地域の水環境問題に取り組む
商経学部 杉田ゼミナール
地域の湧水を有効活用するために
大学から歩いて約10分のところにある里見公園。この南斜面下には、一年中清水が湧き出る「羅漢の井」があります。この湧水は、このままでは飲用には適さず、生活用水としての使用はされていません。
2011年の東日本大震災以降、非常用水源として湧水や地下水の利用が注目され、各地でその保全や活用が検討されています。杉田ゼミでも、湧水を有効に活用する方法の検討に資するべく、羅漢の井を例に市民の湧水の利用と保全活動への協力意思などを明らかにする調査活動に取り組んできました。
「羅漢の井」で水質調査やアンケート調査をやってみる
この調査は2013年度、当時2年生(現4年生)のゼミ活動としてスタートしました。
湧水は自然に湧き出るため、汲み上げに電気ポンプを使用する地下水と比べ、災害などの非常時に果たす役割が期待されていますが、何よりその存在が認知され、利用できるものであることが重要だと考えられています。そこで、杉田ゼミの学生たちは、2013年と2014年の6・7月の2ヶ月間、定期的に羅漢の井を訪れ、湧水量や水質を調査すると共に、里見公園や江戸川土手を訪れた人々に対し、訪問目的や湧水の認知、利用状況、環境評価、期待、保全協力などについて聞き取りを行い、160名から回答を得ることができました。
湧水に対する市民の意識、期待に理解を深める
この調査から、公園や土手に訪れる人のほとんどが、30分圏内の場所から徒歩や自転車で来ていたことから、地域住民が多数訪れる場所ということが分かりました。
訪問する目的は散歩が大部分を占める中、湧水の利用が25%。調査の時期は夏でもあり、タオルを濡らしたり、顔や手を洗ったり、中にはバケツや靴を洗う姿も見られました。リラックスできるという理由でここを訪れる人もいて、水は直接利用するだけでなく、安らぎを与える役割を果たしていることが分かってきました。
その一方で、公園を訪問する人の半数は羅漢の井を訪れることがなく、その存在を知らない、また、知ってはいても飲用として利用できないことや周辺環境がきれいではないことが、訪れない理由として挙げられました。
学生たちは、水質を改善し、周辺が整備されれば、羅漢の井を訪れる人は増え、認知度も高まり、有効に利用されるのではないかと考えましたが、環境整備には費用や労力も必要になります。この点では、聞き取り調査で保全活動への協力意思も尋ね、全体の85%から協力するという意思が示されました。
調査の成果を学会で発表、若手優秀講演賞に輝く
アンケートの分析結果と考察は、『都市湧水の役割と保全:千葉県市川市「羅漢の井」の例』としてまとめ、2015年5月23日(土)に開催された日本地下水学会春季講演会のポスターセッションで発表する機会を得ることができました。
羅漢の井においては、認知度の向上、水質改善、周辺環境整備が肝要であり、市民の高い協力意思を活かす保全計画の策定がこの湧水の安価で効果的な活用と保全を可能とすること、また、市民の湧水に対する意識や期待の調査が地域のニーズに合う保全方法を可能にするとした内容は、優れた発表と認められ、35歳以下の発表者に贈られる若手優秀講演賞を受賞しました。
身近な地域の水環境をテーマに、野外での調査から自然の水の動きや質を学び、その利用について考えた2年間の活動が、受賞という大きな成果になり、水環境に対する意識がより一層高まりました。杉田ゼミの学生たちは今後、より多くの人々に、社会貢献に資する湧水の存在を広めることをめざしていきます。
学生の声

水には「飲用としての水」「炊事や洗濯など生活に使用する水」「津波など自然災害に姿を変えた水」などさまざまな顔があり、やりがいのあるテーマです。人にとって水は必要不可欠ですが、水が災害をもたらすこともあり、人と水の共存の難しさを感じました。
水を後世に残していくという姿勢で、これからも水に対する好奇心を持ち続けていきたと思います。
商経学部経営学科 小堆友貴人(京北学園白山高校出身)

この活動では、市民の方々へのアンケート調査も水の採取も、より多くのデータを収集することを目標としていました。調査を進めるうちに、私は水環境の成り立ちとこれからのあり方に興味を持つようになりました。これは水環境に限ったことではなく、普段から物事の前後を踏まえ考え、行動するきっかけになりました。
商経学部経済学科 山口景史(中央学院高校出身)

地元の河川の環境に興味があり、水環境の調査、研究を行うこのゼミナールに参加しました。市民の方々に、羅漢の井の認知と利用の有無についてアンケートを行いましたが、結果をまとめるのはとても苦労しました。しかし、この作業をゼミ内で協力して行いながら、協調性と責任感が身に付いたと思います。また、集中力も高まりました。
商経学部経営学科 安達賢祐(京北学園白山高校出身)
担当教員の声
学生たちには、野外調査、水質解析、統計解析などさまざまなスキルを駆使して行う調査研究を通じて、種々の調査・解析手法を身に付け、水環境問題に対して科学的データに基づく客観的な判断ができるようになってほしいと考えています。
野外調査は夏場の炎天下で汗だくになって行った時もありましたが、みんな一生懸命取り組み、また、聞き取り調査で地域の方々と触れあえたことが楽しそうでした。少し難しい計算を含むデータ解析があまり好きではない学生も多かったのですが、学会発表を決めた時からみんな真剣に、各自が担当した仕事をしっかりこなしてくれました。今後も環境問題に興味を持ち、行動することを期待しています。
商経学部 教授 杉田 文

羅漢の井とは
羅漢の井は、市川市の里見公園南斜面下にあり、一年中清水が湧き出ている。戦国時代、里見一族がこの地にあった国府台城に布陣した際、この湧水を飲用水として使用したと伝えられているほか、一説には弘法大師が巡錫の折に発見し、里人に飲用水として勧めたとの言い伝えもある。また、浮世絵師 長谷川雪旦・雪堤父子の作品「江戸名所図会」には羅漢の井の周りに人々が集まる様子が描かれるなど、この湧水が生活用水として使用されていたことが伝えられている。
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