地球温暖化による気候変動を抑えるための国際的な取り決めが「パリ協定」です。2015年にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されました。
パリ協定で掲げられた世界的な長期目標は以下のとおりです。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- そのため、できる限り早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
現在も、この目標を達成するための取り組みが続けられていますが、その道のりは決して平たんではありません。
今回は、SDGs17の目標の中でも、喫緊の課題とされている目標13「気候変動に具体的な対策を」の現状、具体的な対策などをまとめていきます。
2022年の「COP27」で国連事務総長は強い言葉で気候危機に言及
2022年11月、エジプトで開催されたCOP27(※)で、グテーレス国連事務総長はスピーチに強い警告を込めました。
世界の気温は上昇し続けています。
私たちの地球は、気候変動による混乱が取り返しのつかないものとなる臨界点へ、急速に近づいています。
私たちは、気候変動地獄へと向かう高速道路を、アクセルを踏んだまま走っているのです。
COP27では、気候変動により被害を受ける弱者や途上国を支援する基金の創設を決定しました。国連の枠組みで各国が協調して被害への資金支援に取り組む合意ができたのははじめてで、一定の成果といえます。しかし、急ぐべき課題である排出削減への具体策についてはCOP26からの進展を示すことができませんでした。
SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」の内容とは
まず、SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の内容について改めて確認しましょう。
目標13が指摘している気候変動とは、人が化石燃料を使うようになって以降の急速な地球温暖化に伴い起きている、さまざまな気候の変化のことをいいます。
具体的には、日本の猛暑や大雨、世界で起きている熱波・干ばつ・洪水、北極・南極の氷の融解などが挙げられます。気候変動を引き起こしている主な原因は、人の活動で排出される温室効果ガスで、その4分の3は二酸化炭素(CO2)です。
地球温暖化の現状、気候変動のメカニズム、温室効果ガスのデータなどは以下の記事でくわしく紹介しています。
目標13のターゲットには、「具体的な対策を」にあたる内容が示されています。
13.1 | すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応力を強化する。 |
13.2 | 気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。 |
13.3 | 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。 |
13.a | 重要な緩和行動の実施とその実施における透明性確保に関する開発途上国のニーズに対応するため、2020年までにあらゆる供給源から年間1,000億ドルを共同で動員するという、UNFCCCの先進締約国によるコミットメントを実施するとともに、可能な限り速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる。 |
13.b | 後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において、女性や青年、地方及び社会的に疎外されたコミュニティに焦点を当てることを含め、気候変動関連の効果的な計画策定と管理のための能力を向上するメカニズムを推進する。 |
13.1 で示されているように、まず必要なのがすでに起きている災害への対策です。国や地方自治体が大雨などを予測して避難指示を出し、死者・負傷者が出ないようにすることが求められています。発展途上国などでは最低限の災害対策がいまだに不十分で、多くの犠牲者が出ることがあり、国際協力の下で対策を強化する必要があります。
13.2 では各国に、気候変動の原因である温室効果ガスの排出を削減し、いずれは実質ゼロにすることが求められています。実質ゼロとは、温室効果ガスの排出量からCO2が植物に吸収される量などをマイナスして正味ゼロにすることで、「カーボンニュートラル」といいます。この目標は簡単には達成できないものですが、各国は長期の戦略や計画を立てて実行していく必要があります。
13.3ではさまざまな気候変動対策について世界の人々が理解し国や地域で合意形成の下に推進していくこと、そのための教育や啓発が重要なことに言及しています。
SDGsが発足するまでの経緯については以下の記事で解説しています。
他のSDGs目標にも影響が大きい「気候変動」
目標13「気候変動に具体的な対策を」という目標が重要な理由は、対策を今すぐ進める必要があるからです。具体的な行動が遅れれば遅れるほど2℃目標の達成が難しくなります。
そして、目標13が他の多くのSDGs目標と関連性が高いからでもあります。
例えば地球温暖化は極地で特に顕著で、北極圏の氷の融解が進んでいます。このためにホッキョクグマが減少し、生態系にも影響を与えています。海中では、水温が高くなったために従来の海域に棲めなくなる魚種もあります。このように気候変動は目標14「海の豊かさを守ろう」に対して大きな脅威となっています。
一方陸では干ばつや洪水が増え、草原や農地の砂漠化・動植物の生態系の破壊などが起きています。CO2を吸収する森林が減少することにより、さらに温暖化が加速します。つまり、目標15「陸の豊かさも守ろう」への脅威ともなっています。
