教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

教育

日常生活の中で、「いじめ」という社会病理があります。酷い時には「いじめ」が暴行に、そして「いじめ」の一番酷い状態まで深刻化し、最後は自殺、殺人に至るまでの事件が相次いで報道されていますよね。一体、「いじめ」ってどうして起こるのでしょう?
あなたの周りに、「いじめっ子」はいませんか?いつも「いじめられっ子」がいたりしませんか?あなたも加害者、被害者、そのどちらか、あるいは両方の経験がありませんか?
ここでは、「いじめ」の原因を「この子たちが加害者だ」とか、「〇〇(被害者)がこうだからこんな事態に陥ったのだ、という従来型の(「要素還元アプローチ」と言います)ではなく、「いじめ」は「なくならない」という前提で、どうしたら早期発見・早期解消に繋がるのか、という「集団の力学」、すなわち、いじめられた方が悪いとか「傍観者がいなかった」などの要素を認めるのではなく、誰にでも起こりうる現象(「システム論的アプローチ」と言います)考え方をしてみたいと思っています。
どうして「いじめ」が発生・エスカレートし、果ては被害者の自殺にまで至るのか—ここでは、私が現役小学生、大学生、成人男女に至るまで、アンケート調査、事例研究に基づき、深刻化を最小限に抑えるための提言を行います。

1.「いじめ」とは何か

まず、「いじめ」は日本に特有の現象ではなく、海外においても行われている。言語も国境も、文化も違うのに、「バイラス」(ウイルス、ばい菌)という「いじめ」が共通に行われています。(例えば「〇〇に触ると汚いよ」といった類のものです)。北欧諸国で1970年代にOlweus(1973,1978)で始まり、1983年には、56万8,000人を対象者として大規模な調査が実施されました。その後、1982年にノルウェーで3人の少年が自殺したことによって、全国的な「いじめ」防止キャンペーンが展開されました。「いじめ」の定義は、森田・清水(1996)を参考とし、筆者は「いじめとは、同一集団内の主体間の相互作用過程において優位に立つ一方が、集合的に、他方に対して反復・継続的に精神的・身体的苦痛を与える行為」と規定します。
オールウエーズ(1933)「いじめ」という言葉を使う際の前提として「力のアンバランス」(非対称的な力関係)がなければならない、という点を強調しています。

2.「いじめ」の現状

実際に受けた主な「いじめ」(複数回答)

紙幅の関係で、調査結果を詳細に述べることはできませんが、「最も酷いいじめを受けた相手」は、以下の図で示すように「同級生」であり、「場所」は教室になっています。
同一集団内の閉鎖的な空間が「教室」であり、このことが逆にいじめの可視性を低く、早期に見いだされない点にもなっています。要は、日常生活の中で「いじめ」があるのです。

最も酷いいじめを受けた相手(複数回答)

最も酷いいじめを受けた場所(複数回答)

「いじめ」を見たことが「ある」の割合/「いじめはなくならない」という回答

大学生対象の調査では、「いじめを見た経験がある」が、有効回答数726人中88.6%にあたる643人でした(図4)。別にみると男子が90.8%とやや女子の86.4%より多くなっています。大学生の方が高校までと期間が長いために「いじめ」を目撃する機会が多かった期間が短いことによる違いであると考えられます。いずれにしても、「いじめ」は児童・生徒にとって極めて身近で日常的な現象であるといえるでしょう。

図5にみられるように、小学生は年齢が高くなるほど、大学生に至っては「いじめはなくならない」が圧倒的です。理由として「快楽だから」という回答もありました。
人間は、時として残酷です。もちろん、標本数は違いますが、生きている長さが長い程、「いじめ」はなくならない、という回答が多くなっています。すなわち、「学校」の「教室」で、同級生に「いじめられる」、というパターンが典型的な「いじめ」です。
「いじめ」られたときに思うことは「いつか仕返ししようと思った」という回答が最も多く、これでは「やられたらやり返す」という「負の連鎖」がどんどん酷くなってしまいます。

