時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

4月6日付け朝刊で、日本経済新聞は現在のアベノミクス景気が、戦後3番目の長さになると報道しました。これは翌7日に発表されることになっていた2月の景気動向指数を先読みした記事でした。第二次安倍内閣が発足した2012年12月から始まった景気回復基調が2月も続いていることを前提にすると、拡大期間が51ヶ月となって80年代後半のバブル経済期に並ぶこと、さらに3月も景気変動に大きな変化はなかったことから、これを抜くことは間違いないと伝えたのです。

実際、2月の景気動向指数は景気拡大が持続していることを示しました。来月上旬に公表される3月の景気動向指数も同様でしょう。そうなると高度成長絶頂期の1960年代後半の「いざなぎ景気」(拡大期間57ヶ月で戦後2番目)超えも視野に入ってくるでしょう。

「え! いまはそんなに景気がいいの?」と意外に思う人が多いのではないでしょうか。「実感がない」というわけです。この問題は後半で考えてみましょう。

筆者は、まさに「いざなぎ景気」の時代に、日本経済研究センターという経済研究所に派遣され、経済学の勉強のかたわら経済予測にたずさわりました。いまや多くのシンクタンクや金融機関で経済(景気)予測が行われ公表されていますが、わたしたちの予測(18ヶ月予測)が最初ではないかと思います。研究所では経済予測を二つの方法で行っていました。計量経済モデルによるものと段階的接近法によるものです。

筆者は後者の方法を使うグループに所属しました。四半期予測を行っておりましたので、四半期に一度、新たなデータを使ってGDP(国内総生産)の需要項目に沿った方程式を作成し、パラメーター(係数)を推定する作業がめぐってきます。大きな計算には外部の業者の大型コンピューターを利用しましたが、当時売り出されたばかりのメモリー(記憶装置)つき電卓(キャノンの「キャノーラ」)を徹夜でたたいて回帰式を推計したのを覚えています。

それはそれとして私たちの予測は世間で評判になるくらいよく的中しました。設備投資と輸出を中心に日本の経済成長の軌道がほとんどぶれなかったからです。経済変動の幅が小さかったということでしょう。「いざなぎ景気」の年率平均の経済成長率は名目で17%前後、実質で11%前後です。給料が毎年10%以上も上がっていったという時代でした。まさに経済成長を実感できたのです。

ではいまはどうでしょうか。景気拡大は続いていますが、成長率が当時とは比較できないほど低いのです。今回のアベノミクス景気の成長率は、年率平均で名目2%、実質1%です。実際の生活水準を表わす実質成長率がほとんど変わらないのですから、景気拡大を実感できないのも当然です。実は戦後最長の景気拡大期は、小泉政権時代の73ヶ月です。このときも「実感なき景気拡大」といわれました。このときの年率平均成長率は名目0.3%弱、実質1%強に過ぎません。21世紀に入って(実際には労働力人口が減り始めた90年代後半から)明らかに日本経済の成長力が低下してきているのです。これには人口構造の変化(少子高齢化、人口減少)、技術革新の停滞といった構造要因が大きく作用しています。この点は別の機会に触れてみたいと思います。
(2017年4月17日記)


内田茂男常務理事

【内田茂男 プロフィール】
1941年生まれ。1965年、慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、現在、学校法人千葉学園常務理事、千葉商科大学名誉教授。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか