研究プロジェクト

研究代表者 藏田 幸三(総合政策学部 准教授)
共同研究者 手嶋  進(人間社会学部 教授)
      小栗 幸夫(千葉商科大学 名誉教授)
      関水 信和(千葉商科大学 客員研究員)

Ⅰ. 研究の経緯と目的

私たちは「歩行を基本とし多様な移動体が適正な速度で調和する移動」を「ソフトモビリティ」と呼び、その実現を目指す研究・提案・実践をしている。その目的は、自動車の利便性を活かしながら、それへの過剰依存のデメリットを極小化した持続可能な地域社会の実現である。
この研究は、2000年の「ソフトカー(最高速度制御と速度外部表示装置を搭載した車)」の研究計画の政府のミレニアムプロジェクト採択に始まり、様々な展開をした。しかし、車の価値の中心とみなされる速度を制御しようとするソフトカーの普及には様々な壁があった。
この経験を経て、私たちは、2021年から、ペダル踏み違え回避に焦点をあわせ、操作の足がブレーキ側だと赤ライト、アクセル側だと青のライトがドライバーの眼前で点灯する「アクセル・ブレーキ操作認識表示装置(ABOiD:Accelerator-Brake Optical identification Devise)」の試作品開発を始めた。ペダル操作の足を検知するために、光センサーを採用している。

ABOiDの仕組みと車載ABOiD試乗(動画)

ABOiD試乗(動画)※外部サイトへ遷移します

ABOiD搭載車の試乗、展示、大学授業、学会発表などで、装置の効果、社会的受容、早期実用化の期待の高さを確認した。また、国土交通省物流・自動車局で、「運送車両の保安基準」に適合すれば、ABOiDの車載は可能と確認した。
試乗を通して、ABOiDがペダル踏み違え回避を支援する装置となると確信したが、同時に、車と歩行者との交錯がおこりやすい場所(繁華街や住宅地の細街路など)では、ドライバーがいつでもブレーキが踏めるようにペダル操作の足をブレーキ側に置いて走行する習慣を身に着けさせる装置ともなることに気づいた。将来、赤・青のライトを外部に向けた走行が可能になれば、車の行動が外部の歩行者や車両からもわかり、ABOiDは調和的な移動に貢献するだろう。
こうして、ABOiDがソフトモビリティの端緒を開き、長期的に、持続可能な地域社会の形成に貢献するという視点でこの研究に取り組んでいる。

Ⅱ. 活動内容と進捗状況

2025年4月以降、以下のような展開をした。

(1)新特許申請  
発明の名称 :ブレーキアクセルペダル操作意思検知表示装置及び該装置を搭載した自動車 / 出願番号:特願2025-080861 / 出願日:2025年5月14日 / 出願者:株式会社Soft Mobility Initiative(小栗、関水他が2021年に設立した大学発ベンチャー)

(2)ABOiDの改善と複製
2023年に製作したABOiDは1台であった。2025年7月にそのセンサー部分を改良し、3台を複製した。

(3)ABOiD製品化の協議
ABOiD試乗(動画)本研究に先がけ、小栗・関水が2025年1月に、加藤電機株式会社(本社:愛知県半田市)・加藤社長と面談し、事業化に向けた協議を始めた。 2025年7月、加藤電機開発担当者、榎本氏を訪問し、ABOiD搭載車両の試乗を依頼した。同氏からは、「足を移動した段階で、ペダルを踏む前に、表示が速やかに作動し、継続的にペダルを踏んだ足の位置がわかり、これまでにない経験をした。ビデオを見てある程度理解していたが、実際に運転するとより効果が実感できた」とのコメントを得た。持参したABOiD複製を預けた。 その後、榎本氏から「製品化に向け、有線で、ToF(Time of Flight)センサーの利用を検討中」と連絡があった。ToFセンサーは光の到達速度を距離に変換するもので、私たちが開発したものと同じだが、小型のセンサーが採用される予定である。

(4)大阪大学大学院人間社会研究科・篠原一光教授との意見交換
ABOiD試乗(動画)篠原教授は2010年頃から、交通心理学の立場から、ペダル踏み違い要因分析をおこなっている。2023年に、同教授とzoom 会議をおこなったが、ペダル踏み違えではドライバーがパニックに状態に陥っており、そのときABOiDによってペダル踏みかえをおこなうか疑問を示した。
小栗は、篠原教授を2025年10月に訪問し、面談とともに、ABOiD搭載車両の試乗をしていただいた。同教授は、ABOiD搭載のペダル踏み違えの回避効果を示す実験が必要があると述べ、小栗はこの意見を了承。これを踏まえ、篠原教授は次年度以降の共同研究の可能性を示唆した。

2.モデル自治体での調査・提案など
ABOiDは、個々の車両に搭載され、それぞれの安全性を高めるものだが、その普及を重点にはかり、ソフトモビリティを基盤とした持続可能な社会のモデル地区をつくることを構想した。以下に、その取り組みを説明する。

