時論

内田茂男学校法人千葉学園理事長(元日本経済新聞論説委員)による時論です。ときどきの社会経済事象をジャーナリストの視点で語ります。

2月半ばに発表された今年度第3四半期(2019年10~12月期)のGDP(国内総生産)の数値(第一次速報値)はかなり衝撃的でした。実質GDPが第2四半期(7~9月期)に比べて年率で6.3%も減少したのです。米中貿易摩擦に消費税増税が重なったことが響いたということです。

その後も心配な材料が出てきています。中国初の新型肺炎が世界的に流行する気配を見せています。長引けば世界経済に甚大な打撃を与える可能性があります。そうなればもちろん日本経済も影響を免れません。

日本経済研究センターの直近の短期経済予測では、この1~3月期もマイナス成長が続き、2019年度の実質成長率は18年度比で0.3%にとどまるとみています。同センターでは2020年度の成長率も0.2%と予測しています。2018年度は0.3%成長でした。ということは、日本の実質経済成長率は3年連続でゼロ成長に限りなく近い超低成長となることを意味します。そうなると「想定外の低成長」というよりは、これが当たり前、つまりニュー・ノーマルとか“新常態”ということではないでしょうか。

日本ばかりではなく、2008年のリーマン・ショックを境に世界全体の経済が低成長体質に構造変化したのではないか、という見方が有力です。その最大の原因は、人口減少です。

IMFによりますと、現在、世界の主要46カ国が人口減少国ですが、2040年までに67カ国に増えるということです。労働力人口は、2040年までに中国で1億1400万人、日本で1,400万人、ドイツで700万人、それぞれ減少するとみられています。

著名な人口学者、ロンドン大学のポール・モーランド教授は、近著“The Human Tide”(日本語訳は「人口で語る世界史」)で、200年の主要国の歴史を分析して、人口が増加する時期に経済力が強化されたと結論付けていますが、今後、人口が減少する国が増えれば成長率が低下してゆくのは自然の流れといえましょう。

成長率のベンチマークは、途上国で年率5%前後、中国などの中所得国で3~4%、高所得国で1~2%ということになるのではないでしょうか。いずれもこれまでの半分程度です。
これが新常態だと考えるべきでしょう。この新常態のもとでは、成長率が低下したからといって、失業者が増えるわけではありません。労働力が減少してゆくからです。日欧米の高所得経済で生じつつある最大の問題は、低成長の下で巨大企業集団による寡占化が急激に進展していることだと思います。

例のプラットフォーマーの世界で圧倒的な独占ないし寡占状態を築いているGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のような存在が経済の多くの分野で台頭してきているのです。たとえばアメリカの旅行市場では、航空4社とレンタカー3社が80%を握っているといわれています。

この結果、新規企業は生まれにくくなり、経済の活力が失われてゆきます。実際、企業の新陳代謝が活発なことで知られたアメリカでスタートアップ企業が極端に生まれにくくなっていると報道されています。

前回の当欄で触れましたように、こうした傾向を助長しているのが、主要国中央銀行の超金融緩和政策です。超低金利のもとでいわゆるゾンビ企業が温存され、スタートアップ企業の頭を押さえこんでいるのです。

現在の低成長は、不況ではなく常態ととらえる必要があるのです。金融緩和政策では成長は戻らないと考えるべきでしょう。
(2020年2月28日記)


内田茂男常学校法人千葉学園理事長

【内田茂男 プロフィール】
1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)
『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)
『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)
『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)
『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか