時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

6月末に総務省から「2020年国勢調査人口速報集計結果」が公表されました。2020年10月1日現在を基準に行われた国勢調査の集計結果の速報です。これによりますと2020年の日本の総人口は1億2622万7千人でした。5年前に比べて86万8千人減少したことになります。また厚生労働省の調査では、2020年の出生数は84万人で、1899年の調査開始以来の最低記録を更新したということです。出生率(合計特殊出生率)も5年連続で低下し、2020年は1.34でした。

歴史的に見ますと、経済成長と人口増加の間には極めて強い相関関係があることがわかっています。1970年代までの日本の戦後成長は人口増加がもたらしたといえます。専門家はこの高度成長期を「人口ボーナス」の時代と表現しています。人口増加が経済成長を牽引する時代ということです。それに対し、現在は「人口オーナス」の時代といわれています。人口減少が経済成長の重荷になる時代という意味です。

日本経済の長期停滞の最大原因はまさに人口減少にあるといってよいでしょう。働き手が減少するのですから、生産性が大きく伸びない限り成長率が低下するのは当然といえます。したがって出生率と生産性の引き上げが長期的な政策課題となりますが、労働力供給という面では外国人労働力の積極活用が重要な政策になるのではないでしょうか。

厚生労働省「外国人雇用状況」によりますと、外国人労働者は2020年10月末現在で172万人ということです。2016年に100万人を突破してから着実に増えてきていますが、労働者全体での構成比は2%前後に過ぎません。在留資格別に内訳をみますと、全体の3分の1は「身分に基づく在留資格」、つまりもともとの永住者や日系人です。したがって通常の意味での外国人は100万人を超える程度、さらにそのうち半分近くが「技能実習生」だということですから、本来の意味での外国人労働力は「専門的・技術的分野の在留資格」などわずかに過ぎません。このままでは労働力不足を補うことにはとうていつながりません。

日本は、先進国では例外的といってもいいほど難民認定に厳しい国であることはよく知られています。同じように外国人労働力の受け入れにもほぼ一貫して消極的な姿勢を貫いてきております。その理由として、外国人が増えれば治安などの面で問題が生じる、日本人労働者の賃金が圧迫される可能性がある、などが指摘されてきました。

しかし労働力不足が目立つようになってきたことから、ここ数年、政府も徐々に姿勢を変えてきています。政府が毎年の経済政策の重要方針を国民に明らかにする「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)では、例年、成長力強化の一環として「外国人材の受け入れ拡大」が盛り込まれています。つい先日公表された菅政権初の「基本方針2021」でも、「日本の未来を拓く4つの原動力」(グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策)を支える基盤つくりの1つの方策として、あまり目立たないかたちながら言及されています。

こうした中で、2019年に入国管理法が改正され、外国人労働者に対する新しい在留資格が設けられました。人手不足がとくに深刻な14分野(建設、自動車整備、宿泊、ビル清掃、農業など)を対象とする「特定技能」という資格で、日本語試験や技能テストに合格した外国人に5年間の在留を認める(職種転換も可能)制度です。5年経過後、さらに建設などの分野で働きたい希望者に無期限で就労を認める制度(特定技能2号)も併設されています。これによって10年以上、日本に居住すれば永住権も獲得できるということです。

この新しい在留資格制度は2019年4月に施行されて間もなく新型コロナ・パンデミックに遭遇したため、資格認定者は昨年9月末で8,700人にとどまっていますが、コロナ後、外国人労働力の主要なパイプになるのは間違いないでしょう。大いに期待したいところです。
(2021年6月30日記)


内田茂男常学校法人千葉学園理事長

【内田茂男 プロフィール】
1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか