時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

安倍晋三首相の通算在任日数が11月20日で2,887日(第1次が366日、第2次が2,521日)となり、憲政史上最長となったということです。

現在の第2次安倍政権はいわゆる3本の矢(第1の矢:大胆な金融政策、第2の矢:機動的な財政政策、第3の矢:規制緩和など民間投資を喚起する成長戦略)を内容とするアベノミクスを引っ提げて華々しく登場しました。

2012年12月の政権誕生からちょうど1年が経過した2013年12月に安倍首相の声を直に聴く機会がありました。日本経済新聞社、テレビ東京など日経グループが毎年年末に開催するエコノミスト懇親会でのことです。颯爽と登場した安倍首相が冒頭のあいさつで「安倍政権誕生後1年、株価は倍になりました。倍返しですよ。」と成果を高らかに強調したのを覚えています。日経平均株価は2012年12月が9,500円前後、1年後の12月が16,000円を超えていましたから、倍返しはやや大げさですが、それに近い成績をあげたのは事実です。株価はその後も比較的順調で、いまは23,000円台で推移しています。

このほかの経済指標をみると財政を除いておおむね順調です。2012年と2018年を比べますと、完全失業率は4.3%から2.4%、有効求人倍率は0.80倍から1.61倍と大幅に改善しています。実質GDP(国内総生産)はこの間、7.1%増えています。年率でみると1.1%に過ぎませんが、成長率は低くても安定成長が続いています。第2次安倍政権誕生に合わせるように2012年12月に景気拡大が始まったのですが、今年の1月には拡大期間が74カ月と戦後最長を記録し、その後も現在まで続いています。

このように長期にわたって安定成長が続いていることが安倍政権を支える基盤になっていることは間違いないでしょう。有権者が投票に際し、もっとも関心を寄せるのはいつの時代でも自身の生活、暮らし向きに直結する経済状況だからです。
それでは景気が悪化に転じれば安倍政権は揺らぐのでしょうか。少なくとも自民党主導体制が大きく崩れるということは考えられません。

なんといっても野党が「この国をどうするのか」、明確で骨太の政策を構築できていないからです。経済に関する限り、自民党の政策理念は基本的には自由主義、市場主義といえるでしょう。アベノミクスも自由競争の枠組みを強化しながら、金融政策、財政政策で民間企業を活性化しようというものです。これに対し野党は政府が経済活動に大きく関与する「大きな政府」を基本政策にしています。「大きな政府」は大きな財源を必要とします。安倍政権の課題は、先進国最悪の財政構造を立て直す道筋を描けないでいることです。政府の長期債務残高がGDPの2倍近く達するという財政状況のもとで「大きな政府」は不可能なのです。

アメリカでは来年の大統領選に向けて、民主党に社会主義的な政策を主張する候補者が複数表れていますが、極端な所得格差の存在が表面化している現状では当然といえるのではないでしょうか。日本とはまったく社会環境が違うのです。

以上のように日本では安倍政権を基軸とした自民(自公民?)優位は揺るがないと思います。ただ長期安定政権にもかかわらず、財政再建を成し遂げながら持続可能な社会保障制度を描けていないのが残念です。
(2019年11月26日記)


内田茂男常学校法人千葉学園理事長

【内田茂男 プロフィール】
1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか