教員コラム

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教育

20歳代独身の62.6%は貯蓄ゼロ!

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昨年発表された「家計の金融行動に関する調査2015」(金融広報中央委員会)によると、我が国の20歳代単身世帯の62.6%は貯蓄ゼロとなっています。2014年には47.4%だったのですが、昨年は急激に増えて6割強。将来の生活設計のために家計管理をして、貯蓄や投資にまわせるお金を作ることがとても重要になっています。

また今年6月「金融リテラシー調査」(金融広報中央委員会)が発表されました。これによると、我が国の国民の金融リテラシーについて、正誤問題ではドイツや米国を7~9%下回っており、望ましい行動を選択した人の割合は同様に、7~17%下回っています。金融教育を強化することは急務になっていると言えるでしょう。

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新しい金融リテラシーとその4分野

2008年のリーマン・ショックの後、OECDやサミットで、各国における金融教育を強化する方針が具体化されてきました。我が国では2013年4月に、私も委員を務めた「金融経済教育研究会」(金融庁)が「金融経済教育研究会報告書」を公表し、国際水準の新しい「最低限身につけるべき金融リテラシー」を発表しました。金融教育というと、金融知識を身につけることに主眼が置かれてきたのですが、国際動向を受けて、「知識とともに適切な金融行動を」という視点で、実際の金融行動が適切に行われることを重視するものに変化しました。 この新しい金融リテラシーには4つの分野があります。

第一は、中長期的な生活設計を立てて実行することの習慣化です。将来の就職や結婚、子育てや住宅取得、そして退職や老後など、長期的に将来を見据えてプランを作り、それに見合った貯蓄や投資、資産形成などを行っていくことです。日本ファイナンシャル・プランナーズ協会が昨2015年10月に発表した「マネープラン20代~30代がすべきこと 調査レポート」(ファイナンシャル・プランナーーCFP認定者に対する調査)では、「ライフプランを考え、キャッシュフロー表を作成してみる」べきであるとの回答が最も多い結果とまりました。将来を予測して、いつ、どんなライフイベントを迎えるかを考え人生をプランニングし、先々までの収入、支出、貯蓄残高などを一覧にしたキャッシュフロー表を作成し、20代~30代から具体的な生活設計や資産運用などの計画をたてることが重要であるという結果になりました。自分でライフプランを立てられない場合は、中立的なファイナンシャル・プランナーに相談して、一緒にライフプランを作り、キャッシュフロー表を作るようにしましょう。

第二は、そのために家計管理をしっかり行う習慣を身につけることです。毎月の家計を黒字にして貯蓄や投資にまわせるお金を作ることが、何よりも大切です。20代で6割強の単身世帯が貯蓄ゼロでは将来が危ぶまれます。無駄な出費を節約して家計管理を強化することはとても大切です。大学卒業時までに30万円、30歳までに300万円を一つの目安に、自分の貯蓄目標を設定して貯蓄を習慣関していきましょう。また節税の利点がある確定拠出年金制度を上手に利用して、毎月少額でもいいので、長期で、投資対象が分散された投資信託などによる積立投資にも取り組んでいきましょう。

第三が、金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択です。インフレ・デフレ、単利・複利、為替、リスクとリターン、金融取引と契約、コストと税金といった基礎知識から始まり、保険・ローン・クレジット・資産形成商品などについての知識と理解を身につけていくことはとても大切です。

第四が、外部の知見の適切な活用です。金融商品を利用するに当たって、金融広報中央委員会の「知るぽると」サイトなど中立的な機関からの情報を得ること、そして金融機関から独立して、金融商品の販売に関わらない中立的なファイナンシャル・プランナーに相談すること、が大切です。金融機関と個人では、金融に関する情報格差が大きいので、それをカバーするために、こうしたことは欠かせません。

小学校低学年の金融リテラシー

さてこの金融リテラシーを年齢層別・項目別に詳細に展開したものが「金融リテラシー・マップ」です。これによると小学校低学年から始まり、小学校中学年・高学年、中学校・高校・大学・若年社会人・一般社会人・高齢者という年齢層別になっています。このうち、出発点となるのが小学校低学年です。この段階では、「欲しいものを全て手に入れることはできないことを知り、予算の範囲内でものを買うことができる」「小遣いの使い方を通して計画的に買い物をする必要性に気づく」「小遣いやお年玉を貯めてみる」「不良品に注意する」「約束を守ることの大切さに気づく」などを身につけるとなっています。

お金に関する金融リテラシーは、衣食住などが生活スキルであるのと同様の次元で、生活していくための必須の生活スキルである、ということができます。貧困社会の問題は、収入である賃金の問題が大きいのですが、個人の家計の場面でも、こうした金融リテラシーを小学生時代から身につけていくことが貧困に陥らない主体的な条件になると考えられます。

金融教育の推進

日本の学校では「金融」という独立した科目は教えられておらず、家庭科や社会科あるいは総合的学習の時間などで教えられており、以前よりは内容も強化されつつあります。しかし不十分です。そこで家庭や社会での取り組みを強化する必要があります。そのため2013年6月、文部科学省や消費者庁・金融庁、それに銀行協会や生命保険協会そして日本FP協会などの金融関連団体、それに私も含めた有識者が参加して「金融経済教育推進会議」が金融広報中央委員会を事務局としてでき、先ほど説明した「金融リテラシー・マップ」を土台に金融教育を推進しています。大学については、この推進会議構成団体が全国の幾つかの大学で金融教育の授業を行っていますが、まだ多くはありません。千葉商科大学人間社会学部のように「金融リテラシー」という科目を設けて、選択科目の中でも必修に近い位置付けにして、学部のほぼ全員が学ぶようにしている大学は、まだごく少数です。

私が専務理事を務めているNPO法人日本FP協会では、厚生労働省の依頼で「生活困窮者家計相談事業」を全国各地の自治体と連携して進めています。また文部科学省と連携して、奨学金を貸与されている専門学校生の家計管理のためのセミナーと相談事業を展開しています。また日本FP協会に所属するファイナンシャル・プランナーの中には、自発的に、子供や特別支援学校の生徒に対する金融教育を行っている人もいます。
こうした努力を多面的に推進することが求められています。

解説者紹介

教授 伊藤 宏一
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