政策スパイラルの創造
今日の地球規模で生起する社会文化的大変動を見たとき、この現象を明らかにするためには、従来の個別諸科学の観点を超えた、より包括的かつ多元的なアプローチが要請されてきています。加えて新しい状況に対応した問題解決に至るまでの提案・実行・評価を視野に入れた革新的な生きた学問が必要となってきています。最近では、複数の個別諸科学を相互に関連させ、あるいは境界を超えて交流させる狙いをもって、学際的(Interdisciplinary)な教育を行う大学も新設されてきてはいます。しかしながら、それらの学際的な試みも、旧来の個別科学の発想と方法になお強く拘束されており、専門閉塞の弊は依然として解消されていません。そのために、得られた成果は限られた範囲に留まり、画期的な知的創造の兆しに乏しいように思われます。伝統的諸科学の限界を超え、新たな知の創造的地平を拓き、問題解決のための政策研究の高度化を推進するためには、次の課題に応えなければなりません。
総合的把握
知の再編成
伝統的な個別諸科学に依拠したままでは、対象世界の複雑かつ多元的な問題に有効に対応できません。そこで既存の個別科学体系を超えて、総合的把握をめざす知の再構築が必要となります。これを知の再編成(Recodification of Episteme)と呼びます。複雑な対象世界が提起する問題に道筋を見い出すためには、伝統的な個別諸科学に囚われない問題発見を行い、知の再編成をすることが必要不可欠です。そのためには対象世界を包括的かつ多元的に把握する必要があります。細分化された学問の限界が明らかであるいま、対象世界の要請にもとづいて適切な知の再編成を行わなければなりません。
実学の重視
問題解決・実践型教育の確立
既存の個別諸科学は、対象の客観的分析をもってもっぱらその任務としてきました。問題の分析は、問題解決への一歩ですが、問題解決そのものではありません。問題を発見し、分析し、解決していくまでの一連の知的課程を学問的に統合していくことが重要です。現実に問題解決までを包含する学問を「実学」とすれば、新たな時代に要請されるのは、問題解決を行い、結果を評価して、新たな問題発見に向かう発展的なサイクル、すなわち実学のスパイラル(Spiral Evolution of Practice)のダイナミズムを確立することです。個別諸科学を超えた知の再編成を通じて、実学のスパイラルを形成し、教育していくことが新時代の緊要な課題となっています。つまり、観照的・分析的な知から、参加し実践する知へと転換することが必要なのです。
建学の祖・遠藤隆吉が謳う「実学」とは、まさにこうした世に役立ち、世に問いかけていく学問に他なりません。また遠藤隆吉がかかげた「生々主義」の哲学を発展させ、学問と対象世界との生きた接点を創り上げていく必要があります。
政策研究高度化の推進
政策スパイラルの展開
「政策」とは、政府や行政組織の政策に限られるものではなく、むしろ人間行動を幅広く対象とする一般化された概念です。環境に不満を感じたり、問題を発見することがあった時、人間は良好な関係を求めて外部環境に働きかけたり、あるいは自らを変革しようとする行動を起こすことは、人間特有のことです。そこに介在し、媒介するのが言語とデータであり、その集積が情報です。そしてこの情報によって計画を策定し、それを実行する行為こそが、政策(Policy)そのものなのです。
「政策」の概念は、主体の軸においては、個人から集団・組織、政府、国際機関に至るまで、また問題領域の軸においては、私的・個人的問題から、公共的あるいは国際的な問題に至るまでをカバーする広い適用範囲を持っています。政策研究科の教育・研究においては、問題発見・問題設定・政策立案・実行・評価から問題の再設定に至る発展的反復のプロセスを「政策スパイラル」と呼び、知の再編成の中核においています。
政策研究の拠点形成
政策研究の社会貢献
これまでわが国では、このような実践的な政策研究について、研究の飛躍を可能とするような知的集積が不十分でした。また、実社会に対して有効性を持つ教育・研究も十分に行われてきたとはいえず、この分野の学術研究が実社会の動きと乖離してしまっているという事実は否めません。
