教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

地域・暮らし

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高齢化が進む日本。2025年には3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になることが見込まれています。要介護者の増加は避けられない問題で、2025年に必要な介護人材は253万人に上ることが明らかになりました。しかし、現状で推移すれば、確保できる人材は215万人とされ、38万人もの不足は極めて深刻と言わざるを得ません。現在も介護の現場では職員が充足しているとは言えない状況があり、離職の防止や定着の促進、学生など若い世代の新規参入を促すさまざまな取り組みが行われています。

介護保険制度を揺るがす介護職員不足

今年1月、東京都社会福祉協議会(以下、都社協)は同協議会の特養分科会に加入する445か所の特別養護老人ホーム(以下、特養)の介護職員充足状況の調査結果を発表しました。介護職員の不足とその対策は以下のような現状にあることが分かってきました。

  1. 約半数の施設で職員不足が生じ、2割近くの施設では6カ月以上不足が続き、約6割の施設では来年度の新規採用が確保できていない。
  2. 不足人数は「1~3人」が最も多いが、指定基準を満たさない施設も9施設ある。
  3. 対応策としては、「施設内行事の中止、制限等」が最も多く、「入所抑制」(9施設)、「ユニット閉鎖」(3施設)、「ショートステイ閉鎖」(2施設)、「受け入れ抑制」(7施設)といったものもある。
  4. 職員の充足対策としては、「給与などの処遇改善」(84.3%)、「介護報酬地域加算の上乗せ割合の引き上げ」(76.1%)の他に、「キャリア・アップ制度構築」(45.6%)が挙げられている。

そして、4月には介護保険制度を揺るがす事態までが発生しました。

「職員不足で夜間体制維持できず、下仁田の特養休止」(上毛新聞2014.4.1朝刊)
31日、群馬県下仁田町馬山で特養「山王」(定員30人)を運営する社会福祉法人緑成会が、介護職員を確保できないことなどを理由に施設を休止することが分かった。同会理事長によると、昨年末ごろから退職者が相次いだため、1月に10人の入所者に近隣施設に移ってもらい介護職員を募集したが集まらず、3月には夜間勤務体制を維持するのが困難になったという。そのため入所者家族に事情を説明し、順次、近隣の特養やサービス付き高齢者住宅に転居してもらい、31日に最後の4人がホームを離れた。法人は存続し特養の認可も維持するが、運営再開のめどは立っていないという。

介護プロフェッショナルキャリア段位制度の成立ちと目的

このような事態が発生した背景には、介護職員の意識や労働環境と利用者の事業者評価の難しさの問題があるとされています。(財)介護労働安定センターの平成24年度「介護労働実態調査」によれば、介護現場の介護職員には、「利用者に適切なケアができているか不安がある」(47.1%)「介護事故で利用者にけがをおわせてしまうのではないか」(26.5%)といった「自らの介護スキルに不安を感じている」意識とともに、「仕事内容の割に賃金が低い」(43.3%)、「業務に対する社会評価が低い」といった労働環境への不満がある事が挙げられています。

一方、介護サービスの特性として(1)介護サービスの不可視性(実際に利用してみないと内容や善し悪しがわからない)、(2)不可逆性(失敗した事を元に戻すことができない)、(3)サービスの質と満足度の不一致(同じサービスを提供しても利用者の体調や感情により満足度が一致しないことや、利用者本人と家族の満足度が異なる)、(4)サービスはストックできない(昨日に空室であっても、今日その空室を使ってサービスを提供することはできない)等が挙げられ、利用者がきちんとした評価ができないということも指摘されてきました。

こうしたことから、今、これらの利用者・介護職員にとっての介護人材不足解消し、サービス品質の情報確認への対策として期待されているのが、「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」(以下、介護キャリア段位制度)と呼ばれるキャリア・アップ制度です。この制度は、2012年から内閣府が推進する「介護」「エネルギー」「食」の3分野で職業能力を評価する「ものさし」を作って、知識とともに実践的なスキルを客観的に評価し、初級からトップ・プロレベルまでの7段階の認定を実施することで、優れた実践的職業能力をもつ人材育成を進めようとする「実践キャリア・アップ戦略基本方針」の1つです。

そして、介護分野は、特に以下の3点を目的として挙げ、推進が図られてきつつあります。

  1. 介護施設や事業所ごとにバラバラに行われている職業能力評価に「共通のものさし(介護技術評価基準)」を導入して、人材育成・定着を図る。そして具体的な評価には、「わかる(知識)」と「できる(実戦的スキル)」の両面を評価するが、特に「わかる」を評価する資格制度とは違って、「できる」を重点的に行う仕組みとする。
  2. 介護施設や事業所ごとにバラバラである介護技術と指導体制を、「介護技術評価基準」に基づいて、一人の評価者(アセッサー)が一人の介護職員に対して、マンツーマンで評価・指導することで、技術指導における「OJT(オンザ・ジョブ・トレーニング、現場における職業教育)」の質を標準化する。
  3. また「介護技術評価基準」を活用して、客観的、公平に介護職員のスキルの評価が行えるため、採用時、採用後の人事評価にも活用できるようになり、介護分野では進んでいなかった労使ともに納得できるキャリアパスの仕組みの構築が進む。

介護プロフェッショナルキャリア段位制度の現状と今後

介護キャリア段位制度ではレベル4を一人前の仕事ができ、チーム内でのリーダーシップがとれる(サービス提供責任者、主任等)レベルに設定されており、知識レベル(わかる)の前提としては介護福祉士である事を前提としています。
表1は、介護キャリア段位制度の評価項目を示しています。実際の評価ではこのチェック項目228中の148項目に関して「できる(実践的スキル)」の評価、A(できる)、B(できる場合とできない場合があり、指導を要する)、C(できない)、-(実施していない)がアセッサーによっておこなわれ、併せて「できる」ようにするための指導が行われることになります。

介護キャリア段位制度の評価項目

2016年度末現在、評価者であるアセッサーとして16,554人が登録されており、これから、制度成立の趣旨に沿った活動が展開されていくことが期待されています。

解説者紹介

教授 吉竹 弘行
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