの削減は、SDGsの重要課題である気候変動対策という観点からもきわめて重要なことなのです。

SDGs目標13気候変動に具体的な対策を

フードロスには「事業系」と「家庭系」がある

日本で発生するフードロスは年間600万トン(2018年、農林水産省公式サイト)。
これは、日本人一人ひとりが年間約47kg、毎日茶碗一杯分のご飯を捨てているのと同じ量です。

フードロスは大きく「事業系」と「家庭系」に分けられます。
事業系とは、製造・輸送・販売などの場面で発生するフードロス。
家庭系は、家庭ごみとして出されるフードロスをいいます。

事業系のフードロスをくわしく見ていくと、外食産業の割合が高いことがわかります。

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出典 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html

また、上の600万トンという数字は「本来食べられるのに捨てられる食料」の総量ですが、食品関連のすべての廃棄物の合計は「食品廃棄物等」といい、年間2,531万トンにのぼります。これは、「食べられるはずだったゴミ」であるフードロスと、「食品の製造・加工または調理過程で生じた、食べられないゴミ」の合計です。

食べられないゴミも含めた食品廃棄物の総量についても削減やリサイクルを進めていくことが必要です。

また、フードロス全体のなかで家庭系のゴミは46%と半分近く。だから、わたしたちが家庭から出すゴミを減らすことがとても重要です。フードロスを減らすためにわたしたちができることについては、こちらの記事にまとめています。

2019年成立の「食品ロス削減推進法」ではフードバンクを応援

環境対策に積極的なヨーロッパなどと比べて日本のフードロス対策は遅れをとっていました。

しかしようやく、2019年10月「食品ロス削減推進法」が施行されました。これにより、国・地方自治体・企業・消費者などそれぞれの主体がフードロス問題という課題に取り組む方針が示されました。

基本的施策は以下となっています。

食品ロス削減推進法 第14条~第19条

  1. 消費者、事業者等に対する教育・学習の振興、知識の普及・啓発等
    ※必要量に応じた食品の販売・購入、販売・購入をした食品を無駄にしないための取組等、消費者と事業者との連携協力による食品ロスの削減の重要性についての理解を深めるための啓発を含む
  2. 食品関連事業者等の取組に対する支援
  3. 食品ロスの削減に関し顕著な功績がある者に対する表彰
  4. 食品ロスの実態調査、食品ロスの効果的な削減方法等に関する調査研究
  5. 食品ロスの削減についての先進的な取組等の情報の収集・提供
  6. フードバンク活動の支援、フードバンク活動のための食品の提供等に伴って生ずる責任の在り方に 関する調査・検討

参考 消費者庁

このなかで特に注目したいのは、6.のフードバンクに関する条文です。

「フードバンク」とは、企業や生産者などで販売しきれない食品、家庭で食べ切れない食品の寄付を受け、その食料を必要とする福祉施設・団体・個人等へ届ける組織です。

食品ロス削減推進法ができるよりずっと前から、全国各地でNPO法人、社会福祉法人、協同組合などがフードバンクとして活動してきました。フードロス活動の支援が明記された法律ができたことで、民間のフードバンクは寄付を集めやすくなる可能性もあり、フードロス削減への取り組みが今まで以上に進んでいます。

この法律は、2020年3月に新型コロナウイルス対策に伴う休校が生じたときも大いに役に立ちました。大量に余ってしまった学校給食向けの生鮮食料品を有効に活用できるよう、農林水産省が「フードバンク活用促進対策」を指導し、成果を上げました。

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省庁や自治体も、積極的にフードロス削減を推進

現在、農林水産省・消費者庁・環境省などがフードロス削減政策に取り組み、公式サイトで情報を発信しています。

農林水産省 「食品ロスとは」

子どもにもわかりやすいよう、キャラクター「ろすのん」が説明していて、参考になるデータもまとめて表示されています。

消費者庁 食べ物のムダをなくそうプロジェクト
消費者庁 フードロス特設ページ

消費者庁では食品ロスの啓発活動などを実施しています。地方自治体や学校のフードロス削減取組事例もまとめられています。

環境省 食品ロスポータルサイト

食品ロスポータルサイトは消費者向け、自治体向け、事業者向けに分けて食品ロスに関する情報を発信しています。

政府広報オンライン 「食品ロス」を減らそう

政府広報オンラインでは、食品ロスの問題の解説と他の省庁のページへのリンクをまとめて掲載しています。

また、各自治体でも地域からのフードロス削減対策を始めています。たとえば、千葉商科大学のある千葉県の場合には、以下があります。

ちば食べきりエコスタイル

「食べきり」で食品ロスを減らしていく取組として、千葉県内の飲食店に協力を呼びかけています。少なめサイズの提供や持ち帰り希望に応じてくれる飲食店「ちば食べエコ協力店」の一覧を見ることができます。

その他多くの都道府県・市区町村でフードロス対策を実践しているので、自分が住んでいる地域の情報をチェックしてみてください。

他の国はどんな取り組みをしている? 世界のフードロス削減対策

フードロス削減は世界の課題です。ヨーロッパなど各国で実践されている取組事例をいくつかご紹介します。

コミュニティフリッジ(ドイツ、イギリス、スペイン、インド、日本など)

