教員コラム

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政治・経済・ビジネス

昨年(2012年)の8月、国会で通称「消費税増税法案」が可決されました。この法律の主な内容は、私たちが納めている5%の消費税率を2014年4月に8%へ、2015年10月に10%へ引き上げるというものです。当時はまだ民主党政権でしたが、この法案には当時野党だった自民党や公明党も賛成しています。今回は、なぜ増税をする必要があるの?というギモンについて考えていきましょう。

増税を必要とする最大の理由は、日本の財政を立て直すためです。日本の財政はこの20年間、ずっと赤字でした。つまり、必要な政策経費を賄うだけの税収を確保することができず、国債発行、すなわち借金に依存して財政運営を行ってきたのです。ある時点で一時的に借金をすることは、必ずしも悪いことではありません。しかしながら、毎年毎年、新たな借金を積み重ねていけば、いつしか返済しきれないほどに膨らんでしまいます。実際、1990年度末の時点で約170兆円だった国債残高は、10年後の2000年度末には約380兆円、更に10年後の2010年度末には約760兆円と膨らみ続けてきました。

この状況を何とかしなくてはいけないのですが、だからといってすぐに増税が必要という結論にはなりません。財政赤字は、税収が政策経費よりも少ない状態のことを指しますが、赤字を解消するには政策経費を減らす、つまり使うお金を削減するという手段もありますし、あるいは、税率を引き上げなくても税収を増やすことができるのであれば、それも選択肢の1つとなるかもしれません。

これらの選択肢について考えるにあたり、日本の財政赤字の大きさを確認しておきましょう。表1は、第2次安倍内閣で作成した今年度(2013年度)の国の予算(一般会計)の概略です。左側が歳入(さいにゅう)、右側が歳出(さいしゅつ)を表していますが、これらはその年(歳)の収入や支出のことです。これをみると、歳入総額と歳出総額は92.6兆円で一致していますが、歳入のうち45.5兆円は公債金収入、すなわち新たに国債を発行して調達するお金であり、歳出のうち22.2兆円は国債費、すなわち過去に発行した国債の返済や利払いに充てるお金です。これらを除いた「税収等(公債金以外の歳入)」と「政策経費(国債費以外の歳出)」の差のことを基礎的財政収支(プライマリー・バランス)と呼びますが、今年度予算の場合はこの数値が「47.1-70.4」で約23兆円の赤字ということになります。

歳入 歳出
税収等  47.1
公債金  45.5
政策経費  70.4
国債費   22.2
歳入総額  92.6 歳出総額  92.6

表1 国の一般会計(2013年度当初予算、兆円)

もう1つ、これと同じ表を6年前、すなわち2007年度の数値でも確認しておきましょう(表2)。この予算はちょうど第1次安倍内閣で作成したものですが、このときは政策経費が61.9兆円であるのに対して、税収等は57.5兆円でしたので、基礎的財政収支は約4兆円の赤字でした(57.5-61.9)。同じ総理大臣のもとで作成した予算であるにもかかわらず、6年前と今とでは随分と赤字の額が変動していますね。この年を取り上げたのは、2000年以降でこの2007年度が最も赤字の規模が小さい年だったからですが、ここから6年間で税収等は約10兆円減少し、政策経費は約8兆円増加しました。

歳入 歳出
税収等  57.5
公債金  25.4
政策経費  61.9
国債費   21.0
歳入総額  82.9 歳出総額  82.9

表2 2007年度の場合(当初予算、兆円)

この2つの予算を比較し、関連する情報も考慮すると、いくつかの重要なことが読み取れます。まず、6年間で税収が10兆円も減ってしまった最大の理由は景気の悪化によるものですが、逆に2007年度は最も景気が良かった時期ですので、景気が通常の状態まで回復してもすぐに税収が10兆円も増えることは期待できません。そして、景気が最も良かった時期でさえも国の財政は赤字だったわけですから、景気頼みでは財政再建はできないということになります。

次に、6年間で政策経費が8兆円も増えた理由はやや複雑ですが、年金制度の改正、景気対策、歳出抑制への反動、民主党の政権奪取策、そして社会保障費の自然増、といった要素が組み合わされた結果です。この歳出増がすべて景気対策によるものであれば、景気の回復にともなって歳出水準を元に戻すこともできるのですが、実際には景気対策による歳出増は一部に過ぎません。というよりも、本格的な景気対策は補正予算で実施されますので、当初予算にはほとんど表れてこないのです。

このなかで特に重要なのは社会保障費の自然増です。これは年金、医療、介護といった社会保障制度が変化しなくても、高齢化にともなって制度の適用対象者が増えるために歳出が自然に増えてゆく、という現象のことを指します。これから先も高齢化は更に進行していきますので、この現象は徐々に深刻化していくと考えられます。そのような状況下で歳出の伸びを抑えるには、社会保障費の適用範囲を狭めたり、給付の水準を引き下げたりする必要がありますが、それらを実行するとそれによって生活が困難になる人が出てきたり、政府への反発を強める人が増えたりしますので、政府も簡単には実行できません。つまり、歳出水準を今よりも減らすどころか、伸びを抑えることすら容易ではないのです。

そこで最後に残された選択肢が増税ということになります。ただし、今回の増税ですべてが解決するというわけではありません。今回の増税は、いまの財政赤字を半分程度に縮小することを想定して計画されたものであり、財政赤字を解消するには更なる増税が必要ということになります。また、社会保障費の自然増はこれから先も続きますので、それにあわせて増税を拡大していくのか、それとも社会保障費が伸びないように制度改正をしていくのか、慎重な検討が求められています。

解説者紹介

小林 航