教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

教育

学校を休んで図書館へいらっしゃい

もうすぐ夏休みも終わってしまいますね。今のあなたの気持ちはどうですか?
今から2年前の2015年8月26日、神奈川県鎌倉市の鎌倉市中央図書館が、Twitterの公式アカウントに次のような投稿をしたことが、ニュースになったという記憶はありますか。

「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。」

これを読んであなたはどのような気持ちになりますか?「ふざけている!」って思いますか。「えぇっ!いいのぉ?」っていう感じでしょうか? それとも「あぁ、よかった。そういう方法もあったのか」と救われた気持ちでしょうか。
保護者の方、学校の先生方などの立場からすると、「学校を休んで」や「学校へ行くくらいなら」など、学校へ行かなくてもいいとも受け止められる部分を心配してしまうのでしょうね。

当然、鎌倉市教育委員会教育長や教育部長、中央図書館長などは、このことを心配して話し合ったそうです。鎌倉市立小中学校の設置者であり、その教育に責任をもつ教育委員会としては「削除すべき」という意見も出たようですが、図書館側の「子どもたちに自殺しないでほしいという思いで書いたもの」という説得があり、ツイートはこのまま残すことに決定したということです。
そもそも、神奈川県鎌倉市の鎌倉市中央図書館がこのツイートをあげる動機となったのは、不登校の児童生徒を支援するNPO法人全国不登校新聞社が、同年8月18日に発信した緊急メッセージだそうです。

夏休みのあいだは、「学校に行かなきゃ」との思いから少しだけ解放される、つかの間の休息期間です。
しかし、もうすぐ新学期が始まります。学校のことを考えるたび、つらい気持ちになっていませんか。そのつらさを誰にも打ち明けられず、一人で悩んでいませんか。 明日、学校に行きたくないと思っているあなたへ、一つだけお願いがあります。「学校に行けない自分はもう死ぬしかない」と、自分で自分を追い詰めないでください。身も心もボロボロになるまで頑張り続けたあなたに必要なことは「休むこと」です。
誰かと比べる必要はありません。あなた自身がつらいと感じたら、無理して学校に行こうとせずに、まずは休んでください。学校から逃げることは恥ずかしいことではありません。生きるために逃げるんです。

(緊急メッセージ 明日、学校に行きたくないあなたへ 不登校新聞より引用)

夏休みの終わりにどうしようもなくつらい気持ちに襲われている、あるいは、かつて襲われた経験のある人は少なくないようで、インターネット上では、鎌倉市中央図書館のTwitter投稿の内容について、大きな感動と賛意の輪が広がり、半日も経たないうちに1万回以上リツイートされ、多くの賛同コメントがついたということです。
2年たった今年も同じです。あなたが、生きるために逃げることは必要なことなのです。悲しいニュース報道にならないようにね。

なぜ、この時期に

平成29年版自殺対策白書(厚生労働省,2017)によると、我が国における若い世代の自殺は深刻な状況であることがわかります。年代別の死因順位をみると、15~39歳の各年代の死因の第1位は自殺となっており、男女別にみると、男性では10~44歳という、学生や社会人として社会を牽引する世代において死因順位の第1位が自殺となっており、女性でも15~29歳の若い世代で死因の第1位が自殺となっています。こうした状況は国際的にみても深刻であり、15~34歳の若い世代で死因の第1位が自殺となっているのは、先進国では日本だけであり、その死亡率も他の国に比べて高いものとなっています。

平成27年版「自殺対策白書」(厚生労働省,2015)によれば、18歳以下の自殺者において、過去約40年間の日別自殺者数をみると、夏休み明けの9月1日に最も自殺者数が多くなっているほか、春休みやゴールデンウィーク等の連休等、学校の長期休業明け直後に自殺者が増える傾向があることがわかりました。

高校生の原因・動機をみてみると、「学業不振」や「その他進路に関する悩み」や精神疾患といった原因・動機の比率が高く、進学や就職に向けた不安や、勉強の厳しさへの悩みがうかがわれます。また、友人関係のトラブルやいじめなどで苦しんでいる人もいると思います。もしかすると、あなたもこのような不安や悩みを抱えた一人なのではないですか?

心だって風邪をひく

生きていれば、苦しいこともつらいこともあります。眠れない夜を過ごすことも、涙することもあります。でも、そういうときに、「自分は存在しても意味がない」「自分は誰からも大切にされない」「何をやってもダメな自分」「誰もわかってくれない」「誰も自分に向き合ってくれない」「一人で頑張るしかない」「自分にはどうすることもできない」と感じるのだったら、「心が風邪」をひいているのかも知れません。心が風邪をひくと、いつもだったら乗り越えられる壁がとてつもなく高く感じたり、いつもだったら判断できることが、判断できなかったり、辛い苦しい状況が一生変わらなく思えたりするのです。夜明けの来ない夜はないのに、きっといつまでも朝はこないに違いないって思いこんでしまうのですね。絶望感に押しつぶされてしまうから、自ら命を絶ちたくなるのですね。心の風邪があなたにそう思わせてしまっているのです。
でもね、「心の風邪」は、適切にお医者さんに診察して、処方してもらえれば、必ずよくなるのです。今の苦しい状態から間違いなく解放されるのです。

あなたが大切です

だから、高校生のあなたに伝えたいのです。 あなたが大切なのです。あなたに生きていてもらわないと困るのです。2つ約束してくれますか。

【ひどく落ちこんだときには相談する】
気分がひどく落ちこんでいると感じたとき、または、解決が難しいと思われる問題が起こったとき、誰かにSOSを出してください。生きていく上で、自分の力で乗り越えようとする力と同じくらい、人にSOSを出せることもすばらしい能力です。生きる力、生き抜く上でのすばらしい力です。あなたが、一番伝えやすい人にSOSを出してください。あなたの苦しい心の内を聴いてくれる人たちは必ずいます。
無料で利用できる電話相談のほんの一部を紹介します。

  • いのちの電話 フリーダイヤル:0120-783-556
  • こころの健康相談統一ダイヤル 相談電話番号:0570-064-556
  • よりそいホットライン 一般社団法人 社会的包摂サポートセンター 相談電話番号:0120-279-338

【友だちの危機は信頼できる大人につなぐ】
友だちから「死にたい」と打ち明けられたら、その友だちの気持ちを大事にしながら話を聴いて、あなたが大切で、あなたに死んでほしくないことを必死で伝え、必ず信頼できる大人につないでください。「心配かけるから誰にも言わないで」って言われたら、「あなたに死なれたら私が悲しいから、あなたを守れる大人に伝えるよ」って言って、必死に信頼できる大人の人に伝える動きをしてください。
そう、あなたがたいせつなのです。

【参考文献】

  • 厚生労働省(2017)自殺対策白書
  • 厚生労働省(2015)自殺対策白書
  • 文部科学省(2009)「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」のマニュアル
  • NPO法人全国不登校新聞社(2015)不登校新聞 緊急メッセージ 明日、学校に行きたくないあなたへ

解説者紹介

川崎 知已