時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

いつもそうなのかもしれませんが、日本の将来について、悲観的な見方が国内外で多いように見受けられます。高齢化が先進国でも例のないスピードで進み人口減少は行き着くところまで行かざるを得ない、という動かし難い“事実”があることに加え、すでに現状で政府財政が危機的状況にあり、改善の見通しが定かでないことが最大の論拠となっています。

実は、「未来悲観論」の浸透は、日本ばかりではなく欧米先進国にほぼ共通した現象といってよいでしょう。代表的なものではローマクラブの「成長の限界」(1972年)に始まるエネルギー・環境制約論がありますが、この流れとは別に、数千年の人類の歴史を俯瞰した壮大な歴史観察からの文明論の代表作の多くも将来を楽観的にはみていないようです。
その中の一冊、グレン・ハバード、ティム・ケイン「なぜ大国は衰退するのか」(久保恵美子訳/日本経済新聞出版2014)は、米国を代表する経済学者(ハバードはブッシュ政権時代の大統領経済諮問委員会委員長、現コロンビア大学教授)による洞察に富んだ力作だと思います。この中で著者は、経済的不均衡は政治的停滞に原因があるという結論を導き出しています。そのうえで日本の現状について大略、次のように述べています。

  1. 日本は維持不能な規模の国家債務を抱えたことで、これまで大国が衰退する一般的な道を歩んでいる。
  2. 日本はこれまで経済を発展させるためにあらゆる布石を打ってきた。しかしいまや碁盤は埋め尽くされている。
  3. これから経済を進化させるためには、碁盤からすべての石を取り除き、新たな布石を打たねばならない。

こうした現状分析のうえで、既得権益を打破し、アメリカのような自由で競争的な社会を構築できるかどうかにかかっている、と分析しています。
この点については、「歴史の終わり」以来、ほぼ四半世紀ぶりに「政治の起源」という大著を著したフランシス・フクヤマ(「政治の起源」会田弘継訳、講談社2013)も、日本の戦後経済システムは戦後の成長期を経て、多くの利権集団ができあがっていき、自民党の政治家と所官庁に強い影響力を及ぼすようになってきた、と警告しています。

それでは直近の日本の政治状況はどうでしょうか。筆者は、既得権の打破という最大の課題の一角は、安倍首相が今度の施政方針演説で明確に述べたように、JA全中の解体を内容とした農協改革で突破口が開かれたと思います。可能な限りの自由、オープンな経済交流を目指すTPP(環太平洋経済連携協定)の発足にも目途がつきつつあります。
しかし、既得権集団の力はまだまだ列島のすみずみに浸透しています。まだシステム改革は緒に就いた段階だといえましょう。
(2015年2月26日記)


内田茂男常務理事

【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)ほか