本研究科では、現実の政策課題に対応するに際して、「政策スパイラル」という実際の政策実践を大学院の研究対象とし、この分野における高度な学術研究の成果を身につけた専門家の養成を使命としています。政策研究のための人材や資源を集積し、研究水準の飛躍的向上の実現する研究体制を整備し、政策に関する教育・研究の拠点を形成することをめざすものです。併せて、政策分析ネットワーク学会との緊密な連携により、最新の世界の政策情報に触れ、情報を発信し、社会に貢献することを目途としています。
政策研究分野を支える人材養成
このような新しい政策課題に適切に対応できる政策分析・企画能力に優れた高度な専門家であり、同時に国際的に評価される博士号を持つ人材の組織的養成の必要性が、とみに企業、行政機関、国際機関などから指摘されているところです。また新たな時代に対応する政策研究者養成の面においても、必ずしも十分とは言えないのが現状です。それゆえ、現実的課題に対する問題解決型の高度な専門化・研究者の養成機関が必要とされています。
このように、本研究科では、政策研究に焦点を絞った総合的な教育研究を展開し、政策研究の飛躍的な進展を図るとともに、この分野の専門的研究者や、優れた政策分析・政策企画能力を持つ高度な専門家の養成および再教育という社会的要請に応えるものです。
構成的な教育・研究指導
政策研究科は、後期3年の博士課程のみの研究科であり、研究分野は、総合的に広い学問的領域にまたがっている特色を踏まえ、専攻分野に囚われることなくさまざまな学問領域の修士課程修了者を受け入れます。また、政府諸官庁、地方自治体、国際機関、民間企業、研究機関等において優れた研究成果をあげている社会人や政策研究をグローバルな視点から推進するうえで、外国人留学生を積極的に受け入れています。
特に社会人に対して、政策実践の高度な能力を開発されることは本研究科の重要な使命と考え、広く門戸を開き、実践的な研究の推進をめざしています。
教育・研究は、政策研究の基本概念を各政策分野から学ぶことと同時に、総合的な判断力のベースとなる広範な知識技能を修得させ、その上にケーススタディやフィールドワークなどの実践的な研究指導を行い、各学生の政策関心領域に対する論文作成を個別的に指導していく態勢をとっています。
本研究科では、優れた実績と成果を伴った学生は、1年で博士号を取得することも可能です。また、企業、官公庁などに勤務する社会人が職業に従事しながらでも博士号が取得できるよう、土曜日に授業を集中するなどの配慮をしています。
教育および研究指導の方法
(1)セメスター制の導入
3年間の博士後期課程の教育および研究を集中的に行うために半年単位(春学期、秋学期)のセメスター制をとります。
(2)アドバイザリーおよびナヴィゲーター制度
アドバイザリー制度は、入学当初の第1セメスターにおいて、各学年ごとにアドバイザーとなる教員をおくもので、この教員をアドバイザリー教授と呼びます。 また、ナヴィゲーター制度は、第2セメスター以降、プロジェクト演習および博士論文作成指導において、学生の主体性を重んじると同時に効率的な研究を推進させるために、教員をナヴィゲーターとして配置するものです。この教員をナヴィゲーター教授と呼び、第5・6セメスターの博士論文作成指導において特に重点指導する教員を主ナヴィゲーター教授と呼びます。
学修・教育環境
本学大学院では、大学院生専用の共同研究室を用意し、より良い学修・研究環境を提供できるように配慮しています。
各研究室には、個人机、共有の本棚および無線LANを整備しています。
さらに図書館には、一般閲覧室、大学院生共同研究室を設置しているほか、地下書庫、統計資料室等も教職員と同様に利用できる環境となっています。
大学院生には、全員にインターネットが利用できるメールアカウントを付与し、学内のPCを自由に利用できる環境を整備しており、学生の都合に応じて、いつでも、どこからでも学修・研究が可能となっています。