学長コラム

本学の取り組みや教育活動、学生たちの活躍などの最新情報を中心に、時折、原科学長の研究テーマである参加と合意形成、環境アセスメントに関連した話題もお届けします。

コロナ禍のもと迎えた新年は、初詣をはじめさまざまな行動の制約をせざるを得ないという、これまでにない寂しいものでした。1月7日の緊急事態宣言発出により、授業は全面オンラインに切り替えましたが、2月7日までの予定だった緊急事態宣言は3月7日まで延長されました。この間に、活動制約を緩和できる状況になることを期待します。

コロナ後の社会はどうあるべきか。明確な将来像を描き、それを社会全体で共有することが必要です。新型コロナウイルス感染症で経験したようなパンデミックに対応できるためには、どうするべきか。科学技術の発展と経済活動の世界的な拡大の結果、人々の旺盛な移動がパンデミックを起こしてしまいました。長距離の移動により、不特定多数の人と接触する機会が増えることが感染リスクを高めます。そこで、欧州を中心にロックダウンなどの厳しい措置が取られています。日本では、そこまで厳しくはありませんが、自主的な行動制約が求められています。

コロナ後の社会では感染症の拡大に常に備えることが必要となります。そこで、オンラインでの活動を活用しつつ、地域ごとに生活、生産の中心的なものが終えられる、そういう地域分散型の社会のあり方がコロナ後のニューノーマルになるのではないでしょうか。もちろん、地域内で全てが完結するわけではありませんが、外部との交流は今よりも減ってゆく。しかし、生活の質は下げない。そういう工夫が求められます。

人類は言葉を使いコミュニケーションを発達させ組織的な活動ができるようになりました。道具を作り、火を使うことでエネルギー利用が進み、科学技術の発展により、他の動物とは全く違う生き方をするようになりました。しかし、地球上の資源エネルギーは有限です。1960年代末には地球上の資源の限界が強く認識され、1972年にはローマクラブが『成長の限界』を著わしました。今では、持続可能な範囲内での人間活動の必要性は世界共通の基本認識にはなったと思われます。しかし、なかなか行動が伴いません。2016年から始まった、国連のSDGs(持続可能な開発目標)もこの認識が基礎にあり、これまで行動が伴わなかったことの反省の上に生まれたものと言えます。

一つの考えを紹介します。私は動物のあり方から学ぶべきではないかと思います。動物の生き方を見ると、縄張りをつくっています。それは、限られた環境資源の条件のもと、資源獲得の争いを減らすようにとの知恵です。人類も太古の時代はすみわけをしていましたが、次第に他の縄張りを犯すようになりました。人類の歴史は領土拡張の歴史と言っても良いでしょう。それでも、力のバランスが働き、国境ができ争いを減らす工夫はされてきました。

現在の私達のライフスタイルでは徹底したすみ分けは不可能ですが、地域内での活動と地域外との間の活動のバランスを大きく変えることが必要です。そのためには、地域分散型の社会経済システムでなければならないと考えます。とはいえ、あまり小規模での集住では、現代人の高度な生活の要求を満たすことはできません。かなりの人口集積が必要です。

そこで、私は分権型の道州制のもとに、市町村レベルの自治体がネットワークを組む仕組みが効果的だと考えています。道州の規模は、500万人から1,000万人程度。北欧など環境先進国と言われる諸国がこの規模です。この20ほどの道州で日本を構成します。100万人前後の都市が、道州の中心になります。そうなれば、日常生活は自治体の範囲で行え、非日常的な活動は道州の中心都市で行えます。さらに高度の活動は、道州を超えて。

そして、新型コロナウイルスのような感染症とともに、人類共通の大きな脅威である気候変動もあります。これに立ち向かい、持続可能な社会とするためにも、分権型の道州制は効果があります。エネルギーの持続可能な利用のためには、自然エネルギーの利用に切り替えることが必要で、地域分散型社会では、それが可能です。本学はその先駆けとなりましたが、これを他の大学や、その他のさまざまな組織に広げて行き、社会を変えて行きます。

以上、一つのアイデアを示しましたが、コロナウイルス感染症が収束した時、その後の社会はどうしたら良いか、皆さんも、共に考えてみてください。