教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

地域・暮らし

「年金」とは何ですか。

年金とは、定期的に一定の金額を給付する制度のもとで、支払われるお金のことです。
年金制度は、高齢になり働いて所得を得ることができなくなってしまう、障害を負ってしまう、家族の大黒柱が死亡してしまうといったリスクを社会全体でカバーし、所得を保障するものです。年金制度には、国が法律に基づいて行う公的年金と、民間が任意で行う私的年金があります。

「国民年金」には、日本に住む20~60歳までのすべての人が加入します。

公的年金には、国民年金、厚生年金、共済年金があります。国民年金には、日本に住んでいる20歳から60歳までのすべての人が加入しています。厚生年金には会社員、共済年金には公務員が加入します。公的年金制度では、会社員の場合、国民年金の上に厚生年金が上乗されています。なお、平成27 年10月から共済年金は厚生年金と一元化されます。ここでは、国民年金について解説していきます。

公的年金制度は、社会全体で予測できない将来のリスクに備える仕組みです。

私たちの長い人生には、思ってもみなかったような様々な事が起きてしまう事があります。公的年金制度とは、予測ができないような個人にふりかかる将来の事故に社会全体で備え支え合う仕組みです。たとえば、高齢になって働く事ができなくなったときの生活費はどうするのでしょう。老後に備えて貯金をするにしても、何歳まで生きるのかはわかりません。すべての国民がなんらかの公的年金制度に加入する国民皆年金制度が確立したのは、昭和36年のことです。同年の平均寿命は、男性は66.03歳、女性が70.79歳でした。平成24年の男性の平均寿命は79.94 歳、女は86.41歳です。日本人は、人々が想定しなかったほど長生きできるようになりました。あなたは何歳まで自分は生きると思いますか。貯金は使ってしまえばなくなってしまいますが、国民年金は原則として65歳から亡くなるまで給付されます。
公的年金を受給するのは、高齢者になってからだけではありません。地震などの自然災害、あるいは交通事故など、様々な理由により重い障害を負ってしまうことがあります。障害者となってしまった場合、公的年金制度は所得を保障してくれます。また、一家の大黒柱が死亡すれば、路頭に迷うことになりかねません。このようなリスクも、公的年金はカバーしています。
さらに、物価は上昇していきますので、将来、貯蓄は目減りするかもしれません。公的年金制度では、実質的な価値に配慮した年金額が支給されます。

20歳から国民年金の保険料を納めます。

あなたの20歳の誕生日の前月に、日本年金機構から「国民年金資格取得届け」が届きます。この書類に必要事項を記入して提出すると、年金手帳と、さらに国民年金保険料納付書が送られてきます。成人となった皆さんは、年金保険料をコンビニエンスストアや金融機関あるいは口座振替やクレジットで納付することになります。学生の場合は、学生納付特例制度(学特)に申請することができます。この手続きをすると、年金保険料の納付が猶予されます。この期間の保険料は、10年以内であれば追納できます。
たとえば、あなたが交通事故で重い障害を負ってしまったとしましょう。国民年金の障害給付である障害基礎年金の支給を受けるためには保険料を納付した期間についての条件をクリアしなければなりませんが、この制度の承認を受けている期間は、保険料を納めていなくとも未納とはならず、保険料を納付した期間としてカウントされます。

「若い人は年金保険料を納めると損!」と聞きますが本当ですか。

「若い人は、年金保険料として納める金額よりも、将来受けとれる年金額の方が少ないので、保険料を納めるのは損だ。」という声を聞きます。しかし、そのような損得勘定だけで、公的年金制度を考えるべきではありません。先ほど解説したように、公的年金は生活上のリスクをカバーする機能があるからです。
国民年金を管理するお財布には、年金保険料と税金からお金が入ってきます。国民年金を受けとるためには、年金保険料を納付していなければなりません。保険料が未納で、国民年金を受給できないということは、税金から投入されているこの国庫負担分を受けとることができません。

国民年金保険料の納付率は51.8%。しかし実際には、ほとんどの国民は国民年金の保険料を納付しています。

「平成26年5月末の国民年金保険料の納付率は51.8%」と、平成26年7月23日に厚生労働省は発表しました。新聞などでこの納付率51.8%という数字をみて、国民の半数近くが国民年金保険料を納めていないのではないかと思うかもしれませんが、実際にはそうではありません。正確には、「国民年金第一号被保険者の納付率」が51.8%なのです。
国民年金の第一号被保険者となるのは、自営業、学生、非正規労働者そして無職の方です。第二号被保険者は会社員や公務員です。第三号被保険者は第二号被保険者の被扶養配偶者、すなわち、サラリーマンの専業主婦です。第二号と第三号被保険者の保険料は、第二号被保険者の給与から徴収されるので未納にはなりません。各被保険者数は、平成24年度末で第一号被保険者数は1,864万人、第二号は3,913万人、第三号は960万人です。未納・未加入者は305万人ですから、公的年金加入者全体でみたときの未納・未加入者の割合はわずか約5%です。但しこの場合、未納者とは24か月以上の保険料が未納となっている人です。
保険料は追納できます。平成24年度分の納付率は、平成24年度末では59.0%でしたが、2年後の平成26年5月末では63.9%となり4.9ポイントも高くなっています。
また、この納付率は都道府県で異なります。たとえば、平成24年度分については、(26年度5月末で)全国平均は63.9%ですが、納付率が最も高い島根県は76.1%となっています。
所得が低い場合には、申請すれば保険料の免除や減額の制度があります。この保険料の免除や猶予者は、平成24年度末で免除者373万人、学特・猶予者は214万人です。年々、これらの人数が増えていますので、実質的な納付者は減っているという指摘もあります。しかし、国民のほとんどは、国民年金の年金保険料をきちんと納めているといえます。

公的年金の積立金運用方法に国民の目を光らせよう。

私たちの納めた保険料は、私たちの受けとる年金の財源になるのではありません。
若い皆さんの納めた保険料は現在受給している高齢者の年金に使われ、皆さんが高齢者になったときに受けとる年金はそのときの現役世代が負担する方式を賦課方式といいます。日本の公的年金制度は、賦課方式を基本とした財政方式で運営されることになっています。つまり、日本は完全な賦課方式ではありません。保険料は積み立てられてもいます。
平成25年度末の国民年金と厚生年金の年金積立金資産額は154.5兆円です。そのうち126兆5,771億円(平成25年度末現在)は年金積立金管理運用独立行政法人によって管理および運用されています。この年金積立金は国内外の債券ばかりではなく株式投資などでも運用されています。そして、その運用委託先は国内系よりも外資系ファンドが多くなっています。
かつて、旧年金福祉事業団(年金資金運用基金)が年金保険料の3,727億円(建設費用だけで1,914億円)を投じたグリーンピアという大規模保養施設(13カ所)は、わずか約48億円で売却されてしまいました。
大切な年金積立金が無くなってしまわないように、私たちは資産運用のあり方に目を光らせていく必要があります。

【参考】

【参考文献】

  • 厚生労働省年金局・日本年金機構「平成24年度における国民年金保険料の納付状況と今後の取組等について」(平成25年6月24日資料)
  • 駒村康平・丸山桂・齋藤香里・永井攻治(2012)『図解入門ビジネス 最新社会保障の基本と仕組みがよ〜くわかる本 [第2版]』秀和システム

解説者紹介

齋藤香里