気候変動で真っ先に被害を受けるのは弱者です。干ばつ、山火事などで住めなくなったり農業ができなくなったりして土地を追われる人、大洪水で家を失う人がいます。食糧不足になると穀物が高騰し、食べ物が買えなくなり、生命や健康が脅かされて人権が損なわれる状況にもあります。水や土地の奪い合いが難民、紛争、戦争の原因にもなっています。一方で、安全な場所に住む富裕層やインフラが整った先進国に住む人はそこまでの被害を受けていません。おそらく、被害に遭っている人よりも多くのCO2を排出する生活をしているにもかかわらず、です。これらは以下の目標に重なります。
また、災害対策を強化したり、産業界や家庭でCO2排出量や廃棄物を削減したりといった具体的な対策は先進国が主導し、途上国にも資金や技術を提供しながら進める必要があります。以下の目標に重なります。
ここまでで挙げていない目標は以下ですが、これらも気候変動が深刻になるほどに特に途上国においてその影響を受けることが想像できます。
気候変動の影響を受けるのは地球全体、世界の全ての人です。目標13は、先進国・途上国にかぎらず全ての国、人が取り組むべき、SDGsの中でも緊急で重要な課題です。
歩みが遅い気候変動対策。課題はなにか
以下は、地球のCO2濃度の推移です。現在までに増加の傾向が「緩和」される兆しは見えてきません。
出典 気象庁「大気中二酸化炭素の世界平均濃度の経年変化」(https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html)
CO2排出削減の重要性が知られるようになり、各国が取り組んでも成果を出せていない現状には、以下のような課題があります。
CO2を排出する国とそうでない国の立場の違い
化石燃料を使用して経済成長しながら現在の気候変動の原因をつくったのは主に先進国、しかしその被害を受けているのは主に途上国という立場の違いがあります。途上国の側は、経済成長ができないまま化石燃料の使用を制限されることに不満を持っています。
また、途上国の中でも豊かになりつつあるアジア諸国、海面上昇により今まさに国土が損なわれる危機にある島しょ国などの立場の違いもあります。
世代間の立場の違い
産業界のトップや国のリーダーの多くは年齢が高く、将来の危機を回避するために今すぐ最大限の対策をすることよりも、目の前の企業活動や政策を優先してしまうことがあります。
一方、気候変動の影響を受ける若い世代はそんなリーダーたちへ向けて「私たちの未来のために今すぐ行動を」と声を上げ始めています。適切な対策を早く進めるため、さらに多くの当事者たちのコミットメントが必要です。
政権交代や戦争で対策が停滞するリスク
2017年、政権に就いてすぐトランプ大統領はパリ協定の離脱を宣言し、2020年に正式に離脱。2021年、バイデン政権となってから復帰しました。
世界で「一人当たりのCO2排出量」が最も多いアメリカの意向は状況を大きく左右します。今後も「自国優先主義」を掲げる政権がこのような行動に出る可能性があります。
また、ロシアによるウクライナ侵攻により、戦争が気候変動に与える問題が浮き彫りになりました。戦争そのものが大量のCO2を排出するとともに森林を破壊し、天然ガスの不足から石油・石炭の使用量が増えるというように、気候変動対策に逆行する深刻な影響が出ています。
先進国などでCO2排出量は減少。今後への目標は?
世界全体で気候変動対策が順調に進んでいるとはいえない状況がありますが、もう少し細かく見ていくと、先進国ではCO2排出量が削減傾向にあります。以下は各国の排出量の推移です。
出典 経済産業省「IEA『CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION』2019 EDITION」をもとに経済産業省作成(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/co2_sokutei.html)
このグラフを見ると、日本も世界の中ではCO2削減の実績が大きいこと、ヨーロッパや北米などで削減傾向であることが分かります。
さらに以下のように、2021年4月現在、125か国と1地域が2050年までのカーボンニュートラルを表明しています。世界の専門家によってまとめられた「IPCC第6次評価報告書」は、2050年までにカーボンニュートラルを達成できれば、地球の気温の上昇は2℃未満に抑えられ、やがて気温上昇が止まるという予測を提示しています。
2050年までのカーボンニュートラルを表明した国
出典 経済産業省「COP25におけるClimate Ambition Alliance及び国連への長期戦略提出状況等を受けて経済産業省作成(2021年4月末時点)(https://www.enecho.meti.go.jp/about/linksto_thissite/)
削減の成果を出している国の経験を他の国へと拡大していけば、将来の世界のCO2排出をゼロに近づけていくことができると期待されます。
以下は、各国が掲げている削減目標の一部です。
出典 図版JCCCA「各国の最新の削減目標」(https://www.jccca.org/download/13233?p_page=2#search)
日本は、2020年に当時の菅首相が「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロ」のカーボンニュートラル宣言を行い、2021年には「2030年度までに46%削減(2013年比)」を表明しました。 現在はこの目標に向けて行政や経済界が動き始めています。
2050年カーボンニュートラルを目指す日本の「グリーン成長戦略」とは?