3. 集団の力学と「いじめ」

3-1. 定量調査(アンケート)からみる、「いじめ」の2大因子の抽出

「いじめ」の2大因子の抽出

最もいじめが酷かったときのクラスの状況に関する回答から、主成分分析をした結果、最も大きかったのが「閉鎖性・付和雷同の因子」と、「規律・結束の因子」が抽出されました。集団内で発生する「いじめ」を考察するにあたり、竹川(1993)は、学級集団の雰囲気が一元的な空気に染まり、いじめを許容したり傍観したりする雰囲気に陥っている状況を「いじめ許容空間」と呼びました。以下、なぜこの「いじめ」の2大因子の抽出されたか、みてみましょう。

筆者が行ったアンケート調査から、「もっとも酷いいじめ」が行われていたクラス「同一集団内」での適合ルールに反する者に対する制裁感覚で「いじめ」が行われる場合が見出されました。例えば、クラスが結束するために、規律を乱すとみなされた児童・生徒に対して「いじめ」を行うという状況が考えられる、という新しい発見がありました。
第1の因子「不和雷同の因子」が働き、クラスでは皆成員はその流れに巻き込まれ、「いじめ」は異質なものの排斥行為です。集団の成員間における微妙な差異がきっかけで表出する攻撃的行為です。
この微妙な差異は、成員の集団への同一化状況を妨げると認識されたときに生起するのです。例えば、「いじめは良くない」という社会規範は誰でも知っていますが、現在自分のクラスで「いじめ」が生起している時は、そのクラスで行われている「いじめ」に同調せざるを得なくなります。これは、フォーマルに規定された規範とは異なり罰則規定がなく、ルールからの逸脱に対する制裁は「いじめ」という形でインフォーマルに行われることになると考えられます。 また、「クラスは結束が強かった」「集団としてまとまっていた」という回答は、第2の因子「規律・結束」の因子です。例えば、「中学校最後の文化祭だから盛り上がろう!」という集団としてまとまりやすいクラスほど、非協力的な生徒は征伐の対象にされています。「集団としてまとまった」クラスでは、一見理想的にみえますが、それに従わない構成要員を「いじめ」の対象とします。「いじめ」が2学期に多いのは、「運動会」「文化祭」「修学旅行」など、クラス全員の規範からはずれた者に対する制裁ではないでしょうか。

3-2.「いじめ」発生から深刻化に向けてのモデル化

「いじめ」の発生段階における状況を、図7のようなモデルで説明できます。
最初は、個人的特性における僅かな差異から、「規律・結束」、「欲求・快楽」等が働き、「いじめ」イメージが共有され、「いじめ」の実行がなされていきます。

いじめの発生段階/いじめの深刻化段階

深刻化していく過程では、前述の「同調性」「報復・保身」が、同一集団内(学級など)により、ますます「優勢な『いじめ』のイメージ」から「いじめ」の実行、その実態が「いじめっ子・いじめられっ子」により、「いじめ」を増幅していきます。

3-3.「いじめ」のイメージダイナミクスモデル

3-2で「いじめ発生段階」、「いじめ深刻化」の段階をまとめ、「いじめ」に関わる諸概念をまとめたのが、図9です。「うち」としての学級で行われている「いじめ」は密室空間としての「閉鎖性」をもちそのことが「いじめ」の可視性を阻み、「そと」には、「厳格な親」「無為無策」の教師が存在し、気がつかないうちに、「いじめ」は更に深刻化していきます。

「いじめ」のイメージ・ダイナミクスモデル

4.「いじめ」問題の解決に向けて

実は、「いじめ」のイメージ・ダイナミクスモデルは、筆者が「地域イメージの形成過程」を適用し、「うち」と「そと」の相互作用による「イメージ形成」の合意形成を理論化したものです。その「うち」が密室になり、「そと」から見えなくなると、起きてしまうということです。

いじめの深刻化段階

ですから、この「いじめ」を早期発見・早期解決するためには、「いじめ許容空間」となったクラスの「そと」へ開放し、親・地域社会・教師のたくさんの目で、「閉鎖性の打破と積極的介入」をできるだけ早くから行い、「そと」との通気性を良くすることにあります。「いじめ」られているとあなたが感じたら、すぐに「そと」に相談しましょう。

本稿は、筆者の著書「いじめのメカニズム」をもとに作成しました。関心のある方は、手にとってみて下さい。
「いじめのメカニズム」田中美子 (世界思想社/2010年)

解説者紹介

田中美子