複雑かつ多岐にわたる社会課題に、持続可能で包摂的な解決策を講じられる人材を育成すべく、院生のチャレンジを支える教育を展開しています

政策情報学研究科委員長 朽木 量

現代社会は複雑かつ多岐にわたる問題を抱えています。そうした社会課題の解決のために学問は発達してきました。その中核をなすのは長らく近代科学でありましたが、それだけでは解決し得ない問題群が、特に21世紀以降に提示されてきています。もともと自然科学の分野で進められてきた近代の科学的思考は、19世紀後半から20世紀頃には人文社会科学の各分野における研究にも適用されるようになります。政策研究においても同様であり、その一つに、これまで科学的で合理的な政策決定という課題がありました。ラスウェルは、「社会における政策作成過程を解明し、政策問題についての合理的判断の作成に必要な資料を提供する科学」として政策科学を提唱し、ドロアは「体系的な知識、構造化された合理性および組織化された創造性を政策決定の改善のために貢献させることに関わる科学」として政策科学を定義しました。いずれにおいても、合理的な判断に基づこうとしています。しかし、政策情報学はそうした既存の政策科学的な思考を超克するために構想されました。近代世界(モダン)に蔓延する科学的思考に捉われることなく、多様な価値観や異なる立場の人々に対して持続可能で包摂的な解決策を講じるべく、ポストモダンな現代社会の実情に柔軟に対応することが求められたためです。
したがって、政策情報学の特徴を考えるとすれば、対応すべき課題が多元的であるので、一義的に定義することは出来ず、(1)超領域的、(2)多元主義、(3)大衆目線の重視、(4)全体論的思考、(5)日常的実践への着目、(6)物語性重視、(7)場所性重視、(8)重層的非決定、(9)コンヴィヴィアルな社会の顕現などといったキーワードの内のいくつかが重なり合って生じる多義性のうちに成立しているといえます。こうした、一見すると複雑な知の体系の中からこそ、現代社会の課題解決策は生まれるのではないでしょうか。

政策情報学研究科においては、2つのコンピタンス(高度専門能力:ポリシー・コンピタンス、コミュニケーション・コンピタンス)を習得することで、先に述べた9つの思考などからなる解決策を提示できる力を養成します。異なる人物・組織・機関との効率的な伝達と調整能力、そして社会の動向にあわせた能力の習得を支援するための体制を確立し、今日の複雑で多元的な諸問題に対処するため、問題設定、戦略立案、実行、評価等により、専門的閉塞型の個別科学を超えた超領域あるいは諸科学横断的な「知と方法」の開発及び創造能力を育成します。
こうした意味で、既存の学問の枠にとらわれない、新しい知の体系で学ぶ諸氏・諸君を歓迎します。