実務と理論との近接、ならびに、学びを実績や成果というかたちに繋げることが求められて久しい。その端緒として、当プロジェクトでは学部ならびに大学院中小企業経営管理コースとの連携を視野に入れるかたちで、研究者と実務家とのコミュニケーションを深化させることを意識している。とりわけ、大学院に所属している教員は、学会における受賞歴ならびに地域企業の課題解決の実績などを有している中小企業診断士であり、時代の求める中小企業サポートのプロフェッショナルを養成している。 当プロジェクトの主目的は、企業経営者に対するインタビューを本学の機関誌である『中小企業支援研究』における「経営者インタビュー」を拡充するかたちで、学部教員とともに多様な中小企業のなかからインタビュー企業を探索して知見や素材を蓄積することである。 中間報告としての成果は、『CUC View & Vision』No.60（2025年9月号）の6点である。構成員は秋田舞美、石井孝昌、今井和夫、小野史人、角田光則、鈴木直志、前田進、松下幸生（研究代表者）の8名（仮名順）となっており、千葉商科大学学術リポジトリ等において閲覧できる。概要は、それぞれ以下のとおりである。

No.60（掲載順）

Ⅰ.小規模な零細企業ながら、高い加工技術を核に、社会課題解決の複数の新事業展開に挑戦—

株式会社西川精機製作所は、メッキ治具の高精度加工技術を核に、医療機器、農業支援機械、ユニバーサルスポーツ器具、超小型モビリティの4事業を展開している。社会課題解決を軸に、SDGsやゼロエミッション戦略に呼応した製品開発を推進している。特にアーチェリーでは国産技術の復活と障害者支援を目指しており、安全で身近な体験型器具を開発した。事業承継や人材育成にも注力し、国内外への展開を視野に入れている。
 

Ⅱ.変化を力に、成長を続ける外食企業の挑戦

ドリーマーズ株式会社は「串屋横丁」を中心に飲食事業を展開し、豚の飼育から加工・提供までを一貫管理する高収益モデルを構築している。震災やコロナ禍などの逆境を乗り越えて、都内中心に店舗を拡大した。接客力と「ハッピーの法則」による顧客満足を重視し、社員には経営者感覚を育む制度を導入した。変化に対応しながらも「何もしない」安定経営を理想とし、老舗のような持続可能な店舗運営を目指している。

Ⅲ.自社ブランドＡＲＡＳ立ち上げに至る経緯 —Ｂ２Ｃ展開による第二創業　石川樹脂工業株式会社—

石川樹脂工業株式会社は、OEM中心の業態から脱却し、石川勤氏（現 専務取締役）の営業実績と信頼構築を通じて自社ブランド「Plakira」、「ARAS」等を展開している。ARASは「食体験を豊かにする普段使い食器」として、環境配慮素材や高いデザイン性を特徴に成長している。クラウドファンディングやデザイン会社との協業を通じてB2C比率を高め、B2Bにも好影響を与えている。価値創造の核は「暮らしに華を添える」ことである。

 

Ⅳ.焼うにに込めた模索 —下関水陸物産の挑む「第二の看板商品」づくり—

下関水陸物産株式会社は観光需要の低迷や国産ウニの減少に直面しながらも、「焼うに」などの新商品開発と販路拡大に挑戦。地域の物語性や職人技を商品に込め、「下関で買う意味」を再定義。理念「笑顔の食卓を目指し、日々前進」のもと、社員の定着や地元との関係性を重視し、持続可能な経営改善を進めている。味や品質だけでなく、体験や記憶に残る商品づくりを通じて、地域の未来を支える企業を目指している。

Ⅴ.地域中小企業が成長・発展した経営戦略とプラクティス

株式会社ＣＫサンエツは、北陸発の中小企業から年商1,250億円規模へと成長した。釣谷社長はＭ＆Ａを戦略的に活用し、環境対応型技術や差別化製品の開発を推進している。また、信頼関係を重視した企業統合によって、シナジー効果を最大化している。社員教育や働きがいのある職場づくりにも注力し、持続可能な成長を実現している。今後は後継者育成と技術継承を通じて、地域と社会に貢献する企業を目指している。

 

Ⅵ.ないコトを創る力。あるコトをつなぐ想い。 —ケアマネジャー業務を原点に、人を結ぶ介護事業—

株式会社hareruyaは、ケアマネジャー経験を原点に介護保険外の「病院付き添いサービス」や「仕事と介護の両立支援」を展開している。制度の隙間にあるニーズに応え、地域密着型の支援を実現している。産業ケアマネ資格取得や協同組合設立を通じて企業支援にも注力をしている。行政との連携や補助事業活用によって、ポータルサイトや業務効率化システムも構築している。共存共栄の姿勢で、介護とキャリアの両立を支える社会づくりを目指している。

 

写真は『CUC View & Vision』No.60における、それぞれの記事より引用している。

プロジェクト参考サイトCUC View & Vision No.60