時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

2019年12月にスペインのマドリードで開催された国連の気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)は成功とはいえない結果となったようです。今回の会議は、地球の平均気温の上昇を18世紀の産業革命前から2度未満、できれば1.5度未満に抑えることを目標に掲げたパリ協定をさらに強化することが目的でした。
パリ協定では日本は、2030年度に2013年度比でCO2排出量を26%削減する目標を立てています。このような各国の削減目標が達成されても今世紀末には気温は3度上昇するというのが専門家の予測です。

最大排出国のアメリカは2020年11月にパリ協定から離脱することを決めていますし、中国など主要排出国が削減目標を引き上げる可能性はきわめて低いと見られています。日本を代表した小泉進次郎環境大臣も目標の引き上げには言及しませんでした。

大学公式Webサイトに掲載しましたように10月にマルタ共和国の大統領、11月にはフィジー、トンガ両国の国連大使の訪問を受けました。本学が「自然エネルギー100%大学」を目指し、すでに電気については需要(大学内の電力消費)、供給(大学での発電)ともに再生エネルギ—となったことなどが内外で評価さているからです。

これらの島国は日々、地球温暖化による海面上昇の被害を受けています。そこで筆者は次のようなエピソードを紹介しました。

1997年12月にCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)が京都で開かれました。その会議で採択された京都議定書は「温室効果ガスを2008年から2012年の間に1990年比で5%削減する」というように地球温暖化防止に向けて初めて国際的かつ具体的取り組みを決めた画期的な国際公約でした。日本は6%削減する約束をしました。

筆者はこの会議にジャーナリストとして取材目的で参加しました。各国首脳(アメリカからは環境論者として有名なゴア副大統領が出席していました)はもちろん、筆者のような取材陣や各種NPO、NGO含めて5,000人近くの関係者で会場の京都国際会議場はあふれかえっていました。こうした中で各国代表が日程を延長して最後は徹夜で議論を続けていたのが印象的でした。結果は中国をはじめ途上国は国際公約からははずれ先進国のみを対象とした削減計画となりました。7%削減するはずだったアメリカは結局、議会が批准せずこの枠組みから離脱しました。

エピソードというのは、筆者が総会に出席していた日本代表の一員だった外務省の担当者から耳にしたことです。海水面上昇に直面していた南太平洋の島国の代表の発言中に、後ろにいた中国の代表の一人がやめるように袖を引っ張っていたのを目撃したというのです。経済成長を加速していた中国は、石炭を中心に膨大な化石燃料を消費していました。「地球温暖化は化石燃料を大量に消費して豊かになった先進国の経済発展がもたらしたものだ。われわれも豊かになる権利がある。すでに豊かになった先進国が温暖化ガスを削減するのが当然で、われわれ途上国にその責任はない」。これが中国の主張でした。

それから20年以上が経過し、これまで経験もしなかったような超大型台風の頻発に現れているように、温暖化が原因といわれる大規模な気候変動が世界的に生じています。

にもかかわらず、アメリカがパリ協定から離脱するなど、この問題に対する政治、経済のリーダーたちの認識は変わっていないようにみえます。議長国として京都議定書をまとめた日本は欧州諸国と同様に温暖化防止をリードする主要国の一つに目されてきましたが、最近は全く精細を欠いています。原子力発電に依存することがほぼ不可能になったためですが、太陽光、風力を中心に再生エネルギーの開発・普及に全力をあげる必要があると考えます。

How dare you?と叫ばざるを得なかったスウェーデンの少女の訴えに真剣に向きわなければ地球は後戻りできない危機に陥るのではないか、と思います。
(2019年12月23日記)


内田茂男常学校法人千葉学園理事長

【内田茂男 プロフィール】
1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか