教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

政治・経済・ビジネス

来年、平成26年4月より消費税が8%になります。何故でしょうか。答えは簡単で、国のお金が足りないからです。少子高齢化を背景に、年々、医療と年金を中心とした社会保障費が増大する反面、景気の長期低迷による税収不足が深刻化していて、いくらお金があっても足りない状態と言えます。シュンペーターの言葉が有名ですが、近代国家は租税国家であり、国家は無産国家、つまり自ら何も富を生み出しません。従って、民間部門の富を強制的に租税として徴収して、それを財源に財政活動を行っています。近年のわが国は慢性的な財源不足で、本来の財源であるべき租税は予算の半分程度しかなく、残りを国債と言う名の借金に依存しているのです。従って、増税は不可避ですが、なぜ消費税なのでしょうか。それと、税金の無駄遣いの徹底的な見直しが急務なのは言うまでもありません。

財政危機の現状

平成25年度一般会計当初予算を見てみると、92兆6千億円の予算に対して、本来の財源であるべき税収は43兆円に留まり、予算の半分にも達していない危機的状況です。反面、借金である国債の新規発行額は42兆8千億円に達し、ほぼ税収とイコールです。基礎的財政収支であるプライマリー・バランスも20兆6千億円と巨額の赤字であり、累積した借金の総額は国債にその他の借入金等を加えると1千兆円を超えています。
数字だけを見ると、深刻な危機のように思えますが、日本にはまだまだ底力があると思います。一番大きな理由として、わが国の国債は大部分が日本の国内で市中消化されていることがあげられます。国民が蓄えている金融資産は約1千5百兆円と言われており、そのお金を国が借りて使っているわけです。つまり、財政危機と言ったって、日本国内でやりくりしているわけで、外国からの借金に依存しているわけではありません。なので、まだ若干の余裕があるのです。
しかし、いつまでもそうは言っていられません。このままでは、いずれ国民の貯蓄が底をついてしまいます。そこで、財政再建、つまり、予算削減と増税に舵を切らなければなりませんが、景気の動向を注視しながら長期間かけて行わなければなりません。バブル崩壊後、20年以上に渡って累積してきた借金ですから、返す方も今後20年以上かかって返すと考える方が普通です。財政再建は必ず必要ですが、焦る必要はないのです。長期的に、プライマリーバランスの赤字を徐々に減らしていく努力こそが肝要と言えるでしょう。

税と社会保障の一体改革

民主党政権は今や昔話ですが、当時の野田首相の置き土産が税と社会保障の一体改革です。これは、社会保障の財源として消費税の増税を計るというもので、政治的には国民のコンセンサスを得やすいという利点がありました。国民に福祉と言う言葉は心地よく響きます。しかし、伝統的な財政学の教え(ノンアフェクタシオン原則)からは、特定の税収と特定の支出を結び付ける目的税は望ましくありません。なぜならば、財政硬直化を招き非効率となるからです。このように、今回のような政治的な配慮に基づく消費税の増税は両刃の剣とも言えるのです。

消費税率引き上げの問題点

平成元年4月1日付けで、竹下政権において難産の末に当初税率3%で導入された消費税は、わが国政府、大蔵省(現財務省)の20年来の悲願でした。法人税と所得税に依存し直間比率が極めて高かったわが国において、政府の経済活動の原資である租税を安定的に維持調達するためには、景気の動向に左右されにくい大型の一般消費税が強く望まれたのは当然でした。所得課税に比べて、消費課税は景気変動に対する弾力性が低いので安定的であり、オイル・ショックにより法人税が激減したことによる歳入欠陥を赤字国債で穴埋めした苦い経験から大型間接税の導入は強く望まれたのです。
その後、5%への税率引き上げなど数回の改正を経て現在に至っています。消費税は、その理論ベースを消費型付加価値税・前段階控除方式に依拠していますが、理論的には望ましい同税も、わが国の制度はいまだ欠点だらけです。
税率に着目すると、高福祉国の北欧(ノルウェー・スウェーデン)の25%を最高に、VAT(付加価値税)を基幹税としているEU諸国は概ね15%程度で推移していましたが、イギリスもドイツもついに20%を超えました。諸外国に比べて、わが国の現行税率は突出して低いと言えます。5%の消費税は間接税かつ税率が低いがゆえに低所得者層の負担が大きくなる逆進性の問題もクローズアップされないし、国民は負担感が少なく納税意識は今やほとんどないと言っていいでしょう。
ところが、来年8%になり、さらに再来年10%になるとすると、多くの問題点が噴出してきます。一番大きい問題が、前述した逆進性の問題です。課税の公平の観点からは累進税が望ましい。ところが、消費税には所得の低い人が高い人よりも、より多くの税負担割合を強いられるという不公平が生じてしまいます。この問題をクリアーするためには、複数税率の導入や給付付き税額控除等のなんらかの措置を導入しなければなりませんが、財政の「政」は政治の「政」と言われるように、迷走していて一向に決着を見そうにありません。

少子高齢化時代の税制

少子高齢化時代の到来に備えて、所得税と消費税の選択という税制の在り方が問われています。わが国の社会保障は「中負担・中福祉」であると思われますが、この中負担を担う基幹税として所得税と消費税のどちらが望ましいのかといった問題が重要となってきました。勤労世代と退職世代に分けて考えれば、所得税は個人の所得を課税ベースとしますから、勤労世代のみが負担することになります。これに対して、消費税は消費を課税ベースとしますから勤労世代も退職世代も消費の機会に対して公正に負担することになります。したがって、やや短絡的かも知れませんが消費課税の方が望ましいと言えます。さらに、国家の安定した税収確保の観点からは、所得弾力性に依存してビルトイン・スタビライザー機能を担う累進税率構造の所得税よりも、景気に左右されにくい消費税の方が望ましいでしょう。また、望ましい税制の要件のひとつである簡素の観点からも、消費税が原則として買った商品の5%というように比較的分かりやすいのに比べると、所得税は極めて複雑であると言わざるを得ません。これらの観点から、どうやら少子高齢化時代には消費税が優位のようです。最後に、消費税は国家にとっても都合の良い税目です。一度導入さえしてしまえば、その仕組みを変えることなく単に税率のみをジリジリと上げて行けば安易に増税が可能となるからです。

今後の展望

財政の持続可能性の観点から、つまり、財政危機を回避し再建を果たすためには、プライマリー・バランスの黒字化の早期実現が必要です。そのためには、歳出の徹底的な削減と増税が考えられ、増税にあたっては、政府の経済活動の財源として所与の税収が継続的かつ安定的に調達できるような仕組みが望まれます。今後の少子高齢化時代を見据えて、3基幹税のゆくえをまとめてみましょう。
増税は短期的にはデフレ脱却を目的とした財政出動の財源として必要であり、中長期的には財政再建のために必要です。わが国は、所得税、法人税、消費税の3基幹税で国税の約8割を賄っています。所得税は公平と効率のバランスのとれた良税であり基幹税として貢献してきた実績は大きいですが、今後は人的控除の廃止や高所得者層の給与所得者控除の制限等によるゆるやかな増税が期待できる程度です。法人税に関しては、企業の国際競争力の観点から減税圧力が働いています。残る可能性は、消費税の大幅増税ですが、政府は安易に税率を引き上げる前に、課税ベースの拡大を検討するべきです。消費税の税率引き上げは規定路線であり、政治的な福祉目的税の示唆もあって、国民は一定のコンセンサスを示しています。今後の税率引き上げ時に留意すべき点は、逆進性に加えて、わが国消費税固有の益税問題の解決が至上命題でしょう。同時にすべての個別消費税を廃止して消費税に一本化すべきです。そうすれば、租税システムはより簡素になり、徴税費も少なくて済みます。いずれにしても、今後の税率引き上げにより、税収第一位の座が消費税になることは確実ですが、経済に与えるマイナスの影響が若干懸念されるところです。
最後に、財政危機に一番効く薬は経済成長です。経済が右肩上がりになりGDPを押し上げれば、借金の負担率も減少するし、税収の自然増も期待できます。これからの時代を担う若い世代のエネルギーに大いに期待したいところです。

解説者紹介

栗林 隆