2020年の「カーボンニュートラル宣言」以降、日本の具体的な対策が進んでいます。日本は、2030年度までの対策を強化して、2050年を待たずにカーボンニュートラルを達成することを目指しています。
以下は環境省の「脱炭素ポータル」に掲載されているカーボンニュートラルの図です。現在はCO2の排出量がプラスとなっていますが、2050年には再生可能エネルギーの割合を増やしてCO2排出量を減らすとともに、森林及び最新技術によるCO2吸収量を増やして、プラスマイナスゼロにすることが目標です。
出典 環境省「脱炭素ポータル」掲載、カーボンニュートラルの図(https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/)
政府が掲げる「グリーン成長戦略」の実行計画では、以下の14分野を重要と位置付けています。
出典 経済産業省「グリーン成長戦略(概要)」(https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/pdf/green_koho_r2.pdf)
図に記載があるように経済効果は約290兆円、雇用効果は1800万人で、カーボンニュートラル達成とともに、経済成長と生活の豊かさを実現させる方針です。各省庁はもちろん、経済界、大学、地方自治体、民間団体などを全て巻き込む野心的なプランとなっています。
気候変動に備える適応策とは?
現在起きている気候変動に適応するための対策も進められています。2018年に公布された「気候変動適応法」 には、例えば以下のような内容が盛り込まれています。
- 高温でも育つ農作物品種の開発・普及
- 魚類の分布域の変化への対応
- 災害に備える堤防や施設の整備
- ハザードマップ作成の促進
- 熱中症予防対策の推進
また、国立環境研究所の「気候変動適応情報プラットフォーム」 では最新情報を知ることができます。国や地方自治体、事業者、個人の取り組みなどが一覧できます。
なお、私たち一人ひとりができる対策については、以下の記事で解説しています。ぜひご覧ください。
地方自治体のカーボンニュートラルへの取り組み
政府の方針に呼応して、地方自治体も続々とカーボンニュートラル宣言を行っています。
東京都・京都市・横浜市を始めとする973自治体(46都道府県、552市、22特別区、305町、48村)が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しています(2023年6月時点)。
具体的な行動も始まっています。いくつかの自治体の例を見てみましょう。
ゼロカーボン北海道チャレンジプロジェクト
2050年「ゼロカーボン北海道」の実現を目指しています。「CO2排出量を知る」「ごみの削減」「植物を増やす」「未来を考える」を重点4項目として、市町村とも連携しながらゼロカーボン施策に積極的に取り組んでいます。
東京都 - Fast forward to "Carbon Half" -
東京都は2050年ゼロエミッション(廃棄物を排出しないこと)を見据え2030年までの「カーボンハーフ」に重点を置いています。再生可能エネルギーの利用拡大、車の非ガソリン化、廃棄物削減などの政策を進めています。
「廃棄物と環境を考える協議会」の関東甲地域73市町村による共同表明
関東甲地域の73市町村と民間事業者2社は以前より「廃棄物と環境を考える協議会」として連携をしていましたが、2020年に「2050年ゼロカーボンシティ宣言」をしました。
なお、諸外国の取り組みについては、以下の記事でご紹介しています。ぜひご覧ください。
また、産業界の取り組みについては以下で紹介しています。
企業はSDGsをどう活用できる? ESGも合わせて解説
千葉商科大学は日本初の「自然エネルギー100%大学」を宣言
本学は地球温暖化対策等の環境保全に貢献するため、日本初の「自然エネルギー100%大学」をめざしています。これは、本学所有のメガソーラー発電所などの発電量と本学の消費エネルギー量を同量にするものです。日本国内の大学で初の試みとして挑戦しています。
今までにメガソーラー発電所の拡充、照明のLED化、学生団体SONEによる情報発信など各種の試みを積み重ね、すでに2018年度「千葉商科大学をネットで日本初の『RE100大学』にする」という目標を達成しています。これは、本学所有のメガソーラー発電所などの発電量と本学の消費電力量を同量にすることです。
今後は、「自然エネルギー100%大学」の目標を達成するとともに、さらなるチャレンジを継続していきます。
日本初「自然エネルギー100%大学」について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
まとめ
SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」は、地球温暖化がこれ以上進行しないよう、CO2排出量を削減し、カーボンニュートラルをめざす取り組みのことです。
2022年現在、世界のCO2濃度の上昇は緩和されていません。先進国と途上国ではCO2の排出量の違い、気候変動の被害を受ける程度の違いがあり、課題となっています。世代間の立場の違いや政権交代、戦争のリスクも課題です。
しかし、先進国ではすでにCO2は減少傾向で、2050年カーボンニュートラルを宣言する国も増えつつあります。国際協力のもと、途上国を含めて一層の努力が求められています。
この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)
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