時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

10月22日に投票が行われた戦後48回目の衆議院議員選挙(総選挙)で自民党が圧勝し、憲法改正に積極的な改憲勢力が全議員の2/3を超える結果となりました。2016年7月の参議院議員選挙で自民党を中心にした改憲勢力は2/3を超えていますから、いよいよ安倍晋三首相の念願である、第9条に自衛隊の存在を明記することを柱にした憲法改正が行われることになるでしょう。国会で発議されれば国民投票が実施され、国民の過半数が賛成すれば戦後初めての憲法改正が実現します。こうした結果を生み出した今回の総選挙は何を意味しているのか、改めて考えてみましょう。
その前に少しおさらいをしておきます。

まず憲法第9条ですが、次のように2つの項目で構成されています。

  • 第1項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
  • 第2項:前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。

自民党はこれに第3項を加え、どのような表現になるかわかりませんが、自衛隊の存在を明記する方針です。自衛隊は違憲だ、とする一部の考え方を排除するのが目的だといわれています。

これに関連して「集団的自衛権の行使を容認する」ことを明確にした2014年7月の閣議決定を経て2016年9月に成立した安全保障関連法制についても触れておきましょう。安保関連法制というのは、武力攻撃事態法など一連の法律で、「存立危機事態」(具体的には同盟国であるアメリカの軍隊が攻撃を受け、それが日本の存立にかかわると政府が判断した事態)が発生した場合、憲法に抵触する可能性があるとしてこれまで政府が封印してきた集団的自衛権の行使を限定的に認め、海外であっても日本の自衛隊が攻撃に参加することができることを定めたものです。今回の総選挙で、例えば立憲民主党は「安全保障関連法制を前提とした憲法9条の改悪に反対」を公約に掲げて憲法9条とからめて安全保障関連法制に反対しています。

それでは憲法改正は具体的にどのような手続きを経てなされるのしょうか。憲法改正はまず、衆議院議員100人、参議院議員50人以上の賛成で原案が国会に提出されなければなりません。その憲法原案を衆参両院の憲法審査会が審査し、それぞれ過半数の賛成で可決されると本会議に提出されます。憲法96条は「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」と規定し、投票した国民の過半数の賛成で初めて憲法改正が決まることになっています。なお国民投票は憲法改正手続法で、国会の発議後、60日から180日以内に行われます。投票権は18歳以上の国民すべてにあります(憲法96条)。

おさらいが長くなってしまいましたが、今回の総選挙は以上のようにやや大げさにいえば平和憲法の精神を厳格に履行してきた戦後体制を部分的にしろ見直すかどうか、について国民に問いかける性格のものでした。にもかかわらず投票率は戦後2番目に低かったと伝えられています。そうした中で第9条を含む憲法改正に道を開くという選択がなされたわけです。どう考えたらよいのでしょうか。今回は問題提起に終わりましたが、次回、考察を加えたいと思います。
(2017年10月25日記)


内田茂男常務理事

【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか