時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

中国共産党が11月上旬に、習近平(共産党総書記・国家主席)政権の今後の方向性を定めるきわめて重要な会議を行いました。第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)と言われている会議です。公表されたコミュニケ(公報)によりますと、この会議で毛沢東、鄧小平時代に続いて第3回目の歴史決議を採択し、鄧小平が主導した社会主義市場経済体制から建党以来のマルクス・レーニン主義による社会主義へ大きく舵を取る方向性が明らかになっています。また来年後半に開催する第20回党大会に向けて習近平体制を一段と強化し、「習近平の新時代」へ移行することを宣言しています。

歴史決議はまず、「党結党の100年の奮闘の重大な成果と歴史的経験を総括することは、建党100年という歴史的条件下で社会主義現代国家の全面的建設の新たな道のりにつき、新時代に中国の特色ある社会主義を堅持し発展させるために必要なことである」として、結党から2021年までの100年を、「1921年の党創設から毛沢東時代」、「鄧小平時代」、「その後現在に至る習近平時代」の3つに区分してそれぞれの総括を行っています。全文を掲載した日本経済新聞(11月13日付)をもとに筆者なりに要約すると次のようになります(敬称略)。

毛時代

毛沢東はマルクス・レーニン主義を中国の具体的な実情と結びつけて毛沢東思想を打ち立て、「農村から都市を包囲し、武力によって政権を奪取する」という正しい革命の道を開いた。中華民族の独立と人民の解放を実現し、旧中国の半植民地・半封建社会の歴史に完全に終止符を打った。

鄧時代

改革開放と社会主義現代化を推進するために社会的生産力を発展させ、人民を貧困から抜け出させた。党と国家の活動の中心を経済建設に移し、改革開放を実行するという歴史的政策決定を行った。21世紀半ばまで3つの段階に分けて進み、社会主義近代化を基本的に実現するという発展戦略を定めて、中国の特色ある社会主義を創始した。社会主義市場経済体制の改革目標と基本的枠組みを確立した。

習時代

習近平はこれまでの歴史を十分生かした「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の主要な創始者」である。党は習近平同志を党中央と全党の核心としての地位に据えた。社会建設では人民の生活が全方位で改善し、社会の長期的安定という奇跡を記し続けている。国防力と経済力が同時に向上した。中華民族が「立ち上がることから豊かになる」ことから「強くなる」ことへの偉大な飛躍を成し遂げた。

最後に、今後の方向性についてコミュニケは次のようにうたっています。

——2022年に開催する第20回党大会は「2つ目の100年」(注:毛沢東が1949年に中華人民共和国を建国してから100年目の2049年に向けた100年)に向けた新たな道のりに入る重要な時期に開催される。全党、全軍、全国各民族人民は習近平同志を核心とする党中央を中心に一層緊密に団結し「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を貫徹し、中国の夢の実現に向けてたゆまず奮闘しなければならない。

2020年11月の本欄で書きましたように、中国共産党は昨年の中央委員会全体会議で(1)2035年までにGDP(国内総生産)総額と一人当たりGDPを2倍にし、中等先進国になる (2)世界トップレベルのイノベーション先進国となる (3)国防と軍隊の現代化を基本的に実現する——という長期計画を策定しています。習政権は中国建国100周年(2049年)には「社会主義現代化強国」を実現しているという大目標を掲げています。

今回の6中全会はこれらの目標を歴史的に位置づけたということになります。さらに重要なのは、経済拡張路線を突っ走り、中国を世界第2の経済大国(GDP大国)に一気に引き上げる土台を作った鄧小平の改革開放・社会主義市場経済の枠組みを転換し、習近平への権力集中を強化することによって民主主義、資本主義からかけ離れた「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義」に移行することを明確に打ち出していることでしょう。巨大な経済、軍事大国がわたしたちを別の方向に歩みだそうとしているのです。日本はもちろん、世界経済、国際社会に大きな影響を与えるはずです。この点はもっと詳しく別の機会に記そうと思います。
(2021年12月2日記)


内田茂男常学校法人千葉学園理事長

【内田茂男 プロフィール】
1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか