学長コラム

本学の取り組みや教育活動、学生たちの活躍などの最新情報を中心に、時折、原科学長の研究テーマである参加と合意形成、環境アセスメントに関連した話題もお届けします。

前回は、急激なコロナ感染拡大の中でこの原稿を書きました。第6波の恐れが大としましたが、その後の推移は予想通り。2月2日に東京都の感染確認数が2万人を超え、翌3日には全国で10万人以上に。同じ日、まん延防止重点措置は35都道府県に及んでいます。

民を支える公

コロナ禍のもと、日本ではPCR検査数がなかなか増えませんが、検査に対応する公務員が不足しているのが大きな原因です。安倍政権以来、単純な効率主義で保健所の職員を削減してきたことが災いしました。社会を支える行政の役割は重要。人々が困った時こそ、公の出番です。

社会が適切に機能するには、法の順守は最低限の必要条件です。しかし、食品産地偽装や部品などの不正検査、違法建築など目先の利益のために違法行為が後を絶ちません。法を守らないものが利益を得、法を守る正直者が馬鹿をみる。拝金主義の生み出す、そんな現象があちこちで見られます。真っ当な人間が馬鹿をみるような社会では、全ての人への配慮を基本とする、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成などかないません。

こうしたなか、流れが少し変わるようです。公務員を増やして、公共サービスを向上させようという兆しです。政府は直近の課題として、新型コロナ対応に万全を期すため、関係省庁の体制強化を図ります。2021年12月24日の政府記者会見で、自衛官などを除く国家公務員の定員を22年度に401人増やす方針を示しました。

日本は「小さすぎる政府」

国家公務員を増やすと言うと、それは問題だと思うかもしれません。しかし、そうでしょうか。私は以前から、日本の公務員は少なすぎると言って来ました。日本では、行政活動を行うための公務員の数があまりにも少ないという現実があります。

国家公務員の定員は、沖縄が米国から返還された1972年度の90万9人がピークでしたが、その後、世論は公務員削減に傾いてきました。情報公開が遅れた日本では公務員の働きぶりは窓口でしか見えず、働きが悪いという負の見方をする人もいます。90年代のバブル崩壊後は「行政のスリム化」を求める声が強まり、歴代政権が政府機関の独立行政法人化や人員削減を進めました。

こうして、2012年度には何とピーク時の3分の1以下、30万人台を割りました。その結果、国だけでなく地方公務員を合わせた人口当たりの公務員数はアメリカの半分ほどまでに低下。小さな政府のアメリカと言われますが、日本は「小さすぎる政府」になってしまいました。これでは、まともな公共サービスはできません。

SDGs達成へ公務員を増やす

SDGsの目標8は、Decent Work and Economic Growthですが、このDecent Workとは「真っ当な働き方」。働き方改革が必要です。ところが、国家公務員の仕事、実は大変なのです。

近年は災害や訪日外国人の増加などで業務量が増えてきました。また、国会対応のため若手官僚が深夜残業を余儀なくされています。人手不足なのです。働き方改革の関連法が18年6月に成立し、18年度からは国家公務員の定員も微増に転じましたが、まだほんの僅か。欧米なみに公務員を増やすことが、真っ当な働き方につながります。

安倍、菅両政権で進んだ官邸主導の結果「省庁官僚が仕事にやりがいを感じにくくなった」という声も出ているとの報道もあります。法治国家において法を守らせるためには、武士のように筋を通す、真っ当な公務員は不可欠です。

政治も変わってきたようです。1月5日付の毎日新聞によれば、昨年12月初めの自民党の行政改革推進本部の会合では「今のままでは霞が関に良い人材が集まらない」などと懸念が続出したとのこと。人々や環境への影響に配慮する「真っ当な経営」のためには、正直者が馬鹿をみないよう、情報公開の推進とともに法の遵守を見守る十分な数の公務員が必要です。
だから、私は公務員の増加を期待します。それがSDGsの推進につながるからです。