教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

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1 情報メディア関連法とは

インターネットの普及、スマートフォン、タブレット端末等のデバイスの発達、無線LANでいつでもどこでも接続できるユビキタス環境の実現、通信の方法もSNSや動画サイトなど多様なコミュニケーションが可能となり、情報を取り巻く環境が大きく変わってきています。また、電子商取引におけるネットショッピングの拡大や電子政府におけるマイナンバー制の導入、ライブログ、アクセスログ等の活用と個人情報の保護、多様化し巧妙化するサイバー犯罪など、新たな課題が次々に発生してきています。
情報メディア関連法は、ビジネスや日常生活においてほとんどの人が利用せざるを得ない情報通信技術についての法律問題を取り上げ、高度情報通信社会で活動するために必要な知識の習得を目的としています。授業に当たっては、情報化を促進するための法律の整備、新たに発生した問題に対応するためのルールの必要性などについて、基礎的な内容から今日のトピックまでを取り上げ、さまざまなWebの活用も行い、学生の意見もできるだけ聴きつつ進めることとしています。
授業で取り上げる分野は次のような内容となっています。

  • 表現の自由と通信の秘密(憲法、プロバイダ責任制限法)
  • デジタル化に伴う電気通信と放送の融合(電気通信事業法、放送法)
  • 個人情報保護(個人情報保護関係5法)
  • 電子政府の推進と番号制度の導入(IT基本法、行政手続オンライン化3法、番号法等)
  • 電子商取引(電子消費者契約法・民法特例法、特定商取引法、電子署名法等)
  • サイバー犯罪(不正アクセス禁止法、刑法、青少年インターネット環境整備法等)
  • 知的財産(著作権法、不正競争防止法等)

なお、政策情報学部は、21世紀社会の当面する課題に対応できる人材を育成するため、これまでの個別科学や縦割りの発想ではなく、幅広い知識と多角的なものの見方と考え方に立って問題を発見し、問題を解決するための知識とスキルを身につけることを目指しています。そして、これからの問題発見・問題解決に当たっては、インターネットなどデジタルメディアを活用し、従来の個別の専門分野にとらわれずに必要な情報を収集・分析・立案して自らの考えを発信し、ネットワークを活用して様々な分野の合意を得て実施することが必要という考え方に立っています。
このため、政策情報学部では、学部設立当初から情報教育には力を入れており、この情報メディア関連法の授業も、情報活用にあたって学んでおくべき知識として学部創設時から開講されています。

2 情報メディア関連法の授業の実際

(1) 授業の受講生のインターネット利用状況と個人情報保護対策の実施状況

情報メディア関連法の授業の冒頭に、授業を履修する学生(2年生~4年生)のインターネット利用実態の調査を行っています。
2014年度の情報メディア関連法の学生のインターネット利用状況は次の通りです。

(2014年4月10日現在)

区分 利用者数
(回答者54名中%)
2012年4月 2011年9月
携帯電話 6名(11%) 44.9% 65%
スマートフォン 48名(88.9%) 60.1% 33%
タブレット端末 10名(18.5%)
SNS (1) LINE 49名(90.7%)
(2) Facebook 19名(35.1%) 46.2% 12%
(3) Twitter 36名(66.7%) 61.6% 39%
YouTube 43名(79.6%) 83.3% 27%
ニコニコ動画 26名(48.1%)

この調査結果とスマホ利用上の注意に対する学生の意見としては、次のようなものがありました。

  • 2011年調査では、携帯電話を利用していたのは65%で、スマートフォンは33%と携帯電話利用者の方が多かったが、2012年ごろからスマートフォン利用が急に多くなり、それにつれてSNSを利用する人が年々多くなっていることがわかった。また、授業で配布された資料で、改めて「歩きスマホ」の危険性を理解した。
  • スマートフォンの使用割合が約9割、それに伴ってLINEの使用割合も9割とほとんどの人が利用していることがわかった。授業でパスワードのロックやアプリは信用できる場所から利用すること、しっかりアップデートすることなど、セキュリティの管理を行っていくことが大切だと学んだ。スマートフォンは単なる携帯電話ではなく小型化したパソコンとして使用していきたい。

また、個人情報保護の授業の冒頭で、学生の個人情報保護対策についてのアンケート調査を行いましたが、その結果は次の通りです。

区分 受講者(70名)
A 何らかの対策を実施 53名(75.7%)
B 特に何も行っていない 4名(5.7%)
無回答 13名(18.6%)
上記「A 何らかの対策を実施」の内訳(複数回答)
(1)掲示板などのWeb上に個人情報を掲載しない 33名(62.3%)
(2)軽率にWebサイトからダウンロードしない 25名(47.2%)
(3)懸賞などのサイトの利用をひかえる 26名(49.1%)
(4)クレジットカード番号の入力をひかえる 17名(32.1%)
(5)スパイウエア対策ソフトを利用 26名(49.1%)
(6)その他 6名(11.3%)

「(6)その他」の例として学生の回答としては次のような対応をあげられており、授業の受講者全員の参考となっています。

  • パスワードをパソコンに保存しない。
  • 個人情報を送信する場合、ファイルを暗号化またはパスワードをかける。
  • 写真から位置情報が特定されないようスマホで撮った写真を貼ってツイートしない。
  • アプリをダウンロードするときは、アプリのアクセス許可をチェックする。
  • アプリをダウンロードするときは、レビューネットの評価、携帯会社のお勧めアプリの情報や他者のコメントをチェックする。
  • スマホの画面では、パスワードを数字ではなく、ローマ字の組合せにし、指の動きで相手にパスワードが伝わらないようにし、人前ではロックを解除しないようにする。

