教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

地域・暮らし

日本の人口は少数の都市に集中している。例えば、東京都総務局統計部の推計によれば、2016年5月時点の東京都の人口は13,604,223人であり、これは大雑把に言って10人に1人は東京に住んでいることを意味する。※1
少子・高齢化が進み、日本全体で人口が増えず、むしろ減っていくような現状では、このような人口の集中は、必然的に地方の過疎化をもたらす。2014年には、民間有識者で作る日本創生会議が、今後2040年までに全国で896個の市区町村が消滅する可能性があると発表して、物議をかもした。各地方自治体は人口をどうやって維持するかに頭を悩ませており、人口の都市間および地域間の分布が今後どうなるかは(もしくは、どうするべきかは)、大きな問題になっている。本コラムでは、この人口分布には、実はある法則が存在することを解説しようと思う。

都市雇用圏

地域間の人口分布を論じる場合、注意しなければならないことがある。それは、市区町村や都道府県といった行政区画は政治的・歴史的に定められており、必ずしも経済的なつながりを反映したものではないということである。したがって、単に行政区画でもって機械的に都市および地域を分けてしまうと、本来的な意味での都市・地域をうまくとらえることができないかもしれない。1つの都市が複数の行政区にまたがっていることを考えてみればよい。そこで、この問題を回避するために金本良嗣と徳岡一幸の両氏が提唱した「都市雇用圏」について、まずはみてみよう。

都市雇用圏の考え方はシンプルで、中心都市と、それと社会的・経済的に密接な関係を有する周辺地域(郊外)を1つの都市圏としてまとめようというものである。もう少し具体的には、密度と人数に関する適当な基準を満たす都市を「中心都市」としてピックアップし、そこへの通勤率の高い市町村を「第1郊外」、第1郊外への通勤率が高い地域を「第2郊外」とし、以下順に定められるだけ、第3郊外、第4郊外、と定めていく。最終的に、そうして定まった中心都市と郊外を1つの都市圏としてまとめるのである・表1は2010年の各都市雇用圏の内、人口の多い5つを挙げたものである。

表1 日本の都市圏人口(2010年)

表1

出典:東京大学空間情報科学研究センターホームページの都市圏人口データ・大都市雇用圏(2010年基準)より筆者作成

順位・規模法則

図1 都市雇用圏間の順位・規模法則(1990年,2000年,2010年)

図1

出典:東京大学空間情報科学研究センターホームページの都市圏人口データ・大都市雇用圏(2010年基準)より筆者作成

本題に入ろう。図1は、都市雇用圏を人口の大きい順に並べたときの順位と人口規模の関係を表したものである。ただし順位も人口規模も自然対数をとっている。図をみると、順位と規模の関係は1990年、2000年、2010年とあまり違いがない。それだけではなく、対数をとった順位と人口規模の関係は、大まかに直線的な関係で近似できそうなことがわかる。もう少し格好よく言うと、都市雇用圏の順位Rと規模Sの関係は、次の式で近似的に表せる。

lnR=-alnS+b

これが、都市規模の順位・規模法則である。

表2 順位・規模法則推定結果

表2

出典:東京大学空間情報科学研究センターホームページの都市圏人口データ・大都市雇用圏(2010年基準)より筆者作成

この順位・規模法則は多くの国で時間を通じて成立しており、頑健性の強い法則であることが知られている。ちなみに、上式のaが1のときは、R×S=一定となり、これを「ジップ法則」という。ジップ法則が成立するときは、2番目に大きい都市圏の規模は1番大きい都市圏の1/2、3番目に大きい都市圏の規模は1/3と以下同様に推移していく。表2は回帰分析の結果である。どの年でも、決定係数の値は大きく、上式が実際の人口分布の十分良い近似になっていることがわかる。また、aの推定値は、どの年も1より若干小さく、また年を追うごとに少しづつ小さくなってきている。これは、人口の集中度が少しづつ高まっていることを反映しているのかもしれない。

おわりに

さて、ここまで都市規模の順位・規模法則についてみてきました。地域間格差や過疎化の問題に興味のある方の参考になれば幸いです。たぶん学生の読者にはわからない部分が多々あったと思います。特に「対数」や「回帰分析」の部分は「何を言っているのかさっぱりだ!」という人も多いでしょう。大学生の間にこれらの事を勉強して、このコラムの内容が理解できるようになってもらえると、教員としてはうれしいです。頑張ってください。

解説者紹介

後藤 啓