教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

環境

2013年4月23日から5月1日にかけて静岡県浜松市春野町杉の茶畑において大規模な地すべりが発生し大きなニュースとなりました。

現場は、杉川の右岸で高さ90m、幅70mあまりにわたって土砂が崩落し、杉川に流れ込み流路を閉塞しました。浜松市は、4月21日に周辺住民に対して避難勧告を発令し、6世帯24人が公民館で避難生活を送ることになりましたが、幸いに事前に避難が完了していたため犠牲者は出ませんでした。これは、浜松市が住民からの亀裂発見の連絡を受け4月8日に伸縮計を設置し観測を行っており、21日に移動速度が避難レベルに達したために避難勧告を行ったためです。

今回の浜松市での地すべりで被害を最小限にとどめることができたのは、私たちが地すべりというものの発生メカニズムなどを知っており、適切な判断を下せたためです。では、地すべりとはいったいどのような現象なのでしょうか。

地すべりは、土砂災害の一種で土石流やかけ崩れと同じように土砂が移動することによって発生する災害です。斜面上の地塊がすべり面と呼ばれる部分を境にして上部の地塊がすべり落ちる現象で、多くの方々は、浜松市での映像をご覧になってがけ崩れと思ったかもしれませんが、すべり面という地塊が動く境界面が存在している点で地すべりとがけ崩れは大きく異なる現象です。

すべり面は、粘土と地下水が混じり滑りやすくなっている部分であり、大雨などがきっかけとなって地すべりが発生することが多いです。また、融雪や地震による発生も確認されています。すべり面の形成されやすさは、地質により異なるため、地すべりは特定の地質や地形の場所で多く発生する傾向がみられます。また、地すべりの発生した周辺では、再び地すべりが発生する可能性が高いこともわかっています。

日本は、降水量が多いために毎年のように日本のどこかで地すべりが発生しています。たとえば、平成9年に秋田県鹿角市の澄川温泉で発生した地すべりは、雨と融雪が原因とされ澄川温泉が破壊されました。また、地震による地すべりの発生が確認された事例としては、平成16年に発生した新潟県中越地震による山古志村での地すべりが有名です。この地すべりでは、多くの犠牲者が出てしまいました。

千葉県でも地すべりが多く発生する地域があります。房総半島の鋸南町から南房総市の北部にかけての地域では地すべりが発生しやすく、多くの過去に発生した地すべりの痕跡が見られます。加茂川地溝帯と呼ばれるこの地域は、第三紀と呼ばれる時代に形成された蛇紋岩などの岩石によって形成されており、地盤が弱いために多くの地すべりが密集して発生しています。また、この地域には地すべりを思わせる『大崩』のような地名も存在しています。

沖縄県での地すべりの事例

地すべりが発生しやすい場所を知るにはどうたらよいのでしょうか。先にも述べましたが、地すべりは同じ地域で繰り返し発生する傾向がありますので、周辺で過去に地すべりが発生したかどうかを調べることになります。では、記録に残っている地すべりよりも古い時代に発生したものについてはどうすればよいのでしょうか。地すべりは、発生後に特徴的な地形となってその痕跡を残します。これを「地すべり地形」と呼び、空中写真や地形図などを利用したり現地で調査することで判別が可能です。特徴としては、地面が滑り始める頂部では急崖となり、滑った土砂がたまる端部では盛り上がった地形になることがあげられます。また、中腹部は周辺の斜面に比べて緩斜面となることが多いです。このため、地すべり地帯ではこの緩斜面を利用し棚田(段々畑)として利用しているところもあります。

私たちが地すべりから身を守るためにはどうしたらよいのでしょうか。地すべりを防ぐには、その原因となる地下水を取り除くことが重要となります。地下水を集める「集水井」を設けることや、ボーリングにより横穴を開けて排水するなどが主な工事としてあげられます。また、移動する土塊を止める工事としては杭を使って土塊を固定する「アンカー工」や土塊上部を取り除いてしまう「排土工」などがあります。しかし、一番の対策としては地すべりが特定の場所に多く発生することから、その近くに住まないこととなります。

もし、地すべりが多く発生する場所に住んでいる場合には、大雨時などに行政からの情報を収集し、避難勧告が発せられた場合には速やかに避難をすることが重要です。また、大雨時以外にも、自宅周辺の斜面をよく観察し、地面に亀裂などが無いかを確認することが被害を未然に防ぐことにつながります。

自然は、いろいろな情報を私たちに発信しています。それらを注意深く観察し、変化を捉え、適切に行動することが重要です。また、普段から自宅の周辺の自然環境に関心を持っていろいろと観察をして状況を把握しておくことも大切でしょう。先人たちのように、自然を知り、自然をうまく利用し、自然と協調して生活することが求められているのです。

解説者紹介

五反田 克也