(2) 情報メディア関連法の講義内容とこれに対する受講生の意見

情報メディア関連法の具体的な講義の内容について、4回にわたって実施している「個人情報保護」の授業を例にとって紹介します。
第一回目は、」プライバシー権とはどのような権利か、憲法13条による人格権との関係、これまでのわが国の裁判判例などの紹介によりプライバシー権の内容についてとりあげました。そして、1960年代から電子計算機処理の進展に伴い、プライバシーの権利も従来の「一人にしておいてもらう権利」から情報プライバシー権・「自己の情報の流れをコントロールする権利」へと展開していった経緯、それが各国の法制に取り入れられ、今日の個人情報保護のグローバルスタンダードになっている1980年のOECDの8原則となるまでを講義しました。
また、このような個人情報保護の流れに対応するためのわが国における個人情報保護の取組について、1988年にアジアで最初に制定された個人情報保護法、「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」を中心に、自らがその立案に関わった経験も踏まえて説明しました。
情報メディア関連法では、毎回授業内容に対する意見や質問等を記載する用紙を配布し、授業終了後これを回収し、次の授業の冒頭で、その何人かの意見をコメントを付して公表し、受講者全員の理解の促進を図っています。
この授業に対する学生の意見は、次のようなものがありました。

  • 個人情報保護法制は、プライバシー保護の一環であり、アメリカで概念が展開し、後の個人情報保護法制の考え方に影響を与えていることがわかった。
  • スマートフォンでアプリをダウンロードするときの利用規約の内容が、OECD8原則を踏まえたものであることが理解できた。
  • 個人情報はあらゆる社会生活において必要不可欠であるが、インターネットで情報が流出し、プライバシーが侵害される不安感から個人情報保護のルールを作ることとしたことがわかった。

第二回目は、わが国の2003年5月に制定された「個人情報の保護に関する法律」を取り上げ、個人情報の取扱いの規律に関する官民を通じた基本的な枠組みと、民間部門の個人情報保護取扱事業者の義務等について講義を行いました。
この授業に対する学生の意見は、次のようなものがありました。

  • 個人情報保護法ができて安全でなければいけないはずなのに、個人情報が流出したり売られたりする場合もあるので、しっかりと法律を守ってもらいたいと思った。
  • 個人情報保護法制定あたって、メディア規制法だということで強い反対があったことを知った。
  • 個人情報保護対策のアンケート調査で、掲示板などのWeb上に個人情報を掲載しないという回答が70人中33人であり、残り人は別に載せてもかまわないとも受け取れるが、もっと個人情報が流出する恐ろしさを認識すべきであると思う。

第三回目は、千葉商科大学自体の個人情報保護で、大学の保有する学生等の個人情報保護はどのようになっているかを、大学のプライバシーポリシーや個人情報保護規定で説明し、また、政策情報学部10周年記念講演会での東京大学の宇賀克也教授の講演「教育現場の個人情報保護」のDVDで学習を行いました。
この授業における学生の意見としては次のようのものが出されました。

  • 普段は全然気にしていなかったが大学が個人情報保護取扱事業者にあたることを確認し、様々なルールを定めていることが理解できた。
  • 宇賀教授の講義で個人情報保護の大切さについて改めて考えることができた。その中で印象に残ったのは、中国江沢民主席の早稲田大学の講演会で、参加者の名簿を警察に提供したことが裁判になった案件で身近な問題に感じられた。
  • 個人情報に対する認識が甘く、個人情報が流出したというニュースも少なくはない。個人情報という身近な存在にもっと向き合う必要があると思う。

第四回目は、公的部門の個人情報保護について、行政機関個人情報保護法を中心に授業を行いました。公的部門と民間部門の個人情報の取扱いの違いとその理由、その違いが法律上にどう反映されているか、各省庁における個人情報の取扱いなどを説明しました。また、番号法(マイナンバー法)と個人情報保護についても取り上げました。
さらに個人情報保護の講義の最後として、スマートフォンの普及、SNSの発展、クラウドコンピューティングとビッグデータの活用、行政における個人番号の実施など、最近のデジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、個人情報保護にどのような問題が生じているかを取り上げ、個人情報保護法の改正の動きの紹介もしました。
この授業での学生の意見としては、次のようなものがありました。

  • 人情報保護法でも公的部門と民間部門で違いがあり、行政機関個人情報保護法には民間部門に無い様々な特色があることがわかった。
  • 行政機関は個人情報の取扱いにおいて、国民の不安感に対応するため、公開性、透明性を重視した取組が採られていると理解した。
  • 行政機関は、多くの人々の個人情報を取り扱っているのに自分たちは何も知らず信頼している。もう少し関心を持つ必要があると思った。
  • マイナンバー法の制度が始まったとしたら、ますます情報の管理が大切になってくると思った。
  • 個人情報の利用の形態はいまでも進化し続けているので、それに対応する法整備も必要であると思った。

3 むすび

情報メディア関連法は、まさに現在進行形の科目で、企業も政府・自治体もそして世界も大きな変化を遂げつつあり、毎日、ニュース等で素材が提供されているため、アンテナを高く、その大きな時代の流れをつかみ、そのあるべき姿を常に追い求めるエキサイティングな科目です。
また、情報メディア関連法の対象としている、高度情報通信社会は急速に発展しており、それに対して法的対応が必ずしも追いついているとはいえない状況もみられます。法整備を待って対応するのでは不十分な場合も考えられ、情報化に向き合う一人一人の意識、特に情報倫理が必要であると考えています。情報メディア関連法の授業を通じて、情報倫理が学べるよう意識して授業に取り組んで行きたいと思います。

解説者紹介

瀧上 信光

[政策情報学部教授]
瀧上 信光 Takigami Nobumitsu
[専攻]
行政学、行政法、情報法