時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

ありがたいことに毎年、わたしの誕生日にゼミの卒業生が集まってお祝いしてくれます。いつもは銀座のレストランでご馳走してくれるのですが、ことしは横浜のはずれの我が家でわいわいやりました。だんなさんや奥さん同伴で来る卒業生もいて大変にぎやかでした。

そこである卒業生から出された話題が、住宅購入資金を変動金利で借りるべきか、固定金利で借りるべきか、というものでした。男女合わせて半数くらいが銀行や証券会社に就職していることもあって、専門的な観点からの議論で盛り上がりました。

というのも、このところの長期金利の低下が著しいことが議論の背景にあります。正月明けには、10年もの国債の市場利回りが、一時的に0.1%台に落ち込みました。住宅ローンの金利の変動型では1%を大きく割り込んでいますし、固定型でも1%台半ばまで低下しています。

問題提起をした中国からの留学生で欧州のメガバンクにつとめる卒業生(女性)は、とりあえず変動金利で借り、金利が上昇局面に移行するタイミングで固定金利にしてはどうか、という意見でした。他の女性たちにも賛同者がいました。一方、大手監査法人で公認会計士の資格を持って国際的なM&A(企業の売買)業務に携わっている彼女の日本人の旦那さんは、長期金利の水準は将来を見通しても極限レベルの低さである、何年先かはわからないが、いずれにしろ今後は下がるのではなく上昇してゆく。その時点で変動から固定に切り替えるといってもタイミングをとらえるのは困難だ。20年から30年間、借りるのだから、いま固定金利で借りるべきだ、という意見でした。わたしも同様の意見を述べましたし、大手証券のディーラーとして活躍している卒業生(男性)もそうでした。男性には固定金利派が多く、女性には変動金利派が多かったように思います。男性は不確定で抽象的なことがらに関心を持つ傾向が強く、女性は確実に起こっている現在にこだわるという性向があるということでしょうか。

いずれにしろ現在の超低金利は、「異次元の超金融緩和」を続ける日銀の政策を色濃く反映したものです。黒田日銀総裁は総裁就任直後(2013年4月)に、1.マネタリーベース(日銀当座預金+通貨発行量)を2014年末までに倍増させる 2.そのために銀行から買い取る長期国債の保有残高を2倍以上(2014年末に190兆円)とする—という大方針を掲げ、実現させました。昨年秋にはさらにこのペースを速めることを決めています。この結果、国債市場の需給は逼迫し、金利がゼロ近傍にまで低下(価格は上昇)しているのです。

消費者物価前年比上昇率が2%程度で安定するまで2年程度の期間を念頭に異次元緩和を続けるというのが当初の方針でした。原油価格の急落があったこともあって、多少、目標達成がずれそうだ、というニュアンスの見通しを1月に明らかにしていますが、まだ2~3年は超低金利が続くというのが、専門家にほぼ共通した見方です。

問題はその後です。名目金利はゼロ以下には下がらないのですから、どこかの時点で上昇に転じるでしょう。日銀が目指しているように、2年か3年で2%の物価上昇率目標が達成できたとすると、そのあたりから金利は上昇し始めるのではないでしょうか。物価が上がれば名目金利も上がって行かざるを得ないからです。住宅ローンの変動金利が1%を大きく割り込んでいるような現在の状況は2~3年しか続かないということになるわけです。その後、20年も30年も借りることを考えれば、1%台で借りられる固定金利を選ぶべきだ、ということになります。みなさんはどう考えますか。
(2015年1月29日記)


内田茂男常務理事

【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)ほか