時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

新聞などマスメディアで大きく報道されましたが、4月10日、国立社会保障・人口問題研究所が、「日本の将来推計人口」を発表しました。一昨年行われた5年に一度の「国勢調査」の確定値が公表されたことを受けて、2015年(平成27年)までの実績値をもとに、全国の将来の出生、死亡、国際人口移動について一定の仮定を設定して推計したもので、推計対象は外国人を含めた日本に在住する総人口です。

日本の人口減少についてのこれまでの議論は、5年前の「将来推計人口」(2012年推計)をもとにしたものでした。この前回推計に比べると、出生率がわずかながら上昇しているという近年の状況を反映して人口減少のスピードが若干緩やかになるということです。今後5年間、この新推計を土台に議論が行われますので、主要な内容を以下にまとめておきましょう。推計値には出生率を楽観的にみた高位推計、厳しめにみた低位推計、中間的にみた中位推計の3種類がありますが、以下は中位推計をもとにしています。

  1. (1)総人口は2010年の12,805万人をピークに減少に転じ、2015年は12,709万人だった。5年間で約100万人減ったことになる。今後も減り続け2053年に1億人を下回り、50年後(2015年から数えて)の2065年には8,808万人(前回推計では8,135万人)になる。
  2. (2)労働力の源泉となる生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8,726万人がピークで2015年には7,728万人と20年間で約1,000万人減少した。それが2029年には7,000万人を割り、2040年に6,000万人を下回る。さらに50年後の2065年に4,529万人と現在より40%近くも減少する。
  3. (3)65歳以上のいわゆる老年人口は2015年の3,387万人(全人口の26.6%)から徐々に増え続け、2020年に3,619万人(同28.9%)になる。その後も微増を続けるが、第二次ベビーブーム世代が老年人口になる2042年に3,935万人(同36.1%)でピークを打つ。老年人口比率でみると、現在は4人に1人、約20年後の2036年(平成48年)に3人に1人となる。2053年(平成65年)以降、老年人口比率は38%台で横ばいになる。

以上が新推計の概要ですが、ここで推計の前提になる出生率をどのように予測しているか、簡単にみておきましょう。人口分析で利用する出生率は、「合計特殊出生率」です。やや聞き慣れない用語かもしれませんが、1人の女性が生涯に生む子供の数です。もちろん実際には観測不能ですから、具体的にはある年の合計特殊出生率はその年の15歳から49歳の女性の年齢別出生率を合計した数値で代替しています。将来の推計人口は合計特殊出生率の予測値をもとに計算しています。当然ですが今後の合計特殊出生率が高く見込まれるなら人口減少のスピードは緩やかになります。

国際的に見て合計特殊出生率が2.07で推移すれば人口の増減がないとされています。日本の合計特殊出生率は高度成長期(1955~970年)にはほぼ2.1以上を維持していました。しかしその後低下を続け、2003年には1.29まで低下しました。これを底にやや持ち直し、前回の2010年の国勢調査時点では1.39でした。その後もゆるやかに上昇し2015年には1.45となりました。今回の推計では2065年まで1.42~1.44程度で推移するとみています。人口置換水準(2.07)を大幅に下回る状態が続くわけですから急速な人口減少は避けられないというわけです。

ここで興味ある数値を紹介しましょう。「人口モメンタム」です。人口モメンタムというのは、将来人口を推計する場合、推計開始の時点で合計特殊出生率がいきなり置換水準の2.07になり、それ以降、この水準が永続することを前提として計算される総人口を推計開始時の総人口で割った値です。河野稠果「人口学への招待」によりますと、2004年時点での人口モメンタムは0.89でした。この年の合計特殊出生率は1.29とこれまでの最低水準だったのですが、これがいきなり2.07となってその後も続くとすると、総人口はしばらく増えたあと減少に転じ、長期的には2004年の総人口を11%下回る水準で安定するというのです。安倍晋三内閣は50年後(2065年)でも人口1億人を維持するという目標を掲げていますが、極め付きの楽観見通しといえるかもしれません。しかし可能な限り減少に歯止めをかけることは重要です。次回は人口減少の問題点と減少緩和策について考えてみたいと思います。
(2017年5月18日記)


内田茂男常務理事

【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか