教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

環境

去年のバレンタイン・デー覚えていますか。大雪で交通がマヒし、あらゆるイベントがキャンセルされた日。あれは金曜日でしたが、その後の土曜日、日曜日と関東甲信越地方で最深積雪記録を更新するほどの大雪が降り、特にあまり雪の降らない山梨県では中央高速などの高速道路が使えなくなり、国道は高速から降ろされた車で大渋滞。さらに雪が降り続いて動くことができなくなり、何とその週末をずっとその車列の中で過ごしたと、前代未聞のことが起こりました。また猛烈に降り続く雪で道路が埋まってしまい、その先にある村落への通行が不可となり、それらの村落に住む人々は道路が開通するまで長期間孤立してしまい大変だったこともありました。この時の降雪量は平年の601%にも上り、2月としては統計記録を取り始めた1961年以来の最高記録を更新したとのことです。

去年の夏もまた異常に多く雨が降りました。気象庁は「平成26年8月豪雨」と名付けましたが、それは(1)8月1日~5日までの台風12号による四国を中心とした大雨、(2)8月7日~11日までの台風11号による東海、近畿、四国などの大雨、そして(3)が8月16日~20日にかけて広島県福知山市の豪雨および広島市の甚大な被害をもたらした土砂災害を伴った前線による局地的な豪雨のことで、この3つの豪雨を総称した名前です。

その降水量とは、西日本での8月平年の3倍で、1946年の統計記録開始以降最多を記録しました。地域別にみると徳島市で平年の6.1倍、高知市で5.5倍、兵庫県洲本市で5.3倍、和歌山市で5.2倍など、全国17地点で8月の最大降水量の記録を更新しました。 雨の降り方ですが、特に大きな被害を出した広島県安佐北区を見ると、1時間あたり121mm、102mm、115mmと軒並み100mmを超えています。これがどれくらいの降り方かというと、通常かなり強くザーザーと降るというときでも、1時間あたりにすると10~20mmで、20~30mmだと「どしゃ降り」、30~50mmだと「バケツをひっくり返したように降る」、50~80mmだと「滝のように降り、水しぶきで視界が悪くなる」、80mm以上だと「息苦しくなるような圧迫感があり、恐怖を感ずる」と気象庁は説明しています。これからみても、100mm以上の雨がどんなに激しく、怖いかが想像できます。

日本の年平均気温の偏差の経年変化

つまり2014年は、降雪量でも記録を更新し、降雨量でも過去最高を更新したということが言えます。日射量に関しても、普通は8月は毎日日が照りつけて暑いのですが、昨年の8月はその日射量も平年の48%で、統計開始以来の最少を記録したとあります。

日本では年々、「今まで経験したことのない」暑さ、大雨、降水量、竜巻などが起きています。2010年の暑さはそれまでにないほどだったので「酷暑」と呼ばれましたが、それ以降も暑さは年々増し、2013年の8月12日には、一日の最高気温としてはかつてない高さの「41℃」が高知県四万十市で記録されました。実際に日本の平均気温は100年あたり約1.14℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降それが顕著にみられます。

この気温上昇は世界的な傾向でもあり、「気候変動政府間パネル(IPCC)」の第5次報告(2013年9月)では、1880年~2012年の気温上昇幅は0.85℃と報告しています。同報告書は日本を含む「中緯度の陸域のほとんどでは極端な降水がより強く、より頻繁となる可能性が非常に高い」こと、「大気中の水蒸気量が世界平均で5~25%増加する」と予測しています。そのため、日本で起きている毎年の「今まで経験したことのない」大雨や高温、降雪などが、地球温暖化に由来していることは充分考えられることです。しかしそれを確証するためにはさらなるデータの蓄積が必要であると気象庁は言っています。

一方、異常気象は日本だけではなく、世界的にも起きています。2014年だけ見ても世界で起きた異常気象には、ヨーロッパ・ロシアが記録史上最高に暑い1年であったこと、巨大ハリケーンがハワイ島、カリフォルニアを襲い、初めて土砂崩れを起こした、米国中部地域は逆に最も気温の低い状況が冬の間続いた、アラスカ州は1916年からの記録史上最も暖かい年であった、中国北東部の干ばつ、インド北部大雨、パキスタン北部の洪水・地すべり、フィリピンの巨大台風、南アフリカでは1933年以来の干ばつ、カリフォルニアは通年を通した干ばつ、南米では夏は高温、冬は多雨、オーストラリアも同様に暑い春などがあげられます。

世界平均気温推移

世界気象機関は2014年を記録史上最高に暑い年だったと発表しました。最も暑かった15年のうち14年が21世紀に入ってからのもので、それ以前のは1998年なので、2000年前後から毎年気温が上昇し続けていることが示されています。

上昇しているのは陸上の気温だけでなく海水温も上昇しています。2013年の年平均海面水温(全休平均)の海水温は平年に比べ0.13℃上昇し、これは統計開始の1891年以降では2番目に高い値となっています。海水温が上昇すると台風やハリケーンが水蒸気をたくさん取り込み、巨大化する要因となります。近年の台風やハリケーンの巨大化は海水温の上昇が原因ではないかと言われています。

しかし平均海面水温は上昇傾向にありますが、2001年以降は横ばい状態となっていて、地球温暖化は止まった、中断しているのでは、と諸説ありました。これに対し昨年8月に米科学専門誌のScienceに、横ばいなのは海表面水温であり、海の深海部に熱が貯めこまれているのでは、との仮説を裏付ける研究成果が発表されました。というのも、放出されているCO2を始めとする温室効果ガスは大気中に滞留し、その濃度が年々高くなり、2013年についに400ppmを超え、なお上昇し続けている事実があります。(産業革命前は280ppm) にもかかわらず海表面水温がそれほど上がらないのはヘンだ、ということで調べたところ、その熱は大西洋と南極の深海に吸収され、貯めこまれているようだ、と示しました。この傾向は10年以上続くかもしれませんが、この熱が再び表層海水面に戻ると、一気に温暖化が加速する可能性があることを示唆しています。つまり今以上に危険な異常気象が増えるということです。

地球温暖化は人間活動による温室効果ガスの大量排出によるものであることは95-100%の確率で断定できると、IPCCの第5次報告は以前にもまして踏み込みました。「人間活動」とは、石油、石炭、ガスなど化石燃料を燃やして成り立つ近代文明を指しています。他にもCO2を吸収してくれる森林の大量伐採や、海の埋め立て、有害廃棄物を含むあらゆるゴミを海に捨てるなどにより、吸収能力を減らしたりしていることもあります。私たちはこうした「近代文明」のあり方を変えて行かないと、温暖化に歯止めをかけられない瀬戸際に立っています。電気を含むエネルギーの使い方の見直し、自然エネルギーの活用、森林や海の保護・保全などを考慮に入れたライフスタイルに変えて行けるかどうかが、今、人類に問われています。

解説者紹介

鮎川 ゆりか