(1)市川市
市川市では2000年のソフトカープロジェクト開始以来、千葉商科大学学生・教職員はもちろん、市役所、商工会議所、大学周辺の事業者・居住者と密な協力関係を築いてきた。
ABOiD開発も以来、藏田担当の授業で小栗・関水が 「ソフトモビリティとベンチャー」 を論じ、地域の祭でABOiDを紹介し、田中甲市長、石原義徳議員、道路交通部および経済産業課スタッフと協議をおこなった。
2025年度は、市内の自動車学校、市川市を業務エリアとするタクシー会社を訪問したが、今後、ABOiDの製品化の進捗状況をみながら、今後、市川市市政関係者、交通事業者などとの協議を進めることとしている。

(2)島根県美郷町
島根県美郷町(人口3,800人)は小規模な中山間地域の町である。2025年9月、藏田は現地調査を実施し、町長、副町長、役場関係部署との意見交換および現地の地域性・環境を調査した。
あわせて、学生のフィールドワークの試行を行い、若者が小規模・中山間地域の安心・安全なまちづくりに向けた関わり方についても検討を行った。小規模自治体であることから、行政と住民の距離が近く、より生活に密着したニーズ・課題に対して、行政が直接的に関与する領域が大きいことが明らかとなった。今後の継続的な大学・学生の関与の方法について、地域特性に合わせた仕組み・コミュニケーションが必要であることが明らかとなった。

(3)岐阜県多治見市、瑞浪市
多治見市(10.7万人)、瑞浪市(3.5万人)は小栗の故郷で、多くの知人がいる。名古屋への通勤限界にあり、地場の陶磁器産業の衰退も背景として、人口減少が進んでいる。中心市街地が衰退し、車での移動が基本である。
a. ABOiD試乗 
本年7月、9月に小栗は多治見市、瑞浪市を訪問した。多治見では中部陸運局OBのH氏(79才)が試乗を行い、「ABOiDは運転に慣れない人や高齢者の必需品」との意見を述べた。瑞浪では免許取得から間もないMさん(専門学校生、18才)が試乗したが、「運転をしながら自然に足の位置がわかるのはメチャいい」という意見を述べた。

b. 市政関係者、財界人などとの協議
瑞浪市は小栗の出身市であり、7月、9月の出張時に、市の都市開発担当者、渡邉康弘議員、景山助夫商工会議所会会頭らにABOiDを説明し、逆に、駅前の市街地整備事業の説明を受けた。ABOiDに一定の関心を示されたが、加藤電機との共同事業の結果待ちという感触であった。一方、駅前の衰退が問題となっており、市が立案した市街地整備事業への不安が強いことがわかった。

多治見市は小栗が通学した高校がある都市である。6月、7月の出張時に、多治見でも駅前整備が課題であることがわかった。9月の訪問時には、多治見市役所で、市長、および、市役所幹部7名に、駅周辺開発についての意見を述べ、ABOiDを紹介した。ここでも主な議論は駅周辺開発であった。

(4)香川県宇多津町、三豊市
香川短期大学・岩倉洋平准教授(大学発ベンチャー取締役)の地元である香川県宇多津町(2.1万人)、三豊市(5.7万人)にABOiDを送り、大学や産学官ネットワークで紹介を進めてもらっている。
香川短期大学は多度津町の区画整理地の中にあり、学生たちも車で通学している。三豊市も自動車依存のまちだが、行政が Slow Mobility 事業に取り組んでいる。一方、住民の活動によって父母が浜(ちちぶがはま)が集客の場となり、隣接する仁尾古街でも歴史的町並み活性化の動きがあり、ソフトモビィリティのモデル地区となるポテンシャルがある。

3.鉄道駅を中心とした新しい都市・交通モデルの検討
本研究は、ABOiDを契機として、持続可能な地域基盤を形成する方策を示すことを目的として開始したが、ABOiDは個人の車に搭載されるもので、自治体に「持続可能な地域」のイメージをさせる装置としてはインパクトが十分でない。
一方で、地方都市では公共交通が弱体化しているが、鉄道が地表に敷設されることで駅面(おもて)と駅裏がわかれ、駅周辺の開発ポテンシャルが制約される。これは、岐阜県多治見市、瑞浪市で明確に見られる現象で、駅とその周辺のあり方を地方都市に提示できれば、本研究の目的が明瞭に示される可能性がる。
そこで、長期的な地域のあり方の展望を示すために、「駅の半地下化などによるソフトモビリティゾーンの形成」をテーマとして、その概念・事例・課題検討をはじめた。この結果、次のような展望が整理できた。

①駅の半地下化・地下化は大都市やその郊外で盛んにおこなわれ、駅の機能が高まり、その周辺が歩行を中心とした自然発生的なソフトビィティゾーンとなっているケースが多い
②駅の半地下化・地下化はコストが高く、それを支える事業・政策(連続立体交差事業など)も大都市や地方中心都市が主体となっている
③しかし、地方都市の駅周辺も、地下化ではなくても、低コストで駅面・裏をつなぐ仕組み(スイカなどの交通系電子マネーの利用)で駅の機能が高まる
④長期的には、地方分権の制度改革と連動して、地方都市においても、駅の半地下化促進の事業を検討する

以上はまだ仮説段階だが、長期にわたってソフトモビリティの研究発表を重ねてきた学会・ITSシンポジウム(主催 ITS Japan、2025年12月17日~18日に広島国際会議場で開催)で論文発表をおこなった。

 

Ⅳ.2026年度に向けたプロジェクト実習を視野にいれた研究の推進


2026年度に本研究に沿った演習を手嶋が実施することになっており、それを念頭に研究を進めている。