誰でも利用できる場所に設置された公共冷蔵庫のことで、シェア冷蔵庫などとも呼ばれています。個人は食べ切れない量の食品、飲食店や食料品店は売れ残った商品を冷蔵庫に入れます。欲しい人は誰でも持って帰ることができます。コミュニティフリッジは、2010年代位からドイツ、イギリス、スペイン、インドなどで広がり、設置されるようになりました。また、近年日本でも、岡山市などで同様の試みが行われ、注目されています。

食品廃棄規制法(フランス、イタリア)

2016年、フランスでは賞味期限切れ食品の廃棄を禁止する法律が成立しました。賞味期限が近付いた食品を廃棄することなく寄付または肥料や飼料に転用することが義務付けられ、企業には罰則規定もあります。
イタリアでも2016年に同じような法律が成立しました。ただし、フランスのような罰則はなく、寄付した際の税制上の優遇措置を設定し、フードロスの有効活用を促進する内容が盛り込まれています。

フードロス対策アプリ「OLIO」(イギリス)、「Too Good To Go」(デンマーク)

「OLIO」は2015年にイギリスから配信された、「不要な食品を投稿し、欲しい人に手渡す"食材のマッチング"」ができるアプリです。
「Too Good To Go」は2016年、デンマーク発のレストランや小売店で余った食材を欲しい人に安く販売するアプリで、どちらも今ではヨーロッパに広まり活用されています。

賞味期限切れ食品専門店(デンマーク他)

デンマークでは、賞味期限切れの加工食品や冷凍食品のほか、賞味期限間近の生鮮食品、規格外の野菜、ラベル誤記や、パッケージが傷つき売り物にならない加工食品などを専門に販売する店「Wefood」が2016年にスタート。その後、このスタイルの店は日本を含め、各国に広がっています。

無料スーパー(オーストラリア)

2017年、オーストラリアのフードバンクは「すべて無料」のスーパー「OzHarvest Market(オズハーベストマーケット)」をオープンさせました。客は必要な量(持ち帰った食材がフードロスにならないよう)の食品を持ち帰ることができます。店では寄付をお願いしていて、可能であれば自分で金額を決めて寄付する(支払う)というしくみで、集まった寄付金を活動資金にしています。

以上のようにヨーロッパなどで広がるフードロス削減対策のアイディアはさまざまです。日本でも飲食店で余った料理を割安で欲しい人にマッチングするアプリなどが一般化してきていて、フードロス削減にも貢献していると思われます。
今後は、日本国内でもこのような仕組みや取り組みが広まっていくことが期待されます。

フードロス削減でSDGsを実現しよう

最後に、フードロスを削減するアクションがSDGsにどう貢献できるかについて確認しておきましょう。

SDGs目標2飢餓をゼロにSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策をSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう

2 飢餓をゼロに

WFPによると、同機関が支援している国々で2020年末までに急性栄養不良に直面する懸念のある人々の数は、2億5000万人。「飢餓をゼロに」というSDGsの目標達成はまだ見えてきません。

最初に述べたように、日本で発生するフードロスの総量はWPFが実際に支援した食料の量の1.5倍。わたしたち一人ひとりが食べ物を捨てない、無駄にしないよう行動することが、「飢餓をゼロに」という世界の課題解決につながります。

また、世界全体のフードロスは、先進国だけでなく途上国でも発生しています。先進国では、家庭から出る食べ切れない食品や賞味期限切れのために小売り店・飲食店等で廃棄される食品などが多いですが、途上国の場合は違います。流通や保存の手段が十分でないために、出荷前に食品が劣化してしまい廃棄せざるをえないなどで、フードロスが生じています。

WFPでは食料を届ける支援の他に、途上国の食料生産インフラを整備する活動も行っています。

12 つくる責任 つかう責任

「食品をつくる責任 食品を食べる責任」
と主語をつけてみると、具体的なイメージがわきやすくなります。

食品の生産者・加工する企業・販売する店などには、廃棄することなくすべての食材を消費者に届ける責任があります。
日本の食品メーカー各社もフードロスを削減するためのサプライチェーンの見直し、賞味期限の延長、アウトレットショップの運営、期限切れ食品のフードバンクへの提供などの活動を進めています。

一方わたしたちにとっては、食品をすべて食べ切りゴミを出さないことが責任です。

13 気候変動に具体的な対策を

前半でも紹介したように、フードロスの削減は気候変動対策のために不可欠です。SDGsのゴールの中でも緊急性の高いこの問題について、わたしたちは食べ物を捨てないようにすることで貢献できます。

冷蔵庫に残った食材を使い切ったり、レストランで食べ切れない料理を持ち帰ったりする行動のひとつひとつがSDGsの目標達成に近づく。そんな意識を持って、食べ物を大切にしていきましょう。

17 パートナーシップで目標を達成しよう

ここまで読んできた方は、自分が食べているものと世界の飢餓問題が"つながっている"ということを認識されたと思います。

フードロスの削減では一人ひとりの行動が大切ですが、一人だけでは達成できません。個人、家庭、企業、自治体、国、そして国際社会が連携・協力することでSDGsの目標達成に近づきます。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標2飢餓をゼロに12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策をSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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