時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

市川市の教育委員をしている関係で、9月初めに市川市の小学校、中学校約50校の校長先生方に話す機会がありました。テーマは「教育と経済」ということにしましたが、本欄で取り上げてきた経済成長の議論と密接に関連していますので、そこでの講演の要旨を2回にわけてまとめておきたいと思います。

まず最初に、安倍政権の「成長戦略」でも重要なテーマとなっている、教育と経済成長の関係についてお話しました。

大分前になりますが、ノーベル経済学賞を授与されたアメリカのR.ソロー教授は、経済成長の中身を生産要素(生産するのに不可欠な労働力、生産設備)と技術水準(労働力や生産設備の能率)に分解してそれぞれの要素がどの程度、成長に寄与したかを表わす次のような方程式を考案しました。

経済成長率(物価変動を除いた実質経済成長率)
=労働分配率×労働力増加率+資本分配率×資本設備増加率+技術水準上昇率

総生産量を表わしているGDP(国内総生産)は労働力投入量、資本設備投入量、技術水準によって決まってきます。この関係を数式で表わしたものを生産関数といいますが、ソローはいわゆるコブ=ダグラス型生産関数(アメリカのコブとダグラスの2人が考案した関数で現実によく当てはまるといわれている)を前提にしてこの方程式を導きました(ソローの成長会計といいます)。

ここで労働分配率というのはGDPのうち労働者に分配される割合、資本分配率は資本に分配される割合です。したがって、労働分配率+資本分配率=1 となります。

また技術水準上昇率は、GDPを増やした要因として労働力の増加と資本設備の増加では説明できない部分を表わしたもので、技術革新による生産性(能率)の向上や新しいマーケティング手法の開発による生産性の向上などで、経済学では全要素生産性(Total Factor Productivity=TFP)といいます。

このソローの成長会計を使って日本経済や世界経済について、これまでさまざまな計測がなされています。

その結果、日本を含む先進国ではTFPの寄与度が非常に高く、途上国では労働力や資本設備の投入量の寄与が大きいことがわかっています。かつてソ連が高成長を実現し、アメリカに対抗しうる経済力、軍事力を実現できるようになるのではないか、という見方がソ連の崩壊(1991年)直前までありました。しかし、ソローの成長会計で分析した経済学者はソ連の高成長はもっぱら労働力と資本の大量投入によるもので、やがて限界が来るとみていました。

その見方は的中したのですが、このことは長期的な経済成長を保障するのは技術革新力だということになります。それでは技術革新を支えるのはなんでしょうか。いうまでもなくしっかりした教育を受けた人々です。教育と経済成長はまさに密接にかかわっているのです。続きは次回にしたいと思います。
(2014年9月24日記)


内田茂男常務理事

【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)ほか