時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

中国経済は2010年までほぼ年率10%の高度成長を維持していました。2011年の成長率は9.3%でしたから、高度成長は2011年まで続いたとみてよいでしょう。ところが2012年に7.7%に低下し、昨年は7.4%まで減速しました。このようなトレンド変化を踏まえて、中国政府は今年の成長率目標を7%に設定しています。その後の経過はどうかといいますと、今年に入って第I四半期、第II四半期とも前年同期比7%を維持しましたが、第III四半期は6.9%と7%を割ってしまいました。「減速する中国経済」といった見出しで大きく報じられましたから気が付かれた方も多いと思います。

毎月発表される輸入額は内需の動向を色濃く反映すると考えられていますが、昨年後半から前年同期を下回るようになり、直近の9月は前年同期比20.4%減という大幅減を記録しました。国内需要はかなり急速に冷え込んできているとみてよいでしょう。中国は、GDP(国内総生産)で日本の2倍強、世界の13%(2014年、IMF統計)を占める世界第2の経済大国ですから、この国の経済減速は世界経済に大きな影響を与えることは間違いありません。IMFなどの国際機関は中国経済の成長低下が今年から来年の世界経済の大きなリスク要因だとみています。

この中国経済の減速は、一時的あるいは循環的な性格のものではなく高度成長から中成長、あるいは安定成長への移行過程、つまり構造的な変化を表しているという見方が大勢です。

やはり年率10%前後の実質成長を続けた日本の高度成長は、1970年前後に終わったというのが定説です。農村部から首都圏など巨大都市圏への人口流入が大きく減少したことが最大の要因でした。1973年秋に起こった石油ショックが成長減速の追い打ちをかけたかたちになりました。

日本の高度成長は就職列車、集団就職という言葉に象徴された地方から大都市への人口移動→大都市での世帯増→家電製品などへの需要増加→家電産業などの供給力増加(設備投資増加)→大量生産による「規模の経済」→企業の収益力向上→製本値下げ、労働者の賃金増加→家電製品などの需要増加→供給力強化のための設備投資増加。

このように需要増加→供給量増加→需要増加、という好循環が15年間も続いた結果、未曽有の高度成長、「世界の奇跡」といわれた高度成長が実現したのでした。しかし、1970年代に入るとともに成長率は半減を繰り返し、80年代後半のバブルの時代の5年間に年率5%前後の成長を記録した後、バブル崩壊とともにゼロ成長に陥り、最近まで「失われた20年」とも表現されるデフレ時代を経験することになったのです。

中国でも最近の減速は、農村部からの労働力移動が減少し、構造的な労働力不足が潜在成長力を制約し始めたことを示しているという見方が専門家の間で有力になってきました。次回はこの点を日本の経験と比較しながら検討したいと思います。
(2015年12月7日記)


内田茂男常務理事

【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか