教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

地域・暮らし

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平成29年版高齢社会白書によれば、日本社会の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は27.3%に達しています。国民の4人に1人が高齢者という、世界の中でも突出した超高齢社会であることが指摘されて久しく、メディアでも「少子高齢化」という言葉を見聞きしない日はありません。社会の高齢化の問題は数ある社会的課題の中でも取り組むべき優先順位の高い課題であり、政府セクター・企業セクター・市民セクターそれぞれに多様な取り組みを進めています。その背景には、高齢者の介護・見守りのニーズ増大に介護保険制度が対応しきれなくなっていることがあります。地域では、地域内ネットワークによる支え合いの仕組みづくりが求められています。

市民同士が支えあう仕組みづくりが求められている

住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・介護予防・生活支援の一体的提供をめざす「地域包括ケアシステム」の構築が各地域で進められています。地域包括ケアシステムにおいては「自助」「互助」「共助」「公助」の考え方が示され(図1参照)、支え手不足の問題を解決する一方策としてボランティアや地域住民による「互助」の強化が推進されているのです。

図1

介護保険制度において2015年4月にスタートした介護予防・日常生活支援総合事業1では、それまで全国一律の基準により予防給付として実施されていた訪問介護と通所介護について、介護職や医療職による専門的サービスのみならず地域住民など多様な主体2による多様なサービスを市町村単位で提供することになりました。また介護予防・生活支援の充実を目指して、高齢者が元気なうちから切れ目のない介護予防を継続していくことや、生活支援の担い手となって生きがいや役割をもつことによって互助を推進していくことなどが盛り込まれました。ここで意図されている生活支援の具体的内容としては、見守り・安否確認、外出支援、買い物・調理・掃除・洗濯・ゴミ出しなどの家事援助、地域サロンの開催などが挙げられます。

このように地域で支え合う仕組みづくりが模索されている中、問題意識をもった人々が地域人材を結びつけ、生活支援サービスを有償/無償で提供する取り組みを試行している地域があります。そうした取り組みには、ニーズは高いものの介護保険制度内では提供できないサービス(例えば大きな家具の移動や大掃除の手伝い、不在中のペットの世話、庭の草むしり、趣味/娯楽としての外出への同行、お酒やたばこなどの嗜好品の買い物、など)3も含まれており、高齢者が地域で安心して生活していく上で、また生活の質を高める上で大きな意義をもちます。しかしながら支え手不足4、資金不足といった課題を抱えており、こうした市民による自発的な取り組みが発展・普及していくためには、効率的・持続的実施のためのマネジメントシステムづくりを急がねばなりません。


  1. 市町村が中心となって、地域の実情に応じて地域の支え合いの体制づくりを推進し、住民等の多様な主体が参画し多様なサービスを充実することにより、要支援者等に対する効果的かつ効率的な支援等を可能とすることを目指すもの。事業体制整備や段階的実施のための移行期間を経て、2017年度中には実施していくことを市町村に求めている。(厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業のガイドライン」)
  2. 住民組織、地縁組織、NPO法人、社会福祉法人、社会福祉協議会、シルバー人材センター、協同組合、民間企業など
  3. 高齢者の単身世帯が増えている中にあっては、元気であっても生活支援サービスを必要とするケースが増えている。
  4. 日本経済新聞2017年5月18日「軽度介護 新手法が低調—住民主体型4%どまり 担い手不足」では、ボランティアやNPOによる住民主体型サービスの参入が低調である旨が報じられている。

市民による生活支援サービスの効率的・持続的実施をめざして

千葉商科大学では学生によるボランティア活動のひとつとして、買い物代行を中心とした生活支援活動「CUC宅配サービス」を実施しています。また筆者が参画している一般社団法人セーフティネットでは、日常生活の困りごとの相談とスキルを持つ市民をマッチングし支え合う生活支援活動「まごころサービス」を実施しています。これら2つを実験フィールドとして2016年8月~2017年2月、クラウド・スマートフォンを活用する活動履歴管理システム「キャリア介護システム」 を導入し、市民サービスの活動履歴の蓄積・管理、およびマネジメントシステム構築を図る実証実験を行いました。

表1

この実験の結果、いくつかのインプリケーションが得られましたが、その中でもとくに注目に値するものが次の通りです:

  • キャリア介護システム活用により、リアルタイムでの正確な情報蓄積と人の動きのトレースが可能になること。
  • 支援者間でひとつのシステムを活用して日常的にコミュニケーションすることにより、活動へのコミットメントが高まり、コミュニティ形成が進むと考えられること。
  • 本実証実験への参加をきっかけとして、これまで生活支援サービスにとくに強い関心をもっていなかった支援者の中から関心とコミットメントが高まった支援者が輩出されたことから、まずは気楽にやってみる機会・場を提供することが関心層を広げていく可能性をもつこと。
  • 市民間の互助・互酬のサービスであることを新たな利用者にも理解いただくためには(消費者教育のような)利用者ルールの策定が必要と考えられること。

また併せて次のような課題も明らかになりました:

  • 支援者が疲弊することなく持続可能な活動とするために、利用者1人を複数人で支援する体制づくり(地域人材の発掘・組織化)やインセンティブづくり、事務局機能の効率化(利用者と支援者のマッチングや経理処理のためのシステム開発)が必要であること。
  • 支援者間のサービス品質のばらつきを低減する品質保証のための研修が必要であること。

これらを踏まえて、キャリア介護システムの改修作業を行い、引き続き実証実験を行う予定です。超高齢社会の日本において、各地域で高齢者が自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるような地域での互助のサービスとはどのような生活支援サービスなのか、引き続き議論を深めながら、効率的・持続的実施のためのマネジメントシステムづくりを進めていきたいと考えています。


【主要参考文献】

  • 大倉邦夫(2015)「特定非営利活動法人ケア・センターやわらぎ-24時間365日の在宅介護サービスを通じた高齢者・障害者支援の取り組み」谷本寛治編著『ソーシャル・ビジネス・ケース:少子高齢化時代のソーシャル・イノベーション』中央経済社,pp.203-252。
  • 鏡諭編著(2017)『介護保険制度の強さと脆さ:2018年改正と問題点』公人の友社
  • 厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000074126.html(2017年4月30日確認)
  • 齊藤紀子・熊野健志(2017)「高齢者を対象とした生活支援サービスのマネジメントシステム構築—活動履歴管理システムの実証実験から得られた示唆」『千葉商大論叢』(近刊)
  • 内閣府「平成29年版高齢社会白書」http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/index.html(2017年9月16日確認)
  • 日本経済新聞2017年5月18日「軽度介護 新手法が低調—住民主体型4%どまり 担い手不足」

解説者紹介

専任講師 齊藤 紀子