2025年12月15日
2025年度 奥寺PJT 中間報告
本研究は、古代ギリシアに端を発する性別役割分業思想が、近代西欧を媒介として東アジアの労働制度・家族観へどのように継承・変容してきたのかを、文献史・思想史・比較研究の観点から検討するものである。2025年度は以下の進捗を得た。
1.古代ギリシア思想の文献史的分析の進展
古代ギリシアの家族観・労働観に関する主要文献および先行研究を整理し、性別役割分業をめぐる思想的特徴の抽出を進めた。現段階では、これらの思想が近代以降にどのように受容・再編されてきたのかについて理論的枠組みの検討を深めており、具体的な影響関係の明確化には今後の制度史的研究が必要である。
2.日本・台湾の制度・政策に関する予備的比較整理
日本および台湾における「女性活躍推進」「働き方改革」「両立支援」などの制度・政策について、先行研究を手がかりに、政策が依拠してきた家族観や性別役割意識との関係性をめぐる論点整理を行った。現時点では制度文書や一次資料の本格分析には至っておらず、今後の史資料調査を踏まえ、思想史と制度史の接点を精緻化していく予定である。
3.2026年2月台湾調査に向けた準備と調査計画の確立
2026年2月に実施予定の台湾現地調査に向け、調査対象施設(労工記念館、女性史資料館等)の選定を完了した。
台湾における女性労働史や家庭政策の歴史的展開を示す展示資料・史料から、労働制度や家族観の変遷を読み取り、日本との比較視点を広げることを目的としている。現在は、収集すべき資料や観察項目の整理を進めており、制度と文化の齟齬が政策運用や社会認識にどのように表れているのかを実地的に検証するための準備を進めている。
4.社会貢献活動(研究代表者による講演実績)
2025年度は、本研究のテーマと深く関わる女性労働やワーク・ライフ・バランスに関して、研究代表者・奥寺葵が、労働組合主催の以下の2件のセミナーに登壇した。
これらの講演活動は、研究成果を社会へ発信するとともに、現場の課題認識を研究へフィードバックする重要な機会となった。
(1) JAM東京千葉「女性参画セミナー」講演
日 時: 2025年5月31日(土)11:10〜12:10(60分)
会 場: セミナーハウス クロス・ウェーブ船橋(WEB併用)
主 催: JAM東京千葉
参加者: 38名
講演テーマ:
「ワーク・ライフ・インテグレーション」
— ライフステージに応じた柔軟な働き方が労働者と企業双方にもたらす意義 —
内容概要:
柔軟な働き方の必要性と労働者・企業双方への意義を解説し、参加者との質疑を通じて現場の課題と理論的視点を結びつけた。
(2) With東京千葉 第19回 総会セミナー 講演
日 時: 2025年11月8日(土)11:15〜12:30(75分)
会 場: 東京ミッドタウン八重洲 八重洲セントラルタワー(WEB併用)
主 催: JAM東京千葉 With東京千葉
参加者: 約26名
講演テーマ:
「ワーク・ライフ・バランスの労働観 — 女性の『社会進出』の視点から —」
内容概要:
女性の社会進出をめぐる労働観やWLBの歴史的展開を解説し、働き方改革の課題と展望を議論した。参加者の声を受け止めながら、研究の深化につながる示唆を得た。