2025年12月05日
フィジーの持続可能な開発に向けた潜在性の発掘:観光の受入れの観点から 中間報告
研究代表者 藤田 輔(国際教養学部 准教授)
共同研究者 山田 耕生(人間社会学部 教授)
1.趣旨
本研究は,太平洋の島嶼国が地理的制約により製造業中心の発展が難しい中で,地域資源を活かした自立的経済発展の可能性を探るものである。フィジーを対象国としつつ,観光を切り口として現状と課題を分析し,持続可能な観光(Sustainable Tourism)の観点から内発的・循環的な発展のあり方を考察した。
サステナビリティ研究所の兼担研究員や客員研究員の先生方より、定常的プロジェクト・競争的プロジェクトについてご報告いただき、フロアの皆様との間で活発な議論が行われた。
2.フィジーの概況
フィジーは人口約94万人の中所得国で,観光業がGDPの約2割を占める主力産業である。2019年には観光収入がGDPの18.8%を占め,コロナ禍で一時低下したものの,2024年にはコロナ前を超える98万人超の観光客を迎えた。一方,来訪者の約7割は豪州とNZからで,日本からの比率は1%程度に留まる。主要産業は観光に関連する宿泊・飲食,運輸,情報通信業等で,農業ではサトウキビやマグロも重要な輸出品である。
3.フィジーにおける現地調査
事前にフィジー政府観光局東京事務所における聞き取り調査も行った後,2025年8月23~30日に実施された現地調査では,ナンディ,ヤサワ諸島,スバ等を訪問した。その中で,現地のリゾートホテルの取組みとして,自然保護区に立地するBarefoot Kuata Island Resortが海洋保全活動を観光に組み込み,地元雇用や文化体験ツアーを提供していたことが分かった。また,大型のPearl South Pacific Resortでは,廃棄物管理や社内研修を通じた環境意識の向上が進められていた。一方,地域文化への観光客の関心の薄さ,過剰漁獲,気候変動によるリスク,出稼ぎによる人材流出等の課題も確認された。
さらに,国際協力機構(JICA),国連児童基金(ユニセフ),在フィジー日本大使館等への聞き取り調査では,気候変動対策,防災・廃棄物管理,教育制度の改善が重要課題として挙げられた。観光業が地域経済を支える一方で,自然,文化,経済の三側面から持続可能性を確保する必要が強調された。とりわけ,地域住民主体の文化継承や教育による人材育成が今後の鍵とされると認識できた。
4.現時点での考察
これらを受けた考察としては,フィジーの観光において,①自然環境の保全意識の高さ,②地域文化保存の取り組みと観光客需要の乖離,③地元雇用による経済循環の試み,の3点を見出すことができた。なお,2025年からはフィジー政府が「Loloma Hour」プログラムを導入し,観光業におけるサステナビリティ向上を推進しようとする動きが見られている。
5.今後の計画
今後は,フィジー政府観光局等との追加取材に加え,2026年2月に島嶼地域(奄美群島)での国内の現地調査の実施も検討し,フィジーの経験から日本が学ぶべき点も踏まえ,持続可能な観光を介したより良い日本・フィジー関係を追